君と約束したダービー

宮田一歩

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1. 環境

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僕が競馬の騎手を目指すようになったのは、たぶん必然だったんだと思う。

僕は、東京の一軒家に住むとある家庭に生まれた。
父は中央競馬で調教師、つまり競走馬サラブレッドのトレーニングを行う仕事をしている。
父は若くして調教師になる為の試験に合格し、僕が生まれた時には数多くの実力ある馬達を任せられていた。
そんな父と結婚した母は、元々は千葉県にある牧場のスタッフなんだ。
父が預かる馬が牧場で休養する際、その馬の世話を母がしていたことから繋がりができたらしい。
徐々に2人は会ったり話したりする機会が増え、父がプロポーズしたとのことだ。
そして父方の祖父は昔、中央競馬で騎手をしていた。
通算勝利数は2000を超え、中央競馬で一番格式の高いG1レースを20回近く優勝した名騎手レジェンドだったみたいだ。
だから家の中や、たまに遊び行く祖父母の実家にはトロフィーなどが多く飾られていた。
土日はテレビで競馬実況が流れていて、それ以外の時間も家庭内で話される内容に馬がよく出てきた。

そんな競馬一家に生まれたもんだから、否応無しにも馬やその仕事に対して興味を持つようになるよ。
祖父が語る馬にまたがる面白さや、父が話すそれぞれの馬の個性について、僕は無邪気に楽しんで聞いていた。
テレビや親に連れられて行った競馬場で、目の前を爽快に駆けていく馬や、それを操る騎手を見てかっこよさを感じた。

騎手になりたい。

だから物心つく頃には、そう夢見るようになった。
でもその夢を叶えるには、多大な苦労を強いられることになった。

それは僕が体が小さくて貧弱で、とんでもないほどに不器用だったからだ。
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