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命の重さ

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「君は簡単に人を殺すよね。」

僕の話を読んだ君は、無感情にそう言った。
特に厭味ったらしい訳でも嫌悪感を持っている訳でもなく、淡々と。

「厭世的なテーマが多いからね。」

「そうだね。そしていつも残忍な描写を好むね。」

「世界に絶望してるのさ。」

「うん。そうだね。」

君はどこか心ここにあらずといった感じだ。
ここにいるのにとても遠くにいる。
どこかを見つめ、希薄な存在でそこにいた。

「……君も書くだろう?」

僕はそこに君がいる事を確かめたかった。
どんなに希薄で明後日を見つめていても、ちゃんとそこに君がいるのだと。

君はふと気づいたように瞬きし、僕に顔を向けた。
そして目が合った。

「書くよ?知ってるだろう?」

「うん。知ってる。」

僕はほっとして息を吐いた。
君がここにいる事が僕には嬉しかった。

けれど……。


「君はさ、何かを殺した事があるかい?」

「……え?」

「その手で、何かの命を奪った事はあるかい?」


物憂げに呟いた君の言葉。
その言葉は冷たく、そして温もりを持っていた。

けれどそれは決定的だった。
僕と君が、とてつもなく遠く離れているという証明だった。
こんなに近くにいるのに、僕と君は地球の真裏ほど距離があるのだと。

それでも僕は足掻いた。
君の側にいたかった。


「……君は、あるのかい?」


その答えを知りながら、僕は足掻いた。
君を失いたくなくて僕は足掻いた。

でも……。



「あるよ。」



君は答えた。
遠くを見つめながら何でもない事のように。

「人は知らないだけさ。自分が生きる為にどれだけ多くの命を奪っているのかを。いや、違うな。知らないふりをしているのさ。」

何も言えない。
僕には何も言えなかった。

「何かの命を奪う事に正義なんかない。どんなに正当な理由があったって、実際、命を奪うその行為は残忍で血みどろさ。肉食獣が草食動物を狩ってその身を引きちぎって食らう。血濡れた営みだよ。それでも、生きる為にはそうする必要がある。そうせざる負えない。そこに正義なんかない。あるのは生々しい生と死だよ。だから誰もがそこから目を背けるんだ。」

あぁ……。
こんなに近くにいるのに、君は果てしなく遠い。
その事がただ悲しい。

「誰だって綺麗でいたい。その方が幸せだから。」

僕にはわかる。
たとえ遠くに君がいようと、君の近くに僕はいたのだから。

君は許せなかったんだ。
そんな自分が許せなかった。

見てみぬふりをして綺麗でいる事が許せなかったんだ。

「……命を奪うって言うのは綺麗事じゃない。たとえどんなに必要な事であっても、たとえどんなに正当な理由があっても、そこに正義なんかない。」

迷いない言葉。
君の手はそれを知っている。
その苦悩を知っている。

「……それでも、何も見ずに綺麗なまま生きるより、この手に罪を背負った事に後悔していない。」

君は知っているのだ。
生と死を。
そこにある生々しい現実を。

だから君は、いかなる時でも命を軽率に扱ったりしないのだ。

たとえ果てしなく遠くにいようとも、手を血に染め罪を背負った君は、薄っべらい倫理観の中の綺麗事よりもよっぽど美しいと僕は思った。
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