ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷

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第2章

30話

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 すぐに人通りの少ない路地に移動する。今の状態でリュシールと話すとなると、傍から見れば独白を続けている変人だ。魔術で二人とも姿を見えなくさせる。

「それで、どう思う?」
「彼が裏切り者かどうか。ってこと?」
「うん、何か収穫はあった?」
「判断材料が少ないわ。どちらにせよ聖騎士長は全員警戒すべきね」
「お友達も?」
「信じたいけれど、リューが危険に巻き込まれるようなことがあれば戦う覚悟もできている」

 リュシールはセレスタをそっと抱き寄せ、頭に手を置く。

「わたしの前でまで虚勢張らなくていいんだよ。まさかその友達に嫉妬してるとでも思った?」
「……ごめん。ありがとう」

 それだけ呟くと急に気恥ずかしくなって体を離す。

「あまり時間がないから魔研に行きましょ」
「そうだね」

 世界魔術研究機構の建物は想像よりこじんまりとしていて、予め場所を把握していなければすぐには気付けなかっただろう。研究機関というよりは街の集会場といった雰囲気だ。そこから出てきた中年の女性が話しかけてきた。

「貴女、魔研に用事?」
「はい」
「世界規模の研究機関がこんな建物で驚いたでしょ。古くからあるのに誰も改修しようとしないからね。その金があるなら研究費に回したい連中ばかりなのさ。まあ、見学は自由だから好きに見ていきなよ」

 それだけ言うと女性はどこかへ行ってしまった。リュシールには外で待機してもらい中へ入る。机に向かってなにやら書き殴っている人、一心不乱に読書をしている人、熱い議論を交わしている人など学院時代を思い出すような光景だった。突っ立っていると男性が話しかけてきた。

「あんた魔術師か?」
「はい」
「なら説明は不要だな、好きに使ってくれ。ところでここへは何しに来た?」
「調べものをしに来ました」
「若いのに関心だな。ここは図書館ほど蔵書はないが変わったのは多いからな。一緒に探してやろうか?」
「"光"の魔術師についてなんですけど」
「おう、ちょっと待ってな」

 男性はすぐに何冊かの本を持ってきてくれた。

「こんなもんだな」
「ありがとうございます」

 男性が立ち去るとすぐに本を手に取る。その中の『魔術属性とその理論』という本を捲る。内容は高度で理解出来ない部分も多い。ページをめくっていくと気になる文章が現れた。

『大魔術師と呼ばれる存在には光と闇、相反する魔力を持つものもいたと言われている』
『人間は闇の魔力を持つことはないとされているが、何らかの要因で後天的に持つことは可能である。しかし、多くの国がそれに関する研究を禁止した』
『光と闇の魔力は同一個体内に存在する場合、魔力が反発や拮抗し、その身体のバランスを崩す。人間が陽光の下で、魔物が暗闇で主に活動するようにその個体の主活動時間を狂わせる。闇の魔力が強くなり魔物のように人を襲った例も報告されている』

 などと様々なことが書いてあるが求めている答えに近づく内容は見当たらない。その時頭に何かが当たって落ちる。机には小石が転がっていた。顔を上げると建物の外からリュシールが機嫌悪そうにこちらを見ている。
 思わず立ち上がると先程の男性がこちらへ近づいてきた。

「調べ物は済んだのかい?」
「いえ、そういうわけではないんですが用事を思い出して……」
「そうかい、まあいつでも来るといいさ。本もそのまま置いといていいから行きな」
「ありがとうございました」

 バタバタと外へ出るとリュシールが話しかけてくる。

「どう? 何か手掛かりはあった?」
「途中で邪魔が入ったから出してもらった資料半分も読めなかった」
「そんなこと言ったってそろそろ行かないと」
「分かってる……。でも少し気になる文章はあったわ」
「じゃあこの騒動が終わったらね。そろそろ来るよ」

 リュシールの言うとおり魔術師が歩いてくるのが見える。気づきやすいように少し魔力を放出すると彼らは真っ先にこちらを見た。

「セレスタ・ラウ様ですか。準備が出来ましたので城までご案内します」

 二歩ほど引いたところからリュシールがついてくるが気にしている様子はない。こちらの術だけではここまで隠し通せていなかっただろう。彼女の魔力コントロールは大したものだ。


 セレスタが駆け足で出ていった後、周囲が笑いながら男性に声をかける。

「あんたに気づきもしなかったな。前に言ってたのはあの娘のことだろう?」
「ああ、ろくに喋っこともなかったがな」
「不思議な魔力だったな。まるで魔物の返り血浴びまくった時のあんたみたいだ」
「あれはそんなものじゃない」

 その時、何人かの兵士が乗り込んできた。

「シルヴィオ様、休暇中失礼します。教皇陛下並びに二番隊長エスメル様から緊急招集がかけられました」
「あー分かった。すぐ行く」
「はは、聖騎士長様は大変だな」
「うるせえ、ここではそう呼ぶな」

 シルヴィオは本の片づけを頼み、椅子に無造作にかけていたローブを持って魔研から出る。待機していた兵士たちは少し怯えている様子だった。

「さっきの"二人"のことだよな。間違いなく」
「……は、はい?」
「何でもねえ。エスメルだけならまだしも陛下直々なら黙って行くさ」
「……お願いします」
「急ぎみたいだし一人で先戻るぜ。火よファイス

 指を軽快に動かして魔術を唱える。シルヴィオの足先が火を噴いて浮く。そのまま城の方角へと飛んでいった。
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