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本編
第16話 真相
しおりを挟む日月が、旅行先の海外で行方不明になった。
その報せをマネージャーから聞いた時、一瞬、世界が真っ黒な色で塗り潰されたような気がした。
取るものも取り敢えず実家に帰ると、父が泣き崩れる母に寄り添い、友香も夫の悠生の傍で目を真っ赤にさせて泣き腫らしている。
氷高夫妻と長期の海外旅行に出掛けた日月は、ほんの少し目を離した間に夫妻の前から居なくなり、必死で探したところ、流れが速く、水の濁りも良くない川の淵に人間が滑ったような跡と、日月が被っていた帽子と肩に下げていたポーチが、取っ手の部分が切れた状態で発見された。
川に落ちたと推測され、地元警察の協力も得て、大規模な捜索をしているが、まったく見付からない、ということ。
元々、「危険」という看板も立っているほどの場所で、慎重な日月がどうしてそんな所に行ったのかもわからない。その日は風が強かったため、帽子が飛ばされての事故だったのではないか、と言っている声を、どこか膜を隔てたような感覚で呆然と俺は聞いていた。
二週間待っても、一向に良い連絡はなく、氷高夫妻が泣きながら、
「発見は絶望的だ」
と現地警察に頭を下げられたらしい。
いつの間にか、俺はアトリエに戻って来ていた。
何もする気が起きない。食事をすることも、寝ることも、絵を描くことも。
そのまま、数日間、椅子に座り込んでいた自分を呼び戻したのはマネージャーの揺さぶりだった。
見ると、マネージャーの目も、メイクで隠しているつもりなのだろうが、赤かった。マネージャーも、日月を可愛がっていた一人だったと、その時初めて思い出した。
半年以上依頼した絵が描けない俺に、先方のクライアントが話をしたい、と申し出てきているのだそうだ。どんなことがあろうとも、仕事を疎かにするわけにもいかない。
俺はほとんど働かない頭でクライアントが用意した専用飛行機に乗り、クライアントの元まで行くこととなった。
俺の絵を夫妻でファンだという海外の大富豪は、ザッカリー・ジェイコブという人間で、カッチリとしたオーダーメイドのスーツを着こなし、ブランド物のネクタイを付け、それが嫌味に映らないほどの美丈夫だ。
俺が到着して早々、取り敢えずの寝食と風呂を用意され、断ることも出来ずに受けた。
翌日、話し合いをするものだとばかり思っていた俺は、何故かジェイコブの大豪邸の離れの離れにある地下室に案内されていた。
・・・外部に漏れると良くない話でもあるのかもしれない、と考えていた俺は、外側から開けられた重厚な扉の中にある部屋を横切り、入った部屋で瞠目し、身体が動かなくなった。
その部屋は寝室で、ベッドには行方不明になったはずの日月が、ファー付きの手錠で拘束され、霰もない姿で寝入っていた。
俺はほとんど無意識にジェイコブに掴みかかっていた。
『大丈夫ですよ。日月さんには何もしていません』
『どうして川に落ちて行方不明になっているはずの日月がこんな所に居るんだッ?!』
『そういう風に見えるように完璧に工作をして、ワタクシの命で連れて来られましたから』
ジェイコブの言いたいことが何一つわからない。
『彼女でしょう? 貴方のスランプの原因は』
その言葉は、悠生がかつて俺に突きつけてきた時と同じ意味を伴って俺の身体を強張らせた。訊いているのに、言葉は確信している。
『・・・・・・日月は・・・関係ない』
『ワタクシには関係があるようにしか見えません。それで貴方がスランプに陥って筆を取ることも出来ないのならば、此方としては大いに困る』
『それだけの理由で日月を此処に連れて来たのか?!』
『ええ、そうですよ』
穏やかに微笑むジェイコブに殺意すら湧いてくる。
『犯罪、というモラルなど関係ない。ワタクシも、最愛の者を守るためには手段を選んではいられないのでね』
その言葉に、激しいほど燃え上っていた怒りが収まり、ジェイコブと顔を真摯につき合わせることが出来た。
ジェイコブの妻は身体が弱く、ほとんど外界を知らずに育った。
それを聞いた時、まるで日月のようだ、と思ってしまった。
俺の絵がキッカケで出会い、暁の絵に励まされてきた、と言われても、ピンとこない。
その妻が、一年前から容体が思わしくないらしい。だから、依頼の絵の内容が、
「温かみのあるもの」
「命の喜び」
というものだったのかと得心した。
『貴方のことは調べてすべて知っています。・・・このまま日月さんを連れて日本に帰国するのもいいでしょう。ですが、それではまた二度と日月さんには会えなくなりますよ?』
自分の身体が面白いくらいに反応してしまう。
『間違えたのならば、やり直せばいいのです。此処ならば、煩わしいものは一切ない』
俺はベッドで眠っている日月に視線を移した。
その寝顔は成長して「女性」というものに変化しても、幼い頃の面影は消えない。
出来るならば、日月と昔のように笑い合いたい。けれど、それは不可能だと理解もしている。ならば・・・。
『このグラスには気付けの水と一緒に即効性の催淫剤も入っています。この瓶に入っているのも同じ成分で出来たものです。身体に良くないものは交じっていません』
部屋から出て行こうとするジェイコブは、振り返り、俺の肩に手を置き、ニコリと笑う。
『此処に居れば、日月さんは貴方だけのものだ。ああ、ついでと言ってはなんですが、あの騒々しい蠅同然のモデルも此方の方で手を打っておきます。・・・何にも心配されることはありません』
フラフラとした足取りで、日月が眠っているベッドの脇まで歩いて行く。
これほどの喧騒で起きない、ということは何か薬を飲まされているのだろう。
日月の綺麗な黒髪を掬い上げると、日月の瞼がユラリ、と開く。
「・・・暁・・・さん・・・」
夢現な日月の呟きに、俺は俯き、けれどすぐに顔を上げる。
・・・・・・覚悟は決まった。
気付け薬と催淫剤の入った水を飲み干すと、日月は意識をハッキリさせ、俺のことを「画伯」と呼ぶ。
恐らく無意識下で使い分けているのだろう。その言葉一つで、俺は行動に移った。
日月に口付けと身体への愛撫を繰り返し、用意された瓶も使用する。
日月の破瓜の血を見た瞬間、心が喜びで叫んでいるのを感じた。昏い昏い喜び。
「はぁっ・・・んッ。ああぁ!」
快楽に染まった日月の姿は想像を絶するほど扇情的で、俺は煽られ続ける。
既に数えきれないほど精を吐き出し、結合部からはニチャニチャという音と共に、精液が溢れて零れ落ち、白く泡立っていた。
手錠の鍵は寝室の引き出しの中に仕舞われていて、既に拘束を解いていたが、日月は薬の影響からか、俺の与える行為に没頭し、陶酔している。
日月の身体の至るところに所有の証をつけ、腰を動かして最奥に自身を押し付け、また吐精する。
どんなに抱いても、抱き足らない。ずっと餓えている。
妃奈や他の関係を持った女には感じなかったこと。深いキスをして、実感する。
やっと手に入れた。
「日月・・・・・・、愛してる」
俺の呟きに答えるように日月の目から流れた一筋の涙を舌で拭った。
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