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プロローグ
しおりを挟む僕の名はカルラ・グリフォス。
冒険者の集う町・ベガから少し離れた森の屋敷で暮らしている、ぼっちの合成魔術師だ。
合成魔術というのは、二種以上の素材を混ぜ合わせる事で新たな物質を作り出すという珍しい魔術。
珍し過ぎて、この町で合成魔術を扱えるのは僕しか居ない。
……なんて、そう言えば聞こえはいい物の、実際に行えることは非常に限られていたりする。
素材に『金貨』を用いた場合を除き、
かつて古代人の残した "教科書" にある組み合わせ以外で試すと、素材が爆発して失敗してしまうのだ。
しかも、教科書に乗っているほとんどの組み合わせが、
薬草なら蜂蜜と混ぜる事でより良質な薬草を作れるよ、という程度。
そんな簡単そうな合成すら高い魔術レベルが要求されるので、わざわざ合成魔術に取り組む人はほとんどいない。
故にきちんと合成魔法を扱えるのは、先述した通り僕くらい。
僕はそんな合成魔術を用いて薬草やミルクなどを少しだけ質の高い上位の物質へと変換し、
それらを町で売って生計を立てていた。
もちろん、合成魔術の研究もしっかりと続けながら、ね。
まあ、どんなに研究しても合成魔術に興味関心を持ってくれる人は少ないし、
魔法協会からの評価も決して芳しくは無い。
けれど、
好きな魔法を研究して、その成果を売って暮らす。
何か寂しいなと感じる事はあるけども、
そんなのんびりとした毎日が、僕は決して嫌いじゃなかった。
きっとこれからも平和な日々が続き、
のんびりと日常を謳歌していく事だろう。
何せ、
若い僕のスローライフは、まだ始まったばかりなのだから――。
*****
――スローライフが崩れるのは一瞬だった。
「ふにゃ……」
それは、ある日の昼下がり。
僕の目の前に、裸の幼女が転がっていた。
「は、はは……」
誰かに見られたら今までの平和な暮らしが一瞬でぶち壊れる光景を前にして、
まるで氷漬けにされたように固まってしまう僕。
誘拐?
拉致?
監禁?
馬鹿なの、死ぬの?
そんなワードが浮かぶけど、いやいや、どれも誤解です。
単に、オリジナルのレシピを試そうと思った訳でして。
で、魔物の死体と金貨を混ぜたら、幼女が練成されちゃいました。
「にゅ……」
「……」
うん。自分でも何言ってるのか分からないよ。
幻覚でも見ているのだろうか。
しかし、この幼女。
推定身長、130センチ。
推定年齢、高く見積もってもギリ一桁。
二の腕の感触も、
身長に不釣合いな胸の大きさも、
ぷにぷにと柔らかそうな頬も、
全部本物である。
「嘘でしょ……?」
ぐい、と頬を抓ってみるけど夢では無いから覚める事も無い。
思わず、変な笑いがこみ上げてくる。
「……んにゃ」
それに加えて、目の前で寝息を立てる幼女はとってもキュート。
その存在を確かめるように、僕は何度も手を伸ばす。
「……うみゅう」
触るとほのかに暖かい幼女は、ついでにお肉も柔らかい。
つんつんつん。
ぷにぷにぷに……。
う、うん。
ちょっとこれ、犯罪的だな。
せめて布を被せて肌色成分を薄めよう。
「にゃ……」
ふぅ、一息を着くけれど、それでも傍から見ればただの性犯罪者に見えることに代わりは無い。
それに、より気になる要素があちこちに転がっているものだから、どうしても彼女へ視線を注いでしまうのだ。
例えば、このおでこの辺りとか。
「んゅ……」
幼女のふわふわと長い紫髪から見え隠れしている、一本の角。
白く輝くその角は、素人目に見ても一瞬で分かる代物。レア魔物・ユニコーンの角である。
それはがっちりしっかりと、ぱっつん前髪の少し上からツンと生えていた。
ちなみに、僕が素材に使った魔物も、
たまたま拾ったユニコーンの死体だったりする。
金貨の方も相当価値は高いけど、まあ、今回使った金貨はただの『金貨』では無くて。
正確には、その昔不純物を混ぜてしまい価値が無くなった偽物の金貨だったんだけど……。
「……まさか」
どう考えても、この幼女はただの人間じゃない。
ユニコーンも、当たり前だけど元々幼女の姿をしている訳ではない。僕の額に冷たい汗が流れる。
結果はどう見ても人体練成。
しかも練成されたの、魔物とのハーフっぽくて。
加えて、僕みたいな20代の男と一緒に居る画だけでも事案の幼女。
"『金貨』を素材に用いる事で新たな世界が開かれるだろう"。
それは、"教科書" 最後のページに残されていた一文。
新たな世界。
もしかして、それって……こういう変態的な意味合いなのだろうか……。
それとも、本物の 『金貨』じゃないからおかしな結果が出てしまった、とか……?
「ふにゅ……」
寝返りを打ったせいで色々危ないところが見えそうになっている幼女を凝視しながら、静かにため息をつく。
まあ、起きてしまった事は仕方ない、と。
……とりあえず、目が覚めるまで薬草のスープでも沸かして待つ事にしましょう。
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