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第1章

ささやかな日常

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 見渡す限りの草原、青空。綺麗に澄んだ空気をめいいっぱい吸い込み、叫んだ。





「どうしてこうなったーーーー!!」







そして少女(?)は、つい最近の記憶を掘り出す。













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「あーあ、見つかっちゃった」



 そう言って口を尖らせているのは、本校、白雪学園の演劇部部長、オオトリ那月ナツキである。

 この学園は元女子校で、本年度から共学制になったなんとも一部のゲームでよくある設定というある意味夢のような学園だ。


 そこの演劇部部長なのだから当然女子なのだが、多少見た目がおかしい。周りからの評価がやたら高い。女としてならまだしも、男としてというのが厄介だ。いや、確かに少し整ってる自覚はある。あるけど周りが過大評価すぎると思う。
 ちなみにもっと詳しくいうと、髪は日本人の大多数である黒色で、ショートボブより少し短めの髪型である。目は少し細めでキリッとしている…とよく言われる。背は170は超えているので、女子としては大きい方だろう。



「もしもーし、聞いてますか?意識どこにいってるんですか」


あ、会話してたの忘れてた。


 目の前で無駄に顔を近づけて眉を顰めているこの男は、姫城ヒメギカナメ。1年ながら(ムカつくほど)優秀で演劇部の副部長を務めている。あと姫城っていう名字を女の子みたいって言って嫌っている。可愛いくていいと思うけどなぁ。

あ、優秀っていうのは本当に生意気だが、成績・運動、そして部活に必要な演技力。その全てに置いて優秀なのだ。しかも、容姿端麗で、性格もしっかりしている。…ただ、ちょっと毒舌なくらいで。


「…部長、今失礼なこと考えてませんでした?」


「いや、そんなこと考えてないよ。私はただ、今後の政治経済について考えてただけだよ」


むしろ大体が褒め言葉だっつーの!

そう言って少し後ずさりながら、周りから王子スマイルと称される柔らかな微笑みを作った。


「本当に演技がお上手ですね。で、本音は?」

「チッ…ふつーにぼーっとしてましたよー」

「はぁ…後輩に舌打ちしないでくださいよ。というか、こんな部室から遠い場所まで逃げないでください。めんどくさい。」

「あっ、ひでぇ。本人を前にめんどくさいだなんて…」

「めんどくさいものはめんどくさいんです。それに明日は部長会議でしょう?提出する書類、終わってるんですか?」


「…」


「まぁ、そうでしょうね。コレ、白紙ですし。」


そう言って手に持っている真っ白な紙をひらひらさせてうちに再度、顔を近付けた。


「いいですか?今すぐやらせますからね?い ま す ぐ」

「そ、その怖いくらい整っておられる顔をそんなに近づけないでくれないか…!!」

「お褒め頂きありがとうございます。ただ、顔に関していえばあなたが言うと嫌みですよ」

「純粋な褒め言葉だよ!!」


 このとき客観的に見ると、浮世離れしている美形の男2人。しかも、1人は物凄くいい笑顔で覆いかぶさるように顔を近づけていて、もう1人は涙目で、しかと上目遣いで相手を睨んでいるという、なんとも危ない誤解しか招かない光景だった。


…いや、性別的には一応セーフだけどね?





 この後、私は何故か書き間違える度によく音の鳴るハリセンで叩かれるという拷問にあったのだった。




「っしゃあ!終わったぁああ!!」

「…なんとか終わりましたね。」

「よし、うちは脳の使い過ぎのため、只今よりお昼nぐはぁっ!!」

「ふざけないでください。もう帰る時間ですよ。」


ちらっと窓を見るともう日は暮れ、暗くなっていた。やはり途中で思考がトリップしていたり、手が勝手にお絵かきしていたりしていたらかなり時間がかかってしまったようだ。もちろんその原因の7割はハリセンのせいだと信じてる。


「うー、疲れたー。あー、置いてくなよー…」

そう言ったのにも関わらず彼は部屋から出ていってしまった。

流石に先輩置いて行くなよ…

そうは思ったものの、やはりうちの日頃の行いから相当ストレスが溜まってたり怒ってたのかもしれない。なら、明日少々不本意だが謝らないとな…




…あぁ…ダメだ…疲れて……眠気が………









んぁああああああっ

 大きな伸びをして、眠け眼を擦る。…あれ?うち何してたんだっけ?

「おはようございます。部長」

「えっ!?朝!?」

ハッと窓を見ると真っ暗だった。時計を見ると8時を回っていた。

…8時!?

確か、最後の記憶は6時半頃…ちょうどその頃に書類終わったはずなんだけど…

視線を戻すと、寝ていた机の上の端に冷めきってしまっているレモンティーが置いてあった。

「…ずっと待ってくれたのか?」

「勘違いしないでください。読んでない本があっただけです。…というか、先輩を置いてく趣味なんてないです」

 途中でセリフの恥ずかしさに気がついたのか、顔を逸らして声が小さくなっていった。そして逸らされた顔は少し赤くなっていた。まぁ、どう考えてもツンデレのセリフだもんなぁ。

 それでも怒らせたわけではなかったらしい。待たせたことは申し訳ないが、待っていてくれたことが結構嬉しかった。


「ありがとな」


そう言いながら久しぶりに素で微笑んだなぁと思った。笑うことはいっぱいあったからな。だから、こんなふうに優しく柔らかく笑ったのは本当に久しぶりだった。



 この時、相手が目を見開いて僅かに硬直してたことなど誰も気づかなかった。





 その後うちは大丈夫と言っても聞かずについてきた後輩と一緒に家に帰った。要の方こそ大丈夫かと聞いたが大丈夫に決まっているでしょうと言われてしまった。世の中、男だからって安全とは限らねぇぞ…





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