金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している ~平凡冒険者の迷宮スローライフ~

結城絡繰

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第82話 勝負を挑まれてみた

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 まさかの展開だった。
 討伐者探しから勧誘に移るとは思わなかった。
 周囲もどよめいている。
 聖騎士という有名人から直々に誘われる機会なんてまずない。
 それだけ実力が認められた証拠なのだ。

(ビビを勧誘するなんて見る目があるな)

 俺は聖騎士に感心する。
 やり取りの内容を聞くに、魔力からビビの力量を測ったらしい。
 戦った姿を見たわけでもないというのによく分かるものだ。
 いい加減に声をかけたのでなければ、相当な観察力の持ち主である。

 勧誘を受けたビビは特に表情を変えない。
 彼女は俺の腕に抱き付きながら答えを告げた。

「騎士団には入らない。私にはご主人がいるから」

「ご、しゅじ……ん……?」

 聖騎士が驚愕した顔になる。
 そしてゆっくりと俺を見やった。
 まるで初めて存在に気が付いたとでも言いたげであった。
 顔面蒼白の聖騎士は掠れた声でビビに尋ねる。

「あなたはこの男に従っているのか」

「うん。私はご主人の奴隷」

「なにっ!?」

 聖騎士が勢いよく立ち上がった。
 今度は一転して憤怒に駆られている。
 彼は射殺すさんばかりの気迫を以て俺に話しかけてきた。

「今の話は本当か」

「……ああ」

「こんなに素晴らしい女性を騙して奴隷にしたのかッ!」

「違う」

「じゃあどうだっていうんだ! ビビさんがお前のような男の奴隷だなんておかしいじゃないか!」

 聖騎士は声を張り上げて主張する。
 なんとも自分勝手で視野の狭い考え方だが、それを言えば殺されるのは俺だ。
 至近距離で高まる魔力は人外のそれに近い。
 聖騎士の名は伊達ではないようだ。
 ギルド全体を軋ませるほどの力が張り詰めていた。

(駄目だ。頭に血が昇っている。正論で説き伏せるのは難しそうだ)

 これはどうしたものか。
 下手なことを言うと大惨事が起こりかねない。
 対応に困っていると、聖騎士が絞り出すように宣言する。

「……決闘だ」

「何」

「僕と戦え。ビビさんの尊厳を懸けた勝負だ。もし僕が勝ったらビビさんを解放してもらう。彼女に冒険者の奴隷なんて似合わない」

 聖騎士が踵を返した。
 緊迫した空気の中、彼は出入り口で立ち止まる。
 振り向いた聖騎士は殺気を隠さずに告げる。

「逃げるなよ。地の果てだろうと、必ず僕は追い詰めるからな」

 それだけ言い残した聖騎士はギルドから出て行った。
 静寂に包まれた室内に再び喧騒が戻ってくる。
 一部の人間は愉快そうに俺達を見ていた。
 同情の雰囲気もあるが、ほとんどが新たな暇潰しと考えているに違いない。

 俺はため息を洩らして水を飲む。
 それから小さな声でぼやいた。

「何だったんだ……」

「決闘なんてどうでもいいよ。旅行の話、しよう?」

 ビビは気にしていない様子で食事を再開する。
 彼女の記憶からは、既に聖騎士が排除されつつあった。
 俺はもう一度だけため息を吐いた。
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