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番外編
道化師《ピエロ》は菜の花の花束を抱えて歩く 3
しおりを挟む最低最悪な告白だったのに、受け入れたのは、実が根っこの部分では純粋であることを知っていたからだった。
小さな恋はそんな出来事から始まり、実を叱り飛ばす日も多かったが、とても幸福に満ちていた。
それが変わったのは、小学六年生の半ばを過ぎた頃。
実と実の二歳年下の弟である萩が事故に遭い、実は軽傷ですんだものの、実を庇った萩は亡くなってしまった。
実は三人兄弟の真ん中で、家族仲も兄弟仲もとても良く、心結はそれがとても羨ましかった。
日柳家は悲しみに包まれ、特に実の落ち込みは酷く、数ヶ月間自室に引き籠ってしまったのだ。
心結は何とかして実を部屋から出そうと躍起になった。
思えばその時、実の心の傷をもう少し労わっていたら、と何度も何度も後悔した。
ただその時は、実だけではなく、沈痛な表情を浮かべる日柳家の人達の気持ちをどうにかしたくて。実が部屋から出てきてくれたら、少しだけでも悲しみから一歩踏み出せるのではないか、と。
本当に子どもの浅知恵だったと思う。
結果的に実は部屋から出てきてはくれたが、部屋から出てきてくれた日以降、学校でも、家に行っても心結とは会ってくれなくなってしまった。実の両親やお兄さんからは謝られたが、自分のせいであることを自覚していた心結には、実と自分との間には、少し時間が必要なのだろう、と痛む心に蓋をして。
「気にしてはいない」
と努めて冷静に明るく対処した。
そのまま中学に上がり、実は目に見えて女性遊びが増え、家に帰るのも深夜になることが多くなった。
心結にはどうしたら良いのかサッパリわからず、友人達に慰められつつ、日々を過ごしていた。
一度目の衝撃は、中学二年生の時にやってきた。
その日、実の母親に夕食に誘われていた心結は、早目に学校を出ると日柳家へと足を向けた。
あの日から、実と共にご飯を食べることがなくなり、寂しさを感じてはいても、それを心結は表に出すことはなかった。
かって知ったる日柳家へと赴き、来客用の部屋で出されたお茶菓子に手を付けつつ、本を読んでいた心結の前に、実が現れた。
心結は驚き過ぎて、声を出すことが束の間、出来ずにいた。
何と言葉をかけようか。
突然のことで思考がグルグルと廻って言葉が出ない心結を、実は怖いぐらいに冷めた目で見据え、口を開いた。
「なんで、他人が家の中に堂々と入ってるわけ?」
その一言に、心結の心臓が凍りついたような感覚を襲った。
「ねえ、早くこれを家の外に追い出して」
実の言葉に、見慣れない男性使用人、恐らく最近雇われたばかりであろう、心結を知らない男性使用人は、心結の腕を問答無用の強さで掴み、部屋から引き摺り出した。
「と・・・ッ」
名前を呼ぼうとした。けれどそれも、次の実の言葉で再度、心結の心臓を凍りつかせた。
「他人に名前を呼ばれる筋合いはないよ。気持ち悪い」
何も言葉を発することが出来ないまま、心結は玄関の門の前に乱暴に打ち捨てられた。
足の膝からは大袈裟なぐらいに血が出て、手も腕も顔も擦り傷だらけで、放心したまま、フラフラとした足取りで家路に着いた。
後日、実の両親とお兄さんからは只管謝罪の嵐を受けた。
「これは皆さんのせいではない」
そう答えたものの、それ以降、心結が日柳の家に足を運ぶことは一度としてなかった。
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