灯り火

蓮休

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灯り火

決闘

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 授業中、俺はずっと目の前の人物にイライラしていた。思えば最初から気に入らなかった、自分の名前を歴史に刻むだ?ふざけるなよ歴史に名を刻むことがどれだけ難しいかテメエは知っているか?自分の限界を知った時の絶望をテメエは知ってるのか?どれだけ足掻いてもに辿り着けない自分を認めるのがどれだけ苦しいか。目の前の人物は一生懸命にノートをとっていく、その一生懸命さも腹が立つ。一生懸命にやれば全て叶うと本気で思ってるのか?全て報われると本当に思ってるのか?借家かりやたける

「今日はここまで」
 七水菜なずな先生の言葉と同時にチャイムが鳴り、俺は握っていたシャーペンを手放し机に突っ伏す。
「大丈夫?借家君」
「大丈夫だよ」
 声をかけてくれた蒼井あおいになんとか声を絞り出す。
「解らないところがあったら僕に聞いてね?」
「ありがとう。蒼井は優しいな」
「いやいや、そんなことないよ」
「フッ、先程の授業についていけないとは情けないな」
 蒼井と話していると後ろから声をかけられる。
「蒼井さっきの授業で解らないところがあったから聞いてもいい?」
「う、うん良いよ」
「フッ、あの程度で解らないとはさてはお前バカだな」
「蒼井この問題なんだけど」
「えーとこの問題は」
「おい!無視してんじゃねー!!」
 いい加減うるさいので後ろを振り返る。
「どんだけ構って欲しいんだよお前は」
「ハッ、俺様がテメエみたいな奴に構って欲しいわけないだろ」
「じゃあ話しかけんな」
「フッ、これは話しかけてんじゃない。借屋武、テメエをバカにしてるだけだ」
「そうか」
「俺はテメエが嫌いだ。自分のことが好きとかナルシストかよ、気持ちわりぃ」
菊一きくいち君、言い過ぎだよ!」
「うるさい!本当のことだろ。借屋武は自分のことが大好きで叶わない夢を見てるただのバカだ!!」
「菊一君!」
 なおも注意しようとする蒼井の肩に手を置き、俺は穏やかな笑みを見せる。そして、その笑顔のまま菊一を見る。
「なんだテメエ文句あんのか?」
 俺は心を落ち着かせて菊一に言葉をかける。
「黙れハゲ」
「はあ?」
 固まる菊一にさらに言葉をかける。
「教室で固まるなよ邪魔になるだろ、石ころ志願者ですか?お前じゃ石ころにも成れねーよ、成れて馬糞、臭いんで退いてもらって良いですか?」
「テメエー!」
「口臭い喋るな、もういいから馬糞に滑って死ね」
 睨んでくる菊一を俺は冷ややかな目で見る。けれど内心ではやってしまったと思っていた、もしも俺という人間に対して馬鹿にされたのならなにも言い返さなかっただろうは自分自身のことを生きてる価値はないと思っていたから。だが今回はを馬鹿にされた、過去に悪意ある言葉に晒された結果、俺は人を見定める力が養われた。だから朝火あさひから武の話を聞いて武が未来ある人だと感じた、武という人は大切な者の為に一生懸命に生きていたのだと俺はその意志を受け継ぐと決めた。そんなを馬鹿にされ腹が立ち、菊一に言い返してしまった。
「テメエーマジでぶっ殺す」
「うるさいお前の排出するCO₂で地球温暖化なんだよ、もう一生呼吸するな」 
「テメエーふざけるなよ、こうなったら決闘だ」
「菊一君落ち着いて」
「うるせーここまで言われて引き下がれるわけねーだろ!!」
 菊一が不敵に笑う。まあ、ここで逃げても後から難癖をつけられるだけだし。
「その決闘受けるよ」
「よし」
 菊一がこれまでより大きな声で話始める、教室のクラスメートに聞こえるように。
「今日の昼休みに学校近くの公園で決闘を行う、ルールは相手が降参するまで闘うデスマッチだ。これで良いか借家武?」
「良いよ、けどもし俺が勝ったら菊一には借家武を好きになってもらう」
「はあ?なんだよそれ」
「勝った時の報酬みたいなものだよ」
「フッ、いいぜ。じゃあ俺が勝ったらテメエには天ノ川あまのがわ三希みきさんと別れてもらう」
「分かった」
 菊一とそんなやり取りをしているとチャイムが鳴り二限目の先生が教室に入ってくる。その後、昼休みが始まるまで俺と菊一は席を立たず誰とも話すことなく昼休みを迎えた。昼休みを告げるチャイムが鳴ると俺と菊一は席を立ち教室を出る、教室のほとんどの生徒も付いてきて目的の場所、天ノ川高校の裏にある寂れた公園に向かう。俺は無言で歩き菊一は数人の女子生徒と話をしながら歩いていく、周りのクラスメートも一種のお祭りのように他の生徒と話をしながら歩いていく。少し後ろを見ると三希が誰とも群れることなく一人で歩いていた。
「・・・・っ」
 目が合うと睨まれた。

 公園に着くと菊一と向かい合い、その周りをクラスメートが取り囲む。
「じゃあ始めるぜ」
「そうだな始めよう」
 俺がそう言った瞬間、菊一が突っ込んでくる。俺はその場から飛び退いて菊一を避ける、菊一はすぐに俺の方へ再度、突っ込んでくる、俺はまた先程と同じようにその場から飛び退く。菊一が突っ込んでくれば俺は飛び退く、そんなやり取りを何度も繰り返す。次第に菊一の足が止まり睨みながらゆっくり近づいてくる、俺は動かずに菊一が来るのを待つ。手を伸ばせば届く距離になった瞬間、菊一が右拳で殴りかかってくる、俺はその拳を見ながら体を後ろに反らして避ける、次に左拳がくるのを体を沈めて避ける、そして迫る右足の蹴りを後ろに下がって避ける。どれほど拳がきても蹴りがきても俺は避けて避け続ける。次第に菊一の息が上がり動きが鈍くなっていく、けれど俺からは手を出さないに手を出す価値はない。菊一が劣勢になるにつれて周りの生徒達が静かになっていき、時間が経つにつれ一人また一人と学校に戻っていく。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る頃には公園に残っていたのは俺と菊一そして蒼井と三希と黒いフードを被った小柄な女子生徒だけだった。
「どうして」
「うん?」
 菊一が息を切らしながら俺に問いかける。
「どうして殴らない!?」
「簡単なことだお前が本気を出していないからだ」
「なんだと?」
 俺はズボンに隠していた木刀を取り出し菊一の方へ投げる。
「菊一家は刀の名家だろ、なら刀で戦うのが当然だ」
「ふざけるな!テメエは素手だろ」
「黙れよ菊一」
 俺は菊一の目を見ながら言葉を紡ぐ。
「今のお前じゃ俺には勝てない、どうする菊一宗司そうじ
「フッ、後で後悔するなよ」
 菊一が木刀を手に取り正面に構える。ここからが本当の決闘だ。
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