上 下
1 / 10

年越しジャンプ

しおりを挟む
「一足先に年を越えてやる!!」

そう言って、元気よく笑いながら辰巳さんは走り出した。
坂道のカーブ。

終業式を終えた僕らは、家が近所なので仕方なくいつも一緒に帰っていたんだ。
だって田舎の道は暗くなるのも早いし、街灯も少ない。
「年頃の娘さんに何かあったらどうするの?!」
これが母さんの口癖だった。
でもどう考えても、モヤシみたいな僕と走り幅跳び選手の辰巳さんじゃ、辰巳さんの方が強いんだけどね。

元気よく走った辰巳さんがちょっとした段差をジャンプした。
僕は飛び降りる度胸もなくて、坂道のカーブを急いで走って追いかけた。

「……あれ?……辰巳さん??」

けれど、飛び降りたはずの位置に辰巳さんがいない。
僕を脅かそうと隠れていると思ってあちこち探したが見つからない。
だんだん焦ってきた僕は電話をかけた。

「すみません。宇佐美です。辰巳さん、帰ってますか?!」

怒って僕を置いて先に帰ってしまった事もある。
今回もきっとそうだと自分に言い聞かせる。
ドキドキと嫌な鼓動。
おばさんが確認して答えてくれるまでのほんの僅かな時間が永遠のようだった。

「宇佐美くん?!まだ帰ってないけど、何かあったの?!」

僕の全身から血の気が引いた。
貧血みたいになって、頭が真っ白になった。

「宇佐美くん?!宇佐美くん、大丈夫?!今どこ?!」

おばさんの声にハッとする。
僕は状況を必死に話した。
その声は震えていた。

ジャンプした辰巳さんは、消えてしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

猫と話をさせてくれ

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

異世界に落っこちたので、ひとまず露店をする事にした。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:48

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:19

イラストから作った俳句の供養

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

小さなうさぎ

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

星を旅するある兄弟の話

SF / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

処理中です...