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1章 巡らせる季節
巡らなくなった季節
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──これは、季節が人の祈りで巡る世界の物語。
春が終わらなかった。
桃色の花は狂ったように咲き誇り続け、風に散ることも、土に還ることすらも忘れていた。
夏は更なる熱を孕んだまま、
夜風さえぬるく、遠くで蝉の声がジリジリと鳴き止むことはなかった。
秋は実りすぎた果実の重みが枝をしならせ、枯葉は地に落ちたまま、鮮やかな色を褪せさせずにいた。
冬はただ、しんと静かで、辺り一面が白く、凍ったまま瞬きひとつしなかった。
──本来あるはずの季節が、巡らなくなった。
それがいつからだったのか、正確に覚えている者はいない。
ただ、誰もが困っていた。
作物は枯れずに実りすぎ、雪は解けずに街を覆い、桜は年中咲き乱れ、暑さは静かに人々の体力を奪っていく。
この世界には、四季を司る四つの国がある。
春の国、夏の国、秋の国、冬の国。
それぞれの国には、“季節の巫女”と呼ばれる存在がいて、祈りによって季節を巡らせ、次の国へと繋いでいた。
本来ならば、四人の巫女が順に次の季節へと移す祈りのバトンを渡すことで、季節は正しく巡るはずだったのだ。
だが今、そのバトンはどこかで落ちたまま、誰の手にも拾われることはなかった。
そんな世界の片隅に、一人の少女がいた。
名前は――ツキナ。
彼女は、不思議な少女だった。
春に生まれたわけでもなく、夏の暑さにも強くなく、秋の風にも、冬の寒さにも染まらない。
この世界の住人は、本来であれば、それぞれの季節のどこかに所属しているはずだった。しかし、どの季節にも属さない、“季節を持たない少女”。
祈る国も、与えられる季節もない。
どこにも居場所のない存在――けれど、ツキナには他の誰にもない感覚があった。
季節が少しずつ、悲しんでいる気がするのだ。
季節の祈りを持たぬ彼女だけが、季節たちの声なき叫びに、かすかに気づけた。
その日、ツキナは風のない空を見上げて、ぽつりと呟いた。
「ねえ、季節って、どうして巡るんだと思う?」
問いかけに答える者はいなかったけれど、その瞬間、ツキナの胸の奥に、小さな何かが芽吹いた。
それは、「世界を巡らせたい」という想いだった。
桜が散り、夏が過ぎ、秋が色づき、冬が白く染まる。
そんな当たり前を、誰かの想いが止めてしまったのなら――
だったら、私が、動かしてあげる。
ツキナは旅に出ることにした。春の国へ、夏の国へ、秋の国へ、冬の国へ。
そして、自分の居場所――季節と季節の“あわい”を探すために。
それは使命でも、命令でもない。ただ彼女が、そうしたいと思ったから。
巡らぬ世界に、小さな想いが光を差す。
それが、すべての始まりだった。
春が終わらなかった。
桃色の花は狂ったように咲き誇り続け、風に散ることも、土に還ることすらも忘れていた。
夏は更なる熱を孕んだまま、
夜風さえぬるく、遠くで蝉の声がジリジリと鳴き止むことはなかった。
秋は実りすぎた果実の重みが枝をしならせ、枯葉は地に落ちたまま、鮮やかな色を褪せさせずにいた。
冬はただ、しんと静かで、辺り一面が白く、凍ったまま瞬きひとつしなかった。
──本来あるはずの季節が、巡らなくなった。
それがいつからだったのか、正確に覚えている者はいない。
ただ、誰もが困っていた。
作物は枯れずに実りすぎ、雪は解けずに街を覆い、桜は年中咲き乱れ、暑さは静かに人々の体力を奪っていく。
この世界には、四季を司る四つの国がある。
春の国、夏の国、秋の国、冬の国。
それぞれの国には、“季節の巫女”と呼ばれる存在がいて、祈りによって季節を巡らせ、次の国へと繋いでいた。
本来ならば、四人の巫女が順に次の季節へと移す祈りのバトンを渡すことで、季節は正しく巡るはずだったのだ。
だが今、そのバトンはどこかで落ちたまま、誰の手にも拾われることはなかった。
そんな世界の片隅に、一人の少女がいた。
名前は――ツキナ。
彼女は、不思議な少女だった。
春に生まれたわけでもなく、夏の暑さにも強くなく、秋の風にも、冬の寒さにも染まらない。
この世界の住人は、本来であれば、それぞれの季節のどこかに所属しているはずだった。しかし、どの季節にも属さない、“季節を持たない少女”。
祈る国も、与えられる季節もない。
どこにも居場所のない存在――けれど、ツキナには他の誰にもない感覚があった。
季節が少しずつ、悲しんでいる気がするのだ。
季節の祈りを持たぬ彼女だけが、季節たちの声なき叫びに、かすかに気づけた。
その日、ツキナは風のない空を見上げて、ぽつりと呟いた。
「ねえ、季節って、どうして巡るんだと思う?」
問いかけに答える者はいなかったけれど、その瞬間、ツキナの胸の奥に、小さな何かが芽吹いた。
それは、「世界を巡らせたい」という想いだった。
桜が散り、夏が過ぎ、秋が色づき、冬が白く染まる。
そんな当たり前を、誰かの想いが止めてしまったのなら――
だったら、私が、動かしてあげる。
ツキナは旅に出ることにした。春の国へ、夏の国へ、秋の国へ、冬の国へ。
そして、自分の居場所――季節と季節の“あわい”を探すために。
それは使命でも、命令でもない。ただ彼女が、そうしたいと思ったから。
巡らぬ世界に、小さな想いが光を差す。
それが、すべての始まりだった。
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