堕天使になったのですが、地上ってイイものですね! ~堕天から始まる世界樹攻略~

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プロローグ

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 この世界の中心には、遥か昔に神々が造り出した大きな世界樹が聳え立つ。

 四つに割れた大陸。
 それぞれの大陸から伸びた大きな幹が中心で混ざり合い、一つの巨大な世界樹の姿を成す。
 世界樹の中はいくつもの階層に分かれ、多くの魔物が住みついていて、しかし豊富な資源もそこにある。人々は剣と魔法の力を用いて、資源を求めて毎日のように世界樹へ登る生活を送っていた。

 そんな世界樹の頂点・天界で人々を見下ろすのは神の遣い、天使達。
 一人の大天使長に四人の大天使と何人もの下級天使。
 特に大天使である四人はそれぞれ四つの大陸に存在する世界樹の管理を任されており、日々上層まで上り詰めた冒険者たちへ試練を与えている。
 その大天使の一人である僕の名はジブリール。受け持つは南の大陸、南の世界樹。今日も今日とて、冒険者がぐんぐん登ってやってくる。さあ、仕事だ。『試練』を与えるため、僕は下心――もとい純粋無垢な心を震わせ、冒険者たちを迎え撃つ――……。

 ……ところで、気の強い実力派の女騎士やら泣き虫のケモミミロリ少女なんかが、魔物に鎧や衣服を剥ぎ取られちゃうシチュエーションとか、罠に掛かっておぱんつ丸出しにされて羞恥の顔で目いっぱいに涙を溜める所とか、考えただけで興奮するよね。天使にも煩悩はある、仕方ない。許して神様。こんな天使でごめんなさい、ありがとうございます!
 
 要するに、大天使たる僕の与える試練とはそういうものなのだ。それを生甲斐に、僕は今日も今日とて女の子――もとい、冒険者たちを迎え撃つ。それが僕が神様から与えられた、唯一無二、虚心坦懐、ただ一つの下心も無い役割なのだから――。


*****


「ひこくにん、なにかいいのこすことはあるか」

 魔女裁判、というものをご存知だろうか。
 最初に釘を刺しておくけれど、えっちなゲームの話ではない。天界の記憶に記されている、こことは違うどこかの世界で実際にあったとされる事件のことだ。
 曰く、それは何の罪も無い人々を魔女と称して捕らえ、あの手この手で拷問させ殺してしまったという人間の恐ろしい業。集団心理により発揮された、狂気の冤罪事件である。

 ところで僕たちは天使である。
 天使とはこれすなわち、人々の過ちを正し導く者として書物に記されている由緒正しき神の遣い。清く正しく美しく、清廉潔白がモットーの正しき存在。隣人を愛する僕たち天使はみなフレンドリー。
 だから冤罪で拷問とか、そんな馬鹿げた事を天使が行ってはいけないね。

 ……具体的には、僕の四肢を拘束している鎖を解いて、せめて服を着させてね。そんな抗議の声を上げる、ふるちんの僕。

「だまれたわけが、しね」

 ところが僕の真摯な意見は、一人の幼女の声により一蹴される。
 鮮やかなブロンドヘアーにかわいく揺れるサイドテール。身の丈に全くあっていないブカブカな白法衣を身に纏い、蒼く透き通る美しい宝石のような目で僕を情熱的に見つめる彼女は、天使の最高位を持つ大天使長様。
 身体はロリっ娘、位は最高。
 これからの成長に期待してくださいと言わんばかりの貧相ぼでぃを持つ幼女先輩は、容姿は幼くともその威厳は絶大で、この場において何よりも優先される最高権力を持つ。
 彼女が右と言えば左も右だし、黒と言えば白も黒い。つまり何かと言えば、うわようじょつよい。

 そんな幼女先輩が目の前にいるのだから、普段の僕であればまず第一に彼女に似合うビキニアーマーを瞬時に脳内で作り上げ脳内試着会を行うのだけども、今は状況が悪すぎた。ビキニアーマーの心配じゃなくて、自分の心配をしなくてはいけない。
 何せ僕が今吊るし上げられているのは、天界における地獄の入り口。ヘブンズゲートならぬヘルズゲート。魔女裁判もとい天使裁判。その最高裁。
 四方を傍聴人の下級天使たちが取り囲み、大天使であるミカエル姉とウリエル姉が被告人の四肢を鎖で拘束する。傍観者であれば興奮していたけれど、生憎僕は当事者であった。

「ほんときもいな、おまえ」

 大天使長もとい、幼女先輩は呆れ顔で僕を見つめる。
 その冷たい視線は、普段の僕であれば泣きながらオカズにする破壊力を持っていた。勘違いしないで欲しいけど、オカズってご飯のオカズだよ。幼女の呆れ顔を見ながらの食事、ぷらいすれす。

「はやくみとめちまえば、らくになれんぞ」
「幼じ――いえ、天使長様。お言葉ですが、僕は潔白です。信じてください!」
「たわけぼけ。しきじょうま。まんねんはつじょうき。よっきゅうふまんのさる。そうだ、おまえはさるだな。てんしじゃない。よし、しね」
「いけません天使長! 幼女がそんな単語を覚えてたら危ない男の人にアレコレされちゃうよ! 巷で話題の事案案件ですよ!」
「うっさいしねぼけ。あぶないのはおまえだあほ」
「というか本当に、至って真面目に、僕が何をしたって言うんですか!」
「まだいうか……」

 はぁ、と本日何回目かのため息をする幼女先輩。
 僕は何千何百年という時をここで過ごしてきたけれど、幼女先輩のこの様子はかなりレアである。怒っているのだ。
 そりゃあ、自慢じゃないが怒られる要素は沢山考えられる。主にセクシャルハラスメント的観点で。
 僕たちは天使であり、天使とは純真無垢なモノである……が信条の大天使長は、この手の話を一番嫌う。
 彼女の言葉遣いが純真無垢かは置いといてね。

 しかし僕だってバカじゃない。世界樹に潜ってえっちなトラップを仕掛けている時もそれを鑑賞している時も、いつだって細心の注意を払い、人間たちに対する下心を見抜かれぬよう気を付けていた。

 故に気付かれていないはずなのだ。
 というか、仮に気付かれていてもその程度で裁判沙汰になるとも思えない。

 となると、原因は別にあるのだろうか。例えば、幼女先輩の下着が無くなったとかそんなありきたりなミステリー。なぁんだ、それなら……。

「安心してください、天使長様」
「あん?」
「僕の好みは最低でもBカップからですから、天使長様は守備範囲外です!」

 ピシリ、と天使長の座る玉座から音が鳴った気がしたけど気のせいに違いない。構わず続けよう。

「Bカップ以下は女の子として認めていません!」
「ほう」
「もちろん天使長様の事も、ずっと男の子だと思ってました! 男同士ですね、光栄です!」
「ふむ」
「ですから僕は下着泥棒の犯人ではありませんね。誤解が解けて安心、超安心! いえすろりーた・のーたっち! 僕は紳士な大天使!」
「そうか」

 幼女先輩超笑顔。僕も笑顔。嬉しいな、みんな幸せ!

「そうかそうか。……そんなにしにたいか。よくいえたな。――さっさとしね。いますぐ、しね」

 ……両手首を縛る鎖がギュウギュウと肉に食い込んでいく。今すぐのた打ち回りたくなるような痛みだけど、幼女からの折檻はご褒美だ。そう考えると自然に痛みも心地よい快感に変わっていった。
 幼女先輩も幼女先輩で、僕に下手な折檻を加えても無駄だと悟ったのか、大きなため息と共に侮蔑の視線を送ってくる。癒されるなあ。

「……ふん。たわむれはこれまでよ。ところで、おまえ」
「はい?」
「よもや、おまえがいままでくそにんげんどもにしてきたしうち、わたしがしらなかったとおもっているわけではあるまいな」
「はえ?」
「おどろいたかおすんなあほ。ていうかむしろ、いままでかくしとおせてたとおもってたのかおまえは。ほんっとのうてんきで……まあ、それはいい」
「いいんですか!?」

 そんな簡単に許されてしまうと、何故だか少し負けた気分にもなる。
 しかし、だとすると、僕は何故拘束されるのだろう?

「まあ、おまえはしかたのないへんたいだが、それでもわたしはしんようしていたのだ。いろぐるいだが、みこみのあるやつだとおもっていたからな。……まあ、とんだかんちがいだったようだが」
「……えっ?」

 どうにも、話が見えてこない。
 もし仮に僕が裁判に掛けられれるとしたら、先述したような普段の世界樹での行いが原因とばかり考えていたのだけど。いや、彼女の口ぶりからするに、恐らくそれも原因の一端ではあるようだけど。

 それに、幼女先輩の雰囲気も少し変わった気がした。怒っているばかりじゃなく、どこか落胆した、というより失望した様子で。
 ……こうなると、さすがに僕もふざけた気分にはなれない。いや、何故僕が裁判に掛けられているのかは本当に分かっちゃいないんだけど。

「じぶりーるよ。われわれがおこなうのはてんしさいばんだ。ちじょうの、あのくそにんげんどものくそさいばんとはちがう。われわれはてんし。つみなどわざわざつげずとも、しぜんにはんせいするのがどうりというもの」

 どこか突っぱねるような言い方だった。
 要するに、自分が何をしたんだと喚くような輩は見苦しいとでも言いたいのだろう。まあ、実際その通りではある。

「いいかげんわたしもつかれたからはっきりいおう。
 ……おまえのたんとうするみなみのたいりく。そこでいへんがおきている。とびきりおおきなものだ。それにおまえはきづけなかった。だいてんしとして、なんたるしったいか」
「……異変?」
「ああ、それはいわんぞ。わたしはそこまでおまえをあまやかすつもりはないからな」

 ふう、と幼女先輩は息を吐く。
 関係ないけど、こう、自分より幼く見える子に『あまやかす』とか言われるとちょっと興奮するよね。僕はどっちかというと甘えてもらいたい側なんだけど、新しい性癖に目覚めそうっていうか。

「……おまえはほんとうにきんちょうかんのない……まあ、いまさらか」
「へ、なんです?」
「きにしなくていい。どうせいまさら、くつがえるようなものでもあるまいし」

 幼女先輩がそう言うと、傍でずっと僕の手足を拘束しているミカエル姉さんも頷く素振りを見せた。失礼な。
 ちなみに、さっきから動きの無い脚の鎖を拘束しているウリエル姉さんだけど、一応彼女の方へ視線を向けると暢気に寝息を立てていた。僕のマイペースはこの人譲りなのかもしれない。

「ま、さて。いじょうがおまえのつみだ。そんで、おまえのつみにぴったりなばつもよういしてある」

 なんて少しだけ気を緩めていたら、幼女先輩が裁判を進め始めた。
 あれ、確かに僕が何かした……らしい事は分かったけれど、そんな曖昧な理由で罰が下される、だって?

「ちょ、ちょっと待ってください天使長様! いくらなんでもそれは横暴で――」
「よろこべへんたい。……はんけつをいいわたす。だいてんしじぶりーるよ。おまえは――」

 僕の言葉などもはや聞く気すらないように、目の前の美しい幼女は告げる。
 天界の中でも五番目位に偉いはずの、大天使である僕に告げる。

「きょうをもって、おまえをてんかいからついほうする。……じぶんのおかしたつみをしり、つぐなうまでふっきはゆるされない」

 その瞬間、しんと静まりただ裁判の様子を追うだけだった天使たちが、ざわりざわりとどよめき始める。
 下された判決、堕天界からの追放。それはつまり、堕天。

「……え?」

 ――彼女は、この天界において何よりも優先される権力を持つ。
 彼女が右と言えば左も右だし、黒と言えば白も黒い。
 故に、彼女の下す判決は絶対だ。

 それが、誰に、何て罰を与えたって?

「さよならだ」

 最後に、冷たくそれだけ言い放ち。
 天使裁判も、僕の天使生活も、全て。
 その長いようで短かった生涯に、幕を下ろしたのだった。
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