灯り火

蓮休

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灯り火

二日目

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 4月2日

たける様起きてください」
 声が聞こえる、とても優しい声で癒される。
「早く起きないと殺りますよ」
 殺意を感じて素早く飛び起きる、背中に冷や汗をかきながら声がした方を見ると。
「おはようございます武様」
 笑顔の侍女さんが居た。

 侍女さんと共に一階のリビングに向かう、リビングに入るとテーブルの上に絢爛豪華な料理が並べられていた。市松模様に切られたりんご、一輪の華のように盛りつけられたオレンジ、中央にヘタをのせ周りを果肉で彩った向日葵のようなパイナップルなど様々な果物の飾り切りが並べられていた。
「すごい!」
「そうでしょう、私とお嬢様とで作りました」
「二人とも切るの上手ですね」
「はい、切ることに関して私の右に出る者はいません」
「なるほど」
 また背中に冷や汗をかきながら侍女さんと会話をしていると台所から三希みきが鳥の形に切ったりんごを持って出てくる。
「おはよう武」
 なぜか少し顔を赤くしながら三希が俺を見る。
「おはよう三希、顔赤いけど大丈夫?」
「えっ!昨日のこと覚えてない?」
「昨日?」
 昨日は確か洗い物をしてて、三希が二時間経ってもお風呂から出てこないから心配で声をかけに行って、あれ?その後の記憶がない。
「いや、覚えてないなら良いんだ」
 三希が安心したようにため息をつく。
「武様はもう少し太ったほうがいいですね」
「侍女さん?」
「では朝食にしましょう。武様はたくさん食べましょう」
「ちょっと!どういう事!?」
 俺はなぜか侍女さんに大量の果物を食べさせられた。自室に戻り制服に着替える、教科書や筆箱を鞄に入れて玄関に向かう。三希はまだ来ておらず朝火あさひの写真を見ながら三希が来るのを待っていた。
「おまたせ武」
 三希が侍女さんと一緒に走ってやって来る。
「遅くなってすまない」
「そんなに慌てなくていいよ」
 三希が息を整えるのを暫し待つ。
「もう大丈夫だ」
「じゃあ行こうか」
「うん」
「いってきます」
 俺は朝火の写真に挨拶して玄関のドアを開ける、後ろで三希も朝火の写真に挨拶をしていた。外は快晴で雲一つない天気だった、俺と三希が外に出ると侍女さんが声をかけてくる。
「武様、忘れ物はありませんか?」
「大丈夫です。侍女さんは今からどうするんですか?」
「私はお二人が帰ってくるまでこの家の掃除をしようと思います」
「分かりました」
千鶴ちづるいってくるね」
「はい、行ってらっしゃいませお嬢様。武様もお気をつけて行ってらっしゃいませ」
 侍女さんに見送られ俺と三希は学校に向かう。学校までの道中、俺は気になったことを三希に聞く。
「そういえば侍女さんはいつ来たの?」
「あー昨日の夜に私が呼んだんだ」
「なにかあった?」
「乙女にはいろいろ秘密があるんだ武」
「なるほど」
「ところで朝食は美味しかったか?」
「美味しかったよ」
「それは良かった」
 三希が嬉しそうに笑うのを見て、俺も嬉しくなりながら学校に向かった。

 学校に着くと大勢の生徒が登校していた。俺と三希は下駄箱で上履きに履き替えて一年B組の教室に向かう、俺と三希が教室に入るとクラスメートから注目を集め、三希は先程までの笑顔から一転つまらなそうに自分の席に向かっていく。俺も自分の席に向かい、椅子に座ると後ろの生徒が声をかけてくる。
「おいおい、どいうことだ借家かりや!」
「なにが?というか誰?」
「とぼけても無駄だ。例えお天道様が見逃してもこの俺、菊一きくいち宗司そうじの目は誤魔化されない」
 菊一宗司と名乗った男子生徒は金髪のショートヘアでチャラい見た目のイケメンだった。
「いや本当に意味が分からない」
「どうやって天ノ川あまのがわ三希さんと仲良くなった?」
 なるほど菊一は俺と三希の仲を気にしているのか、だったら同棲していることは言わないほうがいいな。
「来る途中で一緒になっただけだ」
「本当か?俺には二人が親密そうに見えたがな」
「目の錯覚だ」
「僕も気になるな二人は昨日の自己紹介の後、先生に呼ばれてたし」
 菊一と会話をしていると左隣からも声がかけられる。
「誰?」
「僕は蒼井あおいそらよろしくね」
 蒼井空と名乗った男子生徒は水色の髪を揺らして優しく笑う。
「昨日、自己紹介したけど覚えてない?」
「ごめん。昨日は緊張で周りの声が耳に入らなかった」
「フッ、ダサいな」
「黙れ菊一」
「なんだとテメエー!」
「まあまあ二人とも落ち着いて」
 菊一と一触即発になるが蒼井が間に入って止めてくれる。
「話は戻るけど借家君と天ノ川さんはどいう関係なの?」
 蒼井が興味深そうに俺を見る、菊一も睨みながらこちらを見てくる。
「俺にとって三希は大切な人だ」
「「えっ!」」
 二人は驚くが本当の事だ、お世話になっている白雨はくう理事長の大切な人だからな。
「そっか二人はそういう関係だったんだ」
「俺は認めねーぞ」
 蒼井も菊一もよく分からない反応をしていた。
「みんなおはよう、朝のホームルーム始めるよ」
 教室に七水菜なずな先生が入ってきて生徒達が席に着き始める。蒼井は笑顔で左隣の席に座り、菊一はしぶしぶ後ろの席に座っていた。こうして俺の二日目の学校生活が始まった。 
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