君と約束したダービー

宮田一歩

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プロローグ

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早くも初夏の到来を予感させる、鋭い日差しが降り注ぐ。

5月下旬の日曜日。時刻は約午前12時。
東京都、府中市。東京競馬場。
僕は地下馬道へ続くウィナーズサークル前の坂道で、騎手先輩達と一列に並んでいた。
並んでいるのは僕を含め計18人。
皆んな僕よりも年上だけど、僕とあまり年齢が変わらない若い人もいれば、50代の超ベテランもいる。当然外人騎手もだ。
何十人もの現役騎手がいる中で、に騎乗する特権を与えられた人間。

3年前に生まれた約7000頭の競走馬サラブレッドの頂点を決める戦い。
東京優駿、日本ダービー。

レース自体の発走は午後3時半くらい。
でも毎年いつも昼休みの時間帯に、観客に向けて日本ダービーで騎乗する人間の紹介が行われている。
だからアナウンスで紹介されるまで、ここで待機しているんだ。
周りで待機している先輩達がそれぞれ会話をしている中、僕は1人深呼吸をする。
ウィナーズサークルの方から聞こえる、数多の観客達の声。
その観客達の地響きのような熱気が、ブーツや勝負服を伝って、僕の体の中に入り込んでくる。
3だけど、普段の競馬場とは違う、この異様な雰囲気には心臓がドキドキするんだよな。

そして、


大音量の音楽が流れ始めると、騎手紹介のアナウンスが始まった。
名前を呼ばれる度、1人、また1人と前に並んでいた先輩達がウィナーズサークルの方へ走っていく。
そして僕の番になり、表情を引き締める。

アナウンスが流れて、僕は前に走り出した。


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