60 / 76
第2章
31話
しおりを挟む
「なんていうのかな……、行っちゃダメだって言われてる気がする」
城門を眼前にしたところでリュシールが珍しく弱気になった。外見は普通の城だが、中は複数の"光"の魔術師が待ち構える城塞だ。恐れるのも致し方無い。
「大丈夫。ここで待ってて」
「でも……」
「何かあったらすぐ連絡するから」
「うん、分かった」
セレスタは不思議と恐怖を感じていなかった。同じく"光"の魔術師だからだろうか、それとも闇の魔力が弱いからだろうか。
前回と同じように魔術で造った複雑な城内を案内され、気がついたら玉座の間にいた。聖騎士長四人が待ち構えており、その先の長い階段の上にも人影が見える。エスメルはセレスタを見ると口を開く。
「セレスタ様、早速ですが吸血鬼狩りの後どちらへ行っていたのか教えて貰えると幸いです。我々は貴女を誤解したまま去ってほしくない」
アレッシオ、ローラン、そしてマルツィアが厳しい顔でこちらを見ている。下手な嘘はつけない。
「もう一度館を見たいと思い戻ってしまいました」
「それなら私の部下を同行させたのに何故逃げるように離れたの?」
マルツィアの語気がいつになく強い。やはり怒っているのだろうか。それでも吸血鬼である事を公表していたならば、とっくに殺されていただろう。そもそも玉座の間に招かれるわけがない。
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
マルツィアが言い返そうとする前に数回わざとらしい咳払いが聞こえる。全員が玉座の方を見上げた。
「その気遣いは彼女ら、延いてはこの私まで侮辱しているのだぞ。我々は信頼できなかったか?」
「そういうわけではございません。ただ、噂を確かめたかったのです」
「噂とは?」
「吸血鬼と取引を行っている魔術師がいるというものです」
主犯と思しきアレッシオは顔色一つ変えず聞いていた。他の三人は僅かばかりだが動揺が表情に現れる。
「その噂の真偽を確かめるために我が国に入り込んだというのか?」
「いえ、当初の目的は"光"について調べるためです」
その時、玉座の間に立ち入る人物がいた。扉を開く音が室内にこだまする。
「失礼、遅くなった」
「陛下直々の緊急招集だぞ。何をしていた」
シルヴィオがアレッシオと教皇に形ばかりの謝罪をする。セレスタは彼の顔を見て気づいた。
「さっきの……?」
「マジで気づいてなかったのか。で、どういうことだこりゃ」
エスメルがここまでの会話内容を簡潔に説明する。それが終わるとシルヴィオは魔研での出来事を話す。セレスタも軽く頷きながら偽りないことを示す。
「というわけだ。スパイならこんな堂々と戻ってこないと思うぜ。噂とやらに関しては心当たりはないがな」
「セレスタさん、何か証拠はあるの? もし思うことがあるなら聞いておきたいわ。皆さんそう思ってるはずよ」
取り敢えず話は聞いてみるという空気にしてくれたシルヴィオとマルツィアの台詞は有り難かった。
セレスタは唾を飲み込む。ここから先はさらに慎重にならなければいけない。ただ真実を並べたてればいいわけではないのだ。聖騎士長同士で疑惑の目を向け合うように誘導できればアレッシオが動きにくくなる。それには誰が敵かもこの場で見定める必要があった。
「まず、リカルド前聖騎士長の死亡についてです」
聖騎士長たちの表情が明らかに驚いたものになる。まさかそこに繋がるとは思っていなかったのだろう。
「リカルドさんが死んだ日、この城から清掃員の老人が一人いなくなりました。その人は森に隠された地下牢にいます。彼はリカルドさんが殺されたところを見てしまい、取引相手の吸血鬼の餌として監禁されているのです」
「待って下さい。いくらなんでも突拍子がない」
エスメルが口を挟む。先程から少し呼吸が荒くなっている。
「大丈夫か。体調が悪いのなら退出しても良いぞ」
「いえ、問題ありません」
教皇の気遣いを跳ね除けて聞く姿勢を正した。
「では続けます。彼はリカルドさんが殺されたのを目撃した直後記憶がなくなり、気づくと牢にいたそうです。他にも女性や囚人が閉じ込められていました。そして吸血鬼に食べられているところも見ました」
「それで俺たち全員がグルだったらどうしてたんだ? この場であんたを消せばそれが事実でも隠蔽できるぜ」
「そちらがそうするなら戦うだけ……と言いたいところですが、それはないだろうと考えています」
「根拠を聞こうか?」
「吸血鬼側の目的は魔術の復活、そして人間側は……」
一呼吸置いて顔を斜め上の玉座に向ける。これまでより大きな声を出す。
「教皇陛下は気づいていらっしゃるのではないですか? 誰が貴女を狙っているのかを!」
玉座からの返事はない。代わりにマルツィアが一歩前へ出た。魔術を宿した手刀をセレスタに突きつける。
「その先を口にすれば答え次第ではただでは済まないわ」
他の聖騎士長たちの魔力も高まる。
城門を眼前にしたところでリュシールが珍しく弱気になった。外見は普通の城だが、中は複数の"光"の魔術師が待ち構える城塞だ。恐れるのも致し方無い。
「大丈夫。ここで待ってて」
「でも……」
「何かあったらすぐ連絡するから」
「うん、分かった」
セレスタは不思議と恐怖を感じていなかった。同じく"光"の魔術師だからだろうか、それとも闇の魔力が弱いからだろうか。
前回と同じように魔術で造った複雑な城内を案内され、気がついたら玉座の間にいた。聖騎士長四人が待ち構えており、その先の長い階段の上にも人影が見える。エスメルはセレスタを見ると口を開く。
「セレスタ様、早速ですが吸血鬼狩りの後どちらへ行っていたのか教えて貰えると幸いです。我々は貴女を誤解したまま去ってほしくない」
アレッシオ、ローラン、そしてマルツィアが厳しい顔でこちらを見ている。下手な嘘はつけない。
「もう一度館を見たいと思い戻ってしまいました」
「それなら私の部下を同行させたのに何故逃げるように離れたの?」
マルツィアの語気がいつになく強い。やはり怒っているのだろうか。それでも吸血鬼である事を公表していたならば、とっくに殺されていただろう。そもそも玉座の間に招かれるわけがない。
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
マルツィアが言い返そうとする前に数回わざとらしい咳払いが聞こえる。全員が玉座の方を見上げた。
「その気遣いは彼女ら、延いてはこの私まで侮辱しているのだぞ。我々は信頼できなかったか?」
「そういうわけではございません。ただ、噂を確かめたかったのです」
「噂とは?」
「吸血鬼と取引を行っている魔術師がいるというものです」
主犯と思しきアレッシオは顔色一つ変えず聞いていた。他の三人は僅かばかりだが動揺が表情に現れる。
「その噂の真偽を確かめるために我が国に入り込んだというのか?」
「いえ、当初の目的は"光"について調べるためです」
その時、玉座の間に立ち入る人物がいた。扉を開く音が室内にこだまする。
「失礼、遅くなった」
「陛下直々の緊急招集だぞ。何をしていた」
シルヴィオがアレッシオと教皇に形ばかりの謝罪をする。セレスタは彼の顔を見て気づいた。
「さっきの……?」
「マジで気づいてなかったのか。で、どういうことだこりゃ」
エスメルがここまでの会話内容を簡潔に説明する。それが終わるとシルヴィオは魔研での出来事を話す。セレスタも軽く頷きながら偽りないことを示す。
「というわけだ。スパイならこんな堂々と戻ってこないと思うぜ。噂とやらに関しては心当たりはないがな」
「セレスタさん、何か証拠はあるの? もし思うことがあるなら聞いておきたいわ。皆さんそう思ってるはずよ」
取り敢えず話は聞いてみるという空気にしてくれたシルヴィオとマルツィアの台詞は有り難かった。
セレスタは唾を飲み込む。ここから先はさらに慎重にならなければいけない。ただ真実を並べたてればいいわけではないのだ。聖騎士長同士で疑惑の目を向け合うように誘導できればアレッシオが動きにくくなる。それには誰が敵かもこの場で見定める必要があった。
「まず、リカルド前聖騎士長の死亡についてです」
聖騎士長たちの表情が明らかに驚いたものになる。まさかそこに繋がるとは思っていなかったのだろう。
「リカルドさんが死んだ日、この城から清掃員の老人が一人いなくなりました。その人は森に隠された地下牢にいます。彼はリカルドさんが殺されたところを見てしまい、取引相手の吸血鬼の餌として監禁されているのです」
「待って下さい。いくらなんでも突拍子がない」
エスメルが口を挟む。先程から少し呼吸が荒くなっている。
「大丈夫か。体調が悪いのなら退出しても良いぞ」
「いえ、問題ありません」
教皇の気遣いを跳ね除けて聞く姿勢を正した。
「では続けます。彼はリカルドさんが殺されたのを目撃した直後記憶がなくなり、気づくと牢にいたそうです。他にも女性や囚人が閉じ込められていました。そして吸血鬼に食べられているところも見ました」
「それで俺たち全員がグルだったらどうしてたんだ? この場であんたを消せばそれが事実でも隠蔽できるぜ」
「そちらがそうするなら戦うだけ……と言いたいところですが、それはないだろうと考えています」
「根拠を聞こうか?」
「吸血鬼側の目的は魔術の復活、そして人間側は……」
一呼吸置いて顔を斜め上の玉座に向ける。これまでより大きな声を出す。
「教皇陛下は気づいていらっしゃるのではないですか? 誰が貴女を狙っているのかを!」
玉座からの返事はない。代わりにマルツィアが一歩前へ出た。魔術を宿した手刀をセレスタに突きつける。
「その先を口にすれば答え次第ではただでは済まないわ」
他の聖騎士長たちの魔力も高まる。
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる