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番外編
道化師《ピエロ》は菜の花の花束を抱えて歩く 19
しおりを挟む高校生活の間、無謀にも心結に告白やアプローチをしてくる男は少なくはなかったが、その都度、実が手を回し、学校から追い出した。
心結は滅多に口を開かなくなり、勉強や趣味の彫金や彫り物に没頭するようになっていた。
心結の妹の香恋は相変わらず実の取り巻きの中に居座り、好意を全面に押し出してきるが、それを実は上手く交わしていた。
「日柳様! 香恋の誕生日会を一週間後に自宅でパパとママが開いてくれるんです! 来て下さいませんか? 勿論、皆さんも一緒に!」
香恋の誕生日会に誘われるようになってからは、取り巻き達を含めて参加することが毎年の恒例となっている。取り巻き達は香恋と過ごせることが嬉しいようだが、実はただ香恋を甘い言葉と笑顔で利用する。
「香恋ちゃんは姉とは大違いだね」
「香恋ちゃんは天使みたいだよね」
「香恋ちゃんは『特別』な側の人間だよ」
毎回この三パターンほどしか、言葉を脚色しつつも使用していないのに、勉強は優秀でも、根本的なところでバカな香恋は、コロッと騙される。
勿論、七種の家で心結の誕生パーティーなど催されたことはない。
こんな人間達しか、心結の側にはいない。
だから実が心結を選ぶのは自然の摂理なのだ。
香恋の誕生日当日、家の用事で少し遅れる旨の連絡を入れた実は、急ごしらえのプレゼントを購入し、足りなくなりそうになっている教材もついでに買っておこうと、少し郊外の外れにある名の知れたブランド品店の二階へと足を向けた。
いつもならば、そんなことは使用人に頼むのだが、その時はほんの気紛れだった。
品物を眺めていて、窓をチラリと見ると、雨が降り始めていた。
ふと、雨宿りをしている人間の中に心結を見付け、窓に近付いた。
心結は軒先で雨宿りをしていたが、一向に止むことのない雨にため息を吐き、濡れるのも構わずにゆっくりと道を歩き出す。店の窓から覗いている実には気付いていない。
声をかければよかった。
いつものように、心結を傷付ける言葉を。
けれど、歩き去って行く心結の小さな背中が、記憶の中の何かを刺激して、実は身体が動かなかった。暫くすると雨は止んだが、心結の姿はどこにも見えなくなっていた。
実は迷うような思考を振り切り、迎えの車に乗って七種家へと向かった。
この時、実は気付かなければいけないことに気付いていなかった。
心結が雨の中、向かった先にある場所は、実が初めて心結に声を掛けた公園があることに。
実達が通っている学校は、小・中・高・大とエスカレーターで、それなりに名を馳せている名門校である。だから、心結が外部受験し、超名門の国立大学へと進学したことには苛立ちや怒りよりも先に驚きのほうが勝った。
高校生の頃から、趣味の彫り物が賞などに入選するようになっていた心結は、同じ趣味を持つサークルに入り、とても楽しそうに日々過ごしていることが、同じ大学に通っている手駒からの情報で逐一入手出来た。隠し撮りをされた写真や写メに映る心結は、心から楽しそうに笑っていることが容易にわかる。
偶に七種家で見かける心結は、実に目線を合わせず、言葉も掛けずに会釈するのみ。
苛立ちが治まらないが、それを表に出すことはせず、機会を窺うことに専念することに勤めた。
実自身も大学入学を機に、家の仕事を一部任され始めるようになり、忙しかった。
実よりも、香恋のほうが苛立ちが顕著に言動に現れていた。
今まで散々蔑すみ、下に見てきた姉が国内屈指の名門大学へと入学し、芸術の才能も認められ、将来を嘱望されている。
その鬱憤を晴らすかのように、香恋は心結の友人達の恋人や婚約者を悉く寝取り、遂には弁護士まで介入してくる羽目に陥った。
本当に愚かとしか言いようがない。
香恋には大学卒業までは護衛という名の監視が付くことになり、更に心結に敵意を募らせるようになったらしい。
心結と香恋の両親は香恋を許し、心結がこの先、香恋を傷付けるのではないかと危険視しているという。
娘も愚かなら、それは親から受け継いだのだろう。
唯一受け継がなかった心結だけが七種の家ではまともだと言われるようになり、七種家の知らないところで、香恋とその両親は他家のブラックリストに名が載るようになった。
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