菜の花散華

了本 羊

文字の大きさ
23 / 56
本編

エピローグ 想いの生まれ

しおりを挟む


その日、日月はとても緊張していた。


 養父母からの打診で婚約者となった義兄、暁は普段はとても優しいが、絵を描き始めるとその世界に入り込まれることを嫌う。
そういった時の暁の瞳は、とてつもなく冷たいものとなることを、新しい家族との暮らしに慣れ始めた日月は知っていた。


 数日前から、身体の弱い日月を気遣って家族で自然風景豊かな海外の別荘に来ていた。
 今日は車窓から一目見た時から惹かれていた、広大な菜の花畑へとやって来た・・・・・・、のだが。
 養父母は地元の人達との挨拶交流、もう一人の義兄の悠生は旅行に一緒に連れだって来た幼馴染で婚約者の友香と、街へ買い物へと出掛けている。
 必然的に暁が日月のお守り役を任されたのだが、最初は何も心配はない、と思っていた日月も、どうしたものかとオロオロしてしまう。


 暁は菜の花畑に到着した直後は普通に景色を眺めていたが、暖かい日の光が強くなってきた時、いきなり持ってきたデッサン帳に絵を書き殴り始めたのだ。
 何かが暁の琴線にふれたのだろう。
とはいうものの、オロオロしていても現状が変わるわけではない。



 一人でも楽しもう! 



そうやって決めてしまえば何も怖く感じることはなく、日月は菜の花畑の中へと突進して行った。







 日が傾きかけた時、暁の日月を呼ぶ声が響き、日月は菜の花畑から顔を出した。
 白いツバの広い帽子に菜の花の冠を被せ、腕や指にも菜の花で作った腕輪や指輪を嵌めて、笑顔で現れた日月の姿に、暁は何かを考え込むようにして、一言口にした。



 「・・・・・・お陽様の娘・・・・・・」
 「え?」



 言葉の意味がわからずに問い返す日月に、暁は何か気付いたように、日月の顔に自分の顔を寄せ。
ペロッ、と日月の頬を舐めた。



 「うひゃあ!」
 「あ、ごめん・・・。ほっぺに菜の花の花びらが付いてたから」



 悪びれも恥ずかしさもなく言い切った暁の舌の上には、確かに菜の花の花びらがあった。
 日月は何も言うことが出来ずに、顔を真っ赤にしながらコクコクと頷いた。



それにしたって、舐めて取る人などいるのだろうか?! 



と思ってしまった日月であるが、実際、目の前にいるので口には出来ない。
 帰り道、少し離れて車道までの道のりを歩く暁の背中を、少し離れて日月は見ていた。
 車道が見えてくると、暁は自然と日月と歩幅を同じくし、日月の手を握ってくれた。





それが、日月が暁に恋をした瞬間だった。
あれから、



 『暁兄さん』
 『暁さん』
 『画伯』
 『あきらさん』



と何度も呼び方が変わった。


・・・あの日、もしも私が貴方に恋をしなければ、いえ、少しでもお互いに歩み寄る努力を時間に慢心せずにしていたならば。
そんな「たられば」の話をしてももうどうしようもないのだけれど。




・・・・・・・・・少しだけでも幸せな未来があったのでしょうか?





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...