竜と生きる人々

ねぎ(ポン酢)

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黒き風と生きる

いつか帰る空

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あれから十年の時が過ぎた。
デルフトは街の隅にある集配所の窓から空を見つめる。

ここから見る空ももう見慣れた。
山よりも遠く見える空。

何年経とうと一度として山の空を忘れた事はない。

「よ!デルフト!」

「おやコートさん。早いお戻りで。」

コートは今でも俺達を気にかけてくれていた。
俺も大人になったし、コートが実は結構偉い人だと知ってからは、ちゃんと「コートさん」と呼ぶようにしていた。

でも昔と変わらず、あの頃より少し老け顔になったコートは男前に磨きがかかっただろうとか平気で言う様なおっさんだ。
特に依頼がある訳でもないのに、当然の様にドカッとカウンターの向かいの椅子に座る。
俺もいつもの事だと何も言わずにお茶を入れた。

「あんがとよ。でも茶より酒だともっと嬉しいんだがな。」

そう言いながら、内ポケットから携帯用のブランデーを取り出してお茶に混ぜる。
俺のにも入れようとするので、さっと手をかざして防いだ。

「何度も言ってるだろ?飲酒飛行は営業免許停止だって。」

「つまらんなぁ。お前が成人したら潰れるまで飲み明かそうと約束しただろうが。」

「はいはい。竜使いになった以上、叶わぬ夢だよ。」

「仕事が終わってんならいいじゃねぇか?!」

「残念ながら俺は緊急時通達特員でもあるからな。仕事が終わっても潰れるまでは飲めないね。」

「つまんねぇなぁ~。」

そうぶつぶつ言うコート。
いったいこのおっさんは何しに来たんだよ??
そうは言っても、本当の意味で自分の過去を知る唯一の人だ。
会えて嬉しくない訳ではない。
他愛もない今回の任務の話を聞き流しながらそんな事を思う。

「……そういや、新人任されたんだって?」

「ああ。」

「お前がねぇ~。大丈夫かよ??ラシャ相手だろ?!」

「案外、上手くやってる。」

「……マジか?!シクリ種の古代竜相手だぞ?!」

「俺もスカイが平和ボケした森竜のネーリヤ種って聞いた時は、三日と持たないだろうなって思ったんだけどさ~。ははっ!これがまた!意外と根性あるし肝っ玉座ってんだよ!!平気でチビに喧嘩売ってくるしさ~。」

「チビってお前なぁ~。」

そう言われてはっとする。
ついコートと話していたので、名付ける前のあだ名で呼んでしまった。

「昔はちゃんと小さかっただろ?」

「いや、確かに今よりは小さかったけどよ?昔も普通にそこいらの子竜より大きかったぞ?!」

「古代竜の中では小型だろうが。」

「比べるもんがちげぇだろ。」

俺の言葉にコートは飽きれたようにため息をつく。
まぁ俺も、よくアレを「チビ」なんて呼んでたなぁと思うよ。

「…………。まさかお前が宅配業務部とはな……。」

「古代竜としての防御力や攻撃力より、シクリ種としての速さを全面的に押したからな。竜使いの竜で、ラシャより速い竜はいない。まぁそのせいで、緊急時通達特員っていう余計な肩書きつけられたんだけどさ。」

「仕方ないだろ。ラシャにはお前以外乗れないんだからよ。」

俺以外乗れないというのは、二通りの意味がある。
一つは絆があるのが俺だけで、気難しい古代竜はほぼ同乗すら許さないという意味だ。

そしてもう一つは、普通の人はシクリ種のトップスピードに体がついていかないのだ。
どんなにベテランの竜使いでも、トップスピードに入る前に息が吸えなくなって気絶する。
高速系の竜を操る竜使いが呼吸補助具をつけていても駄目だった。

俺は生まれ育ちが標高の高い山の上だったせいか、それに耐えられる。
流石にトップスピードで長時間というのは呼吸補助具をつけていないと無理だが、何故か俺はシクリ種の飛行に耐えられるのだ。

「……まぁ、選ばれるべくして選ばれたパートナーって事だよな。」

「いや?チビは絶対そこまで考えてない。」

「お前な……せっかく美談的に話をまとめたのによ~。」

いい話的にしみじみ言ったコート。
俺はそれをへし折った。

だって考えてもみてくれ。

あんなお馬鹿なチビだぞ?
ひっくり返って駄々こねるようなチビだぞ?
ワガママ放題だったあのチビだぞ??

そんな運命的な美談になる訳がない。

「だったら、何でお前が絆の相手に選ばれたんだよ?デルフト?」

「単に生まれた時、そこにいたってだけだ。」

「なら、生まれた時にお前がそこにいたのが運命だったんだろ。」

その言葉に俺は何も言えなかった。

チビが生まれた時、俺は確かにそこにいた。

村の皆の死。
黒き風。

そしてチビは生まれた。

それは運命だったのだろうか?
俺にはわからない。

ただわかっている事が一つだけある。




コートが帰った後、俺は世話をしに厩舎に向かった。
チビは今や、余裕で俺を乗せて飛べるほど大きくなった。

あの時見た、黒き風と同じ様に……。

我儘でひっくり返って駄々こねていた面影などなく、立派な「黒き風」に成長した。
動作や感情も、すっかり大人びている。

でも……。

「ギューッギュッ!!」

「はいはい、わかったわかった。駄々こねんな。」

俺に対しては今でもたまにそういう顔を見せる。

投げてやる肉のスピードが遅かったのか、途端に不機嫌になってダンダン足を踏み鳴らす。
流石にガキみたいにひっくり返ったりギャーギャー騒いだりはしなくなったが、相変わらず文句の多い奴だ。

「そんな我儘言ってると、スカイに笑われんぞ?」

こんな姿、組合の皆や新人のカディスが見たら、びっくりしすぎて腰を抜かすんじゃないかと思う。

「ギュギュッ?!」

「……別に誰にも言わねぇよ。言ったところで誰も信じないだろうし。」

古代竜のプライドなのか、外面だけは硬派なんだよな、コイツ……。
昔コートがおっかないと言っていたアレも、単なる外面だったんじゃないかと思う。

食事を終え一息ついたのか、珍しく顔を寄せて甘えてきた。
コートに会ったせいで、頭の中でチビと呼び名が戻っていた事もあり、俺もそれを寛容に受け止める。


「……いつか……帰ろう……。あの山に……黒き風のいる場所に……俺達の山に……。」


互いの額を合わせる。
今はラシャと呼んでいる俺の大きなチビは、何も言わずに頭を俺に擦り付けて甘えていた。
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