彼はいかにして恋愛をあきらめたか

ミヤハル

文字の大きさ
1 / 1

彼はいかにして恋愛をあきらめたか

しおりを挟む
「お前、そう言えば恋人作るのは諦めたのか?」
 問われた言葉に俺は動きを止め、すぐにため息とともに返事を返した。
「実は、途中まで上手く言ったんですがね」
「おうおう、さぁはなせ」
 立ちあがり、机に手をつけ、身を乗り出した上司は、非常に楽しそうな表情をしている。
 身長は握りこぶし一つ程小さく、銀の髪は真っ直ぐに。二十歳を三つ越えた幼馴染兼上司は美女である。そんな美女に迫られて嫌な気持ちになろうはずがない。
 ただし、悲しい気持ちにはなる。
「実は、一歩進む前に彼は運命の恋に落ちてしまい、俺との恋愛は上手くいかない感じになってしまいまして」
「え、お前、男と恋に落ちるつもりだったの?」
「女性と恋に落ちようとすると皆さんそろって別の方と恋に落ちてしまうので、もう視点を変えて男と付き合ってみようと思ったんです」
「あー、うん。ごめん」
 笑顔で手を合わせる上司は非常に美人だ。
 しかも幼馴染だ。
 騎士学校では一番仲が良かった。
 恋に落ちるのは当然のことだった。
 しかし、運命は皮肉なものだ。

 ある日、少年だった俺は彼女と「自分の秘密を教え合う」という遊びに挑戦した。
 脳内の計画では彼女は俺のことが好きだと(一番仲いいし、一番性格も会うし、一番俺と遊ぶし勝算はあると思っていた)、そして、俺は彼女が好きだと告白し、やったね両想いうっはうっは楽しいラブラブ生活の幕開け!
 となるんじゃないかと思っていた。

 が、しかし。

「じゃあ、私の秘密を、教えるね」
 上目遣いで非常に麗しい。紫の瞳に俺は人生最大の決め顔を放ちながら彼女を見ている。
「実は私――、おんなのこがすきなの」
 

 初恋の幼馴染は同性愛者だった。
 俺は異性である。
 恋は儚く散った。
 そして、それから10年。
奇跡的なことに、俺の恋愛は未だに全て始める前から終わっている。

「まず、貴方がモテ過ぎなんですよ」
「いや、うん。こればっかりはうん」
 照れたような顔で謝る幼馴染はしかし、既に運命の相手と出会ってしまっているので、別段俺の恋路を邪魔するつもりはない。
 ただ、俺の星のめぐりあわせが抜群に悪いだけ。そうだ、そうとしか言えない。
「花屋のレティーシアも仕立て屋のローレンもなぁ、いいとこまで行ったのになぁ」
「うん、二人ともいい子だな」
「でも、貴方に恋に落ちちゃうんですよねぇ」
「いや、だけど!パン屋のミカエラと侍女のミリアンナは違うじゃん?!」
「お忍びでやってきてた隣国王子と柱の陰から愛でてた宰相閣下にとられるとは思いもよりませんでした」
「あー、うん、私も思わなかった」
 自分で自分を追い詰めるような形になって頭が下がり始めた上司のつむじを眺める。
 こいつに恋した俺は間違っていない。
 こいつは非常にいい女だ。
 いい友人だ。
 正直こいつに惚れた過去の想い人達に恨みは無い。
 まず、そこまで深い仲になっていないし、上司は非常にいい女で、漢気と言うものがある。こいつに惚れられたら俺はそう、文句も言えない。
 いい趣味してるねー、がんばってねーと言うしかない。
 頑張ってねーというのはあれだ。上司の恋人もそれなりに凄い人、っつーか王女兼聖女でこっちも凄い素敵な女性なので割と奪還はむずいことからくる。
 隣国王子と宰相閣下にも恨みは無い。
 隣国王子の非常に熱血馬鹿な性格や宰相閣下の冷血漢で根暗な性格に思うところはあるものの、彼らは彼らなりにまっすぐな想いを抱いていたし、何より両方美男子だ。俺の10倍くらい。
「やはり、顔か……」
「お前もそれなりに美男子だと思う、よ?」
 だが、それなりなのであんまり意味ないかもしれん。
「ていうか、結局その、恋に走れなかった相手の男って一体どんな運命の相手に?私でも隣国王子でも宰相でもないだろ」
「それはですねー」
 あぁ、思い出す。昨日の昼過ぎ。
 彼はいい男だった。線が細く、しかし、バランスのいい身体。短くかった髪は濃い茶色。柔和な笑顔は落ち着くと同時にある種のざわめきを俺に与えた。
 男に恋に落ちたことはないが、彼ならなんかいけるよーな気がした。つーか、半分くらい落ちてた。
 うん。
「誠に言いにくいので他言無用でお願いしたいのですが」
「うん大丈夫!他言しない!ていうか、まさか、国王とか?!」
「いえいえ、そのですねー」
 うん。
 あ、やべ。ちょっと涙でてきそう。
「馬です」
「……?は?」

「ですから、彼は俺の愛馬だったジョゼと恋に落ちたんですよ」
「はぁー?!」


 思い起こせば三日前、彼と俺の休日がかぶり、遠乗りをしようと言うことになった。
 あの朝、最近デスクワークばかりで相手をしてやれなかったジョゼをつれ、俺は彼との待ち合わせ場所に向かった。
 そして、彼とジョゼの視線があった瞬間、俺は「あ、やべ」という感覚を覚えた。
 何回もあったっけなぁ、こんな状況。
 二人(というか、一人と一頭)は何ごともないふりをして、ちらちらと互いに視線を寄せあっていた。
 帰り道。俺は別れ際に彼に言った。
「ジョゼのことを愛しているかい?」
 彼は泣きそうだった。
 幾度も口ごもり、しかし、言葉は出てこない。俺の乗る彼女を見た。彼女がどんな顔をしていたか俺には見えなかった。でも、彼の表情がだんだん意志を帯びるのを見て理解した。
 彼は俺の目を見て、想いを吐きだした。
「一目ぼれなんだ……、彼女を俺に譲ってくれ……。大切にする……」
 そうして、俺は一人と一頭を見送った。彼の馬は俺の馬になった。
 彼の頭と同じ、茶色の毛なみ。ピカロというそうだ。
 ピカロと目を合わせて見た。
 恋は芽生えそうになかった。

「――あー、うん」
 おうおう、上司が反応に困っている。
「と言うわけでして。ちなみに彼は旅に出ると言ってあれからすぐに騎士団をやめたんですが」
「――あいつかぁあああ、いや、うん。なんでもない。私は知らないぞ、知らないからな!聞いてない、個人情報聞いてない」
「ご配慮ありがたく思います」
 腰を折ると上司は大きくため息をついた。
「……お前にもいい出会いはあるって」
「と、いいんですけどねえ」
「つーか、未だに童貞なんだっけ?」
「なんかこう、幼い日の浪漫っていうか、好きな人と結ばれたくって?」
 我ながら阿呆みたいだが、本気である。
「……顔も性格も悪くないんだけどなぁ……、こういう変な乙女心さえなければ」
「うっさいですよ、順調に愛を育む人にはわかんないんです」
 強く言い切った瞬間、ドアを叩く音がした。上司が「どうぞ」と声を上げ、すぐにドアが開く。その隙間から子供くらいの背丈の白塗りの仮面が覗いた。
「……一番隊隊長様、補佐官様、宰相閣下がお呼びです。早く来てください」
「げ、あの根暗冷血漢……」
「漏れてますよ、黙って」
 暗い表情で毒づいた上司を小突き、「今行きます」と返すと仮面はすぐに引っ込んだ。
 確かあれは宰相の甥っこだかっていう子どもだったか。宰相はこの国一番の魔法使いで、割と正体不明なところがあるのだが、それのつれている子どもと言うことは相当あれも魔法の使い手には違いない。仮面をかぶっているのもその魔法の力ゆえ、とか何処かで聞いたことがあった。
 騎士になる程度の魔力しかない俺には色々わからないが、まぁ、きっとなんか凄いやつなのだろう。
 こう見る分には仮面かぶった唯のガキだが。
「行くぞー」
「はいはい」
 気持ちを入れ替え、仕事に向かおう。
「まぁ、お前にもいい相手出来るってぇ」
「だといいんですけどねぇ」
「……」
 上司に肩を叩かれながらドアをくぐると子どもがいた。伝達者だ。
「……」
 仮面の奥から無言で見つめられるも、上司に引っ張られて俺は廊下を行く。
「ではー」
 手を振ると、少し肩をふるわせた後、ぱっと姿を消した。空間転移だ。あんなもん、予備動作無しで行うなんてすさまじい魔法の腕だ。
 しかし、つまらないガキである。






「手、振られた」
 小さくつぶやく声が狭い部屋に満ちた。
 仮面をとると、その面は白く繊細に整い、唇は血のように赤い。
 金の髪はゆるく波打ち、瞳は漆黒。
可憐な少女はそっと胸に手をやる。
 ふくらみのない、薄い胸。
「今度、手、振りかえそう」
 そう思って、ぎこちなく笑顔を浮かべ、少女は仮面を握りしめた。
 

 その日、上司と補佐官は東部出張を命じられ、3日とせずに王都を去り、任地に足を下ろした。

 5年後、補佐官は一人の少女と出会う。
 金の髪を波打たせ、漆黒の瞳を持った生ける人形はそこで恋に落ちたのだが、またそれは別の話である。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

処理中です...