上 下
3 / 8
第1章

嵐の前の茶番劇

しおりを挟む
 朝が来た。いつも通りの朝。いつものように眠たいのを我慢して、登校する。周りの生徒にはいつもの仮面で本心を隠す。慣れてるよこんくらい。そして、授業が全部終わり、喉の渇きを潤すように部室へと向かった。




「今日は久しぶりにエチュードでもすっか!」

「今日部長は会議でしょうが…」

「それまで時間あんだろ。いいじゃんか、ちょっとくらい」


そういって人の悪い笑みを浮かべる。ちなみに、エチュードというのは練習曲という意味だが、演劇の世界では主に即興劇という意味だ。まぁ要するに、台本の無いアドリブのみの劇ということだ。


そして、うちの部活このエチュードはだいたいおかしな方向にいく。元々シナリオや細かな設定が無いのだから仕方の無いことなのだが、それにしてもオカシイと思う。まあ、見てる分には腹筋がめっちゃ痛くなるというくらいで済むから全然いい。



「あ、うちは観劇の方で」
「俺も」


部長はやんないのかよ、と文句が出てもおかしくないがこれにはちゃんと理由がある。今年入ってきた後輩達の大体がうちに憧れて入ってきた。そう、新歓でうちが演じたのは乙女の理想をそのまま写したかのような王子様という役だった。だが、うちの素はそんな理想とは絶望的に違う。まぁ、部室以外では王子様というキャラを演じてはいるがな。
だからこそ、部室はうちのオアシスだった。自分の素をさらけだしてもいい場所。
つまり、理想とは違ううちを受け入れて貰わねばなるまい。そのため、新入生には悪いが、ふるいをかけさせてもらった。それは…うちの女装である。…女子だけどね?
具体的にいうと、女装して無理矢理高い声で自己紹介をする。ただし、キャラは冷徹で残酷。鋭い目つきでひとりひとり睨んでいく。それでもちゃんと女の子だと思わせるようにする。それでもまだやる気のある人のみ、部員になることを許可し、素をさらした。もちろん数はだいぶ減って、大体10分の一くらいになった。大袈裟だって?いや、これでも遠慮してる方だよ?なんたって、学年の7割はいたからね。で、結局残ったのは8人だった。だが、うちの素には慣れているが、やはり理想は捨てきれないらしく、エチュードで変な役になったときなどは涙目になって、挙句には泣いてしまう子がいるのだ。…ちなみに、さっき言ったがエチュードは変な方向に行くことが多い。そう、みんながみんな、どんなネタをぶっこもうかと考えているからだ。うちも例外ではない。ただ何故だかしんないけど、うちがエチュードやると高確率でオネェキャラになるんだよねぇ。そんで、後輩が泣くんだよ。オネェは。
 というわけで、後輩の必死の懇願により、エチュードにはあまり参加していない。ちなみに、なぜ要もかというとただ単についていけないから、だそう。最初の方はもちろんやらせてたが、要はネタ的な要素を一切いれてこない、それどころかめんどくさいボケは一切スルーで劇を進めるため、他の役者が涙目になるのだ。まぁ、向き不向きって感じかな?もちろん要もクールな悪役として人気なので、ネタに走って欲しくないという希望もあり、みんなから承認されている。







「大まかな設定はこんな感じで。そんじゃ、始めるぞー」


といって、手を叩く。これが合図だ。

…以後分かりづらいので、顔文字使用。




(´・ω・`)「おはよー。田中くん。宿題終わった?あれさー」

(´゚ω゚`)「俺は田中じゃねぇ。神だ」

(´・ω・`)「…は?(ドン引き)」

(´゚ω゚`)「神だっつってんだよ聞こえねぇのか!!」

何故かここで抜刀の動きをつけ、(´・ω・`)に向ける。

「「きゃぁあああああ!!!」」

( ゚д゚)「田中!何をやっている!落ち着け!!」

(´゚ω゚`)「鈴木は黙ってろ…俺は」

( ゚д゚)「黙っていられるか!そのエリンギを置け!!」

(´゚ω゚`)「黙れぇ!!俺は神だぞ!!逆らう気なら容赦はしねぇ」

( ゚д゚)「な…っ…神だと…くそっ…どうすれば…」

その時( ゚д゚)は右手を庇うように抱えた。そう、まさに…

( ゚д゚)「!? 右手が…っ!!疼くっ…くそっ鎮まれ!!」

(´・ω・`)「鈴木君!?」

そして( ゚д゚)は少ししたら糸が切れたように両腕をだらんと垂らした。
そして、落ち着いた表情で、声音で、こう言った。

( ゚д゚)「…僕は…鈴木じゃない。神だ」

(´・ω・`)「なっ!?」

(´゚ω゚`)「はぁ!?何言ってんだ!!俺が神d」

( ゚д゚)は右手を掲げ、言葉を遮った。そして…

( ゚д゚)「神は僕だ。偽りの神に制裁を」

そういって右手を振り下ろす。

(´゚ω゚`)「ぐっ、ぎゃぁあああああああ!!!」

(´・ω・`)「田中くん!!」

(´゚ω゚`)は倒れ、もがきながら(´・ω・`)に必死に言葉を紡いだ。

(´゚ω゚`)「お、れは…ほん、もの、の…神じゃ…なかったんだ…な…」

(´・ω・`)は涙を流しながら叫ぶ。


(´・ω・`)「田中くん!ダメ!!もうホームルーム始まっちゃうよ!?」

(´゚ω゚`)「おれ…じ、つは…お前の…こと、が…」

(´・ω・`)「田中くぅぅうううううううん!!」

そして、(´゚ω゚`)は動かなくなった。(´・ω・`)はまだ現実が受け入れられず、目を見開きながら涙を流していた。

( ゚д゚)「これが、運命さだめだ…愚かだったな。田中」

そういって、( ゚д゚)は静かに去っていった。
(´・ω・`)「…鈴k」

パァン!!

「ハイカットー!!」


これ以上この茶番を続けてはならないという使命感を感じ、無理矢理だが終わらせた。というか。


「…お前ら、自分の役設定覚えてるか?」



(´・ω・`)「蛙」
(´゚ω゚`)「電球」
( ゚д゚)「マクロファージ」



どこがどうしてこうなった!!!



しおりを挟む

処理中です...