金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している ~平凡冒険者の迷宮スローライフ~

結城絡繰

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第94話 英雄に反撃してみた

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 光線を受けた俺は鋭い痛みでよろめく。
 反射的に胸部を手で押さえると、外套に円形の穴が開いていた。
 縁が焦げ付いており、光魔術の高熱で焼かれたのが分かる。

 着込んでいた竜の防具は破損していない。
 ビビの付与してくれた風の防御は、少し削れている感覚があった。

 聖騎士は余裕の笑みを浮かべている。
 彼は嘲るように言った。

「良い防具だな。今ので死ななかったのか」

 それを聞いた俺は理解する。
 今の初撃は、防具がなければ心臓を貫かれて即死だった。
 油断してはわけではない。
 聖騎士の力が想定をさらに上回っていたのだ。

 単純な術の威力だけではない。
 俺が反応できなかったのは、あの自然な動作に攻撃の意志を感じなかったからだ。
 あれだけ殺気を見せているのに気付かなかったのはおかしい。

 聖騎士はただの剣士ではない。
 おそらく何らかの暗殺術も習得しているのだろう。
 相手の意識の隙間を狙う技能だ。
 初歩的だが俺も似たようなことができるので間違いないと思う。

(厄介だな……搦め手も得意な戦士だったか)

 俺はゆっくりと剣を引き抜く。
 聖騎士は追撃せずに悠々と立っていた。
 その表情にはさらなる余裕がある。

 最初の光線で互いの実力差を確認し、わざわざ全力で殺しにかかる相手ではないと判断したのだろう。
 その目には嗜虐的な色が滲む。
 俺を限界まで叩きのめすつもりなのだ。

 真剣勝負ではない。
 向こうは公開処刑の場だと認識を改めた。
 聖騎士の視線はビビに向けられている。
 己の圧倒的な強さを誇示して、彼女を射止めるつもりなのだろう。

(先手を取られたが、悪くない展開だ。聖騎士の油断を誘うことができた)

 元より不利なのは承知の上だ。
 僅かに生まれた慢心を全力で突くのが俺のやり方である。
 この隙を最大限に活かすしかなかった。

 俺は風属性と雷属性の同時発動し、予備動作無しに前進した。
 隙だらけな聖騎士の目前へと一気に迫り、さらに防壁の指輪を使用する。
 勢いを乗せた防壁が聖騎士と衝突した。

「ぐっ!?」

 仰け反った聖騎士は反撃の姿勢を取ろうとする。
 その前に俺は防壁を解除し、懐から掴み出した小瓶を放り投げる。

 聖騎士はすぐさま小瓶を切断する。
 中身の粉末が散布したのを見て、俺は魔術の風を起こした。
 指向性を持った粉末が、聖騎士の呼吸に混ざって体内へと入る。
 咄嗟に息を止めていたが一瞬だけ遅かった。

 俺は驚愕する聖騎士に宣告する。

「今のは劇毒だ。死にたくなければ俺を倒してみろ」

 それを聞いた聖騎士の顔が赤紫色に染まる。
 毒の効能か、或いは恐怖と激昂が混ざったのか。
 とにかく聖騎士の心から慢心は抜け落ちた。
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