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第1章 Aria ~国立能力研究所~(未来 中学生)
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「佐川未来さん?」
不意に頭上に影が差し、若い男性の声が聞こえた。のろのろという動作で顔を上げた未来は小さく首をかしげると同時に、公園に響くざわめきが耳に聞こえてきた。考え事をしていたからか、さっきまで誰もいなかった公園に人が集まっていることに気づいていなかった。
そんな中、未来に声をかけてきたのは二十代半ばくらいに見える男性だった。きちんとスーツを着た社会人風の男性が未来のような中学生に何の用なのだろう。
「そうです、けど」
知らない人間に声をかけられたら直ぐに逃げなさいと言われていたが、未来にその意思はなかった。男性が何となく信じられると感じたから、なんて不思議な理由ではなくもしここで何かあっても構わないと思ったからだ。もし何かあれば、それが神と呼ばれる存在が未来に与えた罰なのだろう。
「私はこういうものです」
男性は未来の隣に腰かけると、スーツの胸ポケットから名刺を取りだして、差し出してきた。
「Aria国立能力研究所……三波千鶴……?」
女の人のような名前だな、とぼんやりと思いつつ、名刺の文字を凝視する。未来が気になったのは「国立能力研究所」の部分だ。一体全体なんなのか、意味が瞬時には理解できない。
「簡単に言うと超能力者を保護し、その能力を研究する機関ですよ。……ああ、もちろん非人道的な事をやっているわけではありません。能力を暴走させ、人を傷つける事が無いように、の研究です。どちらかというと能力者の保護と教育が一番の仕事ですね」
「超能力って……」
あの、漫画やアニメなんかに出てくる超能力だろうか?もしそうだとしたら……この男性はいい年してそんなことを信じているというのか。でも、いたずらにしては手が込み過ぎている気もする。
そんな呆れたような、不審そうな未来の様子に気が付いたのか、三波千鶴は小さく笑みをこぼす。
「超能力にも、いろいろとあるけど、細かい説明はいったん割愛させてもらう。まず、私が持つ能力だけど、”霊視”といって、まあ幽霊を見たり、彼らの記憶を見たり……ある意味一番オーソドックスでかつ、いろいろなことができる能力で、かつ、初期の能力でもある。能力の証明は難しいけど……君もその能力者の一人だ。だから、私が会いに来た」
未来が小さく顔をしかめる。未来に超能力なんて……
「夢を見るだろう?そして、その出来事が実際に起こっていた」
未来の脳裏に、冷たい表情を浮かべる男性の姿が浮かんだ。のどがカラカラに乾いてくる。
「わ……私は……、そんなの、単なる偶然……」
「偶然ではないよ。今から一週間あげよう。君はその間自分が見た夢の状況をインターネットで検索してみるといい。一致するものが、かなりあるはずだ。……もし、話を聞く気になったらここに連絡をして」
男性は、未来の返事も待たずにその場から立ち去った。
未来は握りしめている名刺に視線を落とす。冗談や嘘だとは思えなかった。彼のあの顔には未来に対する嫌悪が浮かんでいた。本当に騙すつもりならそんな表情はかけらも浮かべないだろう。彼はあのことを知っている。そのうえで接触をしてきたのだ。
未来は鞄の中に入っているノートに目を落とし、小さくため息をついた。未来はあの翌日、さっそく千鶴に電話をした。予想以上に早かったのに驚いたようだったが、千鶴もさっそく会えるように調整をしてくれた。
未来はいつから夢を見るようになったのかは覚えていない。でも、文章を書く練習と、絵が下手な未来が唯一上手に描けることが嬉しくて、一年位前から夢日記をつけていた。未来が夢を見る頻度はまちまちだ。毎日のように見る時もあれば、二週間以上まったく見ないこともある。
未来は千鶴に会った日、その日記の内容を一から検索してみた。もちろん明らかにありえない内容は省いたが、それでもほとんど寝る時間が取れなかった。その結果わかったのは、未来が見た夢の九割(といっても、ネットで調べればわかるであろう内容に限ってだが)が実際に起こったことだった。ここまで一致をすれば事件になっていない日常的な内容や、過去、それも数百年前?の出来事も実際に起こった内容の可能性が高い気がする。事件のうちの一割だって、表面化していない、報道されていないだけの可能性もある。
「ずいぶん早かったが、納得はしたのか?」
半分意識が飛びかけていた未来はあわてて顔を上げた。目の前の椅子に座ったのは、この間とは違いラフな格好をした千鶴だった。
「……一年位前から、夢を見た日に、日記をつけていたんです。……その中で事件みたいな夢のうちの約九割が……実際に起こったことでした」
すっと鞄の中から一冊ノートを取り出して差し出す。それには夢日記のほか、今回ネットで調べた内容も簡単に羅列してある。それを見た千鶴の表情に小さく笑みが浮かぶ。今までの冷たい表情とは違う、どこか温かみのある表情だった。
「ノートは何冊くらい?」
「十冊です」
ぱらぱらとノートを見ていた千鶴が顔を上げる。
「その中の全てを検索したのか?」
「いえ、私が調べたのは、事件になっている可能性のある物、だけです。他は調べようがありませんし。……一応それぞれの下にネットで検索出来たものは簡単に書いておきました」
再びノートに目を落とした千鶴が小さく頷く。
「君は絵が得意なのか?」
夢日記の上には夢の中で未来が印象に残った条件をデッサン画で書いてある。それを見ての反応なのだろうが、未来は別に絵が得意なわけではない。夢を見た直後、その時だけなぜか夢の情景を絵として描くことができるのだ。夢日記を書き始めた二、三回はそのことを知らなかったため文字だけだ。でも、文字だけの文章だと自分での想像も上手くいかず、下手でもいいからと書いた絵が「プロ?」と思えるようなものだったのに驚いた記憶がある。でも、一日以上たった夢の絵や他の絵はやはりあまり上手には書けなかった。
「いえ、夢を見た直後、夢の絵だけです」
静かに答えた未来に千鶴が小さく頷く。
「なるほど、ね。さて、と。ではAriaについては信じる気になったか?」
未来が再び頷く。Ariaについて信じるかはともかく、未来自身に不思議な能力があるのは事実なのだろう。
「そうか、ならAriaについて簡単に説明しておくか……と、その前に、佐川未来、君は専用のパソコンを持っているか?」
軽く首をかしげた千鶴に未来が頷く。半年前から約三カ月ほど、未来はほとんど外に出なかった。そんな未来の事を心配してか、両親がせめて外とのつながりを、と専用のパソコンを購入してくれた。元々文章を書くのが好きでノートに色々と落書きをしていたので、今では毎日のようにパソコンに向かっている。元々両親のパソコンを良く使っていたが、それさえしなくなったことで余計に心配をかけたらしい。
「はい。持ってます」
「そうか……なら話は早い。今日も簡単に説明はするが基本、授業形式でAriaや能力について学んでもらう。Ariaに所属する心構えも含めて、能力者が知らなければならない事が山ほどある。別にAriaは学校ではないからテストはないが、その内容、能力、授業態度によって今後の君たちの立ち位置が変わってくる。まぁ、それはおいおい伝えていくが、まず、授業を受けるのには予約がいる。……君は明日以降で確実に自宅のパソコンに触れる日はあるか?」
「明日の十八時以降なら」
部活をやっていない未来は十七時半には家に帰ってこれる。いろいろ準備や着替えをしても十八時過ぎなら余裕だろう。
「なら、十八時半までにここにアクセスしなさい」
千鶴がテーブルの上に一枚の紙と名刺サイズのカードを置いた。紙にはURLが書いてある。カードの方には撮影した記憶がない顔写真と(いつ撮ったんだろう……?)名前。裏には名前、能力、会員番号が書いてあった。能力の欄には「夢見の力」とある。
「夢見の力……?」
「まぁ、夢を見る力だね。名前はこちらで勝手につけた。あまり気にしなくてもいい、それより君に伝えておきたいことがある」
そう告げた千鶴の目は先ほどと同じ、鋭く冷たい色をしていた。あまりに冷たい色に未来の体がビクリ、と震える。
そんな未来の様子に気づいていないのか、それとも気づいていて放置しているのか、千鶴は堅い表情のまま言葉をつづけた。
「君は能力者とはどういう存在だと思う?」
突然の問いに、未来は答えられない。自分に不思議な力があることにようやく納得したところだというのに、いきなりそんな事を聞かれても解らない。
「どういう……」
「能力を得た人間はいくつかに分かれる。……その中でさほど人数は多くないが、それなりに存在しているのが「能力を使って犯罪を犯す者」だ。私たちは必然的に他者より強い。能力によるが、人を簡単に傷つける事も、逆に守ることも出来る。昔はそのせいで迫害されていた者さえいる。”魔女裁判“なんて言葉に聞き覚えはあるだろう?」
未来が小さく頷く。魔女裁判、未来が読む小説にもよく出てくる言葉だ。
「それは結局強い力を持つ者を持たないものが恐れた結果だ。では、何故恐れるのか、それは自分にはない力を持っているからだ。私はそれを、その力を他者を傷つけるために使うものは許さない」
未来が目を見開いた。脳裏に浮かぶのはやはり冷たい目をした男性。
千鶴の言葉は未来だけに向けたものではないだろう。でも、未来は自分に向けられた言葉のような気がした。
「私は……そんなつもりは……」
「そうだな。君は自分の力を知らなかった。ただの夢と考えていたからこそ、その情景を小説にして配信したのだろう。運が悪かったとも言える。だけど、遺族にとってはそうではない。……だから、君は自分の力を知る必要がある。その上で、一つ約束してほしい」
未来は千鶴から目を離さなかった。否、離せなかった。
「小説を書くな、とは言わない。君にとって物語を描(えが)くことは生きる事、なのだろう?だが、その上で起りうる事態を考えてほしい。……夢から小説を起こす場合は一度考えてほしい。これが、実際に起った事件である可能性を忘れるな」
黙って聞いている未来に千鶴がフッと笑みをこぼす。
「君の書く文章で、人を傷つける事も、逆に救う事も出来る。それを、忘れないで欲しい」
静かな千鶴の言葉は、まっすぐと未来の中に響いて来た。未来は一生この言葉を忘れない、そう、心に誓った。
不意に頭上に影が差し、若い男性の声が聞こえた。のろのろという動作で顔を上げた未来は小さく首をかしげると同時に、公園に響くざわめきが耳に聞こえてきた。考え事をしていたからか、さっきまで誰もいなかった公園に人が集まっていることに気づいていなかった。
そんな中、未来に声をかけてきたのは二十代半ばくらいに見える男性だった。きちんとスーツを着た社会人風の男性が未来のような中学生に何の用なのだろう。
「そうです、けど」
知らない人間に声をかけられたら直ぐに逃げなさいと言われていたが、未来にその意思はなかった。男性が何となく信じられると感じたから、なんて不思議な理由ではなくもしここで何かあっても構わないと思ったからだ。もし何かあれば、それが神と呼ばれる存在が未来に与えた罰なのだろう。
「私はこういうものです」
男性は未来の隣に腰かけると、スーツの胸ポケットから名刺を取りだして、差し出してきた。
「Aria国立能力研究所……三波千鶴……?」
女の人のような名前だな、とぼんやりと思いつつ、名刺の文字を凝視する。未来が気になったのは「国立能力研究所」の部分だ。一体全体なんなのか、意味が瞬時には理解できない。
「簡単に言うと超能力者を保護し、その能力を研究する機関ですよ。……ああ、もちろん非人道的な事をやっているわけではありません。能力を暴走させ、人を傷つける事が無いように、の研究です。どちらかというと能力者の保護と教育が一番の仕事ですね」
「超能力って……」
あの、漫画やアニメなんかに出てくる超能力だろうか?もしそうだとしたら……この男性はいい年してそんなことを信じているというのか。でも、いたずらにしては手が込み過ぎている気もする。
そんな呆れたような、不審そうな未来の様子に気が付いたのか、三波千鶴は小さく笑みをこぼす。
「超能力にも、いろいろとあるけど、細かい説明はいったん割愛させてもらう。まず、私が持つ能力だけど、”霊視”といって、まあ幽霊を見たり、彼らの記憶を見たり……ある意味一番オーソドックスでかつ、いろいろなことができる能力で、かつ、初期の能力でもある。能力の証明は難しいけど……君もその能力者の一人だ。だから、私が会いに来た」
未来が小さく顔をしかめる。未来に超能力なんて……
「夢を見るだろう?そして、その出来事が実際に起こっていた」
未来の脳裏に、冷たい表情を浮かべる男性の姿が浮かんだ。のどがカラカラに乾いてくる。
「わ……私は……、そんなの、単なる偶然……」
「偶然ではないよ。今から一週間あげよう。君はその間自分が見た夢の状況をインターネットで検索してみるといい。一致するものが、かなりあるはずだ。……もし、話を聞く気になったらここに連絡をして」
男性は、未来の返事も待たずにその場から立ち去った。
未来は握りしめている名刺に視線を落とす。冗談や嘘だとは思えなかった。彼のあの顔には未来に対する嫌悪が浮かんでいた。本当に騙すつもりならそんな表情はかけらも浮かべないだろう。彼はあのことを知っている。そのうえで接触をしてきたのだ。
未来は鞄の中に入っているノートに目を落とし、小さくため息をついた。未来はあの翌日、さっそく千鶴に電話をした。予想以上に早かったのに驚いたようだったが、千鶴もさっそく会えるように調整をしてくれた。
未来はいつから夢を見るようになったのかは覚えていない。でも、文章を書く練習と、絵が下手な未来が唯一上手に描けることが嬉しくて、一年位前から夢日記をつけていた。未来が夢を見る頻度はまちまちだ。毎日のように見る時もあれば、二週間以上まったく見ないこともある。
未来は千鶴に会った日、その日記の内容を一から検索してみた。もちろん明らかにありえない内容は省いたが、それでもほとんど寝る時間が取れなかった。その結果わかったのは、未来が見た夢の九割(といっても、ネットで調べればわかるであろう内容に限ってだが)が実際に起こったことだった。ここまで一致をすれば事件になっていない日常的な内容や、過去、それも数百年前?の出来事も実際に起こった内容の可能性が高い気がする。事件のうちの一割だって、表面化していない、報道されていないだけの可能性もある。
「ずいぶん早かったが、納得はしたのか?」
半分意識が飛びかけていた未来はあわてて顔を上げた。目の前の椅子に座ったのは、この間とは違いラフな格好をした千鶴だった。
「……一年位前から、夢を見た日に、日記をつけていたんです。……その中で事件みたいな夢のうちの約九割が……実際に起こったことでした」
すっと鞄の中から一冊ノートを取り出して差し出す。それには夢日記のほか、今回ネットで調べた内容も簡単に羅列してある。それを見た千鶴の表情に小さく笑みが浮かぶ。今までの冷たい表情とは違う、どこか温かみのある表情だった。
「ノートは何冊くらい?」
「十冊です」
ぱらぱらとノートを見ていた千鶴が顔を上げる。
「その中の全てを検索したのか?」
「いえ、私が調べたのは、事件になっている可能性のある物、だけです。他は調べようがありませんし。……一応それぞれの下にネットで検索出来たものは簡単に書いておきました」
再びノートに目を落とした千鶴が小さく頷く。
「君は絵が得意なのか?」
夢日記の上には夢の中で未来が印象に残った条件をデッサン画で書いてある。それを見ての反応なのだろうが、未来は別に絵が得意なわけではない。夢を見た直後、その時だけなぜか夢の情景を絵として描くことができるのだ。夢日記を書き始めた二、三回はそのことを知らなかったため文字だけだ。でも、文字だけの文章だと自分での想像も上手くいかず、下手でもいいからと書いた絵が「プロ?」と思えるようなものだったのに驚いた記憶がある。でも、一日以上たった夢の絵や他の絵はやはりあまり上手には書けなかった。
「いえ、夢を見た直後、夢の絵だけです」
静かに答えた未来に千鶴が小さく頷く。
「なるほど、ね。さて、と。ではAriaについては信じる気になったか?」
未来が再び頷く。Ariaについて信じるかはともかく、未来自身に不思議な能力があるのは事実なのだろう。
「そうか、ならAriaについて簡単に説明しておくか……と、その前に、佐川未来、君は専用のパソコンを持っているか?」
軽く首をかしげた千鶴に未来が頷く。半年前から約三カ月ほど、未来はほとんど外に出なかった。そんな未来の事を心配してか、両親がせめて外とのつながりを、と専用のパソコンを購入してくれた。元々文章を書くのが好きでノートに色々と落書きをしていたので、今では毎日のようにパソコンに向かっている。元々両親のパソコンを良く使っていたが、それさえしなくなったことで余計に心配をかけたらしい。
「はい。持ってます」
「そうか……なら話は早い。今日も簡単に説明はするが基本、授業形式でAriaや能力について学んでもらう。Ariaに所属する心構えも含めて、能力者が知らなければならない事が山ほどある。別にAriaは学校ではないからテストはないが、その内容、能力、授業態度によって今後の君たちの立ち位置が変わってくる。まぁ、それはおいおい伝えていくが、まず、授業を受けるのには予約がいる。……君は明日以降で確実に自宅のパソコンに触れる日はあるか?」
「明日の十八時以降なら」
部活をやっていない未来は十七時半には家に帰ってこれる。いろいろ準備や着替えをしても十八時過ぎなら余裕だろう。
「なら、十八時半までにここにアクセスしなさい」
千鶴がテーブルの上に一枚の紙と名刺サイズのカードを置いた。紙にはURLが書いてある。カードの方には撮影した記憶がない顔写真と(いつ撮ったんだろう……?)名前。裏には名前、能力、会員番号が書いてあった。能力の欄には「夢見の力」とある。
「夢見の力……?」
「まぁ、夢を見る力だね。名前はこちらで勝手につけた。あまり気にしなくてもいい、それより君に伝えておきたいことがある」
そう告げた千鶴の目は先ほどと同じ、鋭く冷たい色をしていた。あまりに冷たい色に未来の体がビクリ、と震える。
そんな未来の様子に気づいていないのか、それとも気づいていて放置しているのか、千鶴は堅い表情のまま言葉をつづけた。
「君は能力者とはどういう存在だと思う?」
突然の問いに、未来は答えられない。自分に不思議な力があることにようやく納得したところだというのに、いきなりそんな事を聞かれても解らない。
「どういう……」
「能力を得た人間はいくつかに分かれる。……その中でさほど人数は多くないが、それなりに存在しているのが「能力を使って犯罪を犯す者」だ。私たちは必然的に他者より強い。能力によるが、人を簡単に傷つける事も、逆に守ることも出来る。昔はそのせいで迫害されていた者さえいる。”魔女裁判“なんて言葉に聞き覚えはあるだろう?」
未来が小さく頷く。魔女裁判、未来が読む小説にもよく出てくる言葉だ。
「それは結局強い力を持つ者を持たないものが恐れた結果だ。では、何故恐れるのか、それは自分にはない力を持っているからだ。私はそれを、その力を他者を傷つけるために使うものは許さない」
未来が目を見開いた。脳裏に浮かぶのはやはり冷たい目をした男性。
千鶴の言葉は未来だけに向けたものではないだろう。でも、未来は自分に向けられた言葉のような気がした。
「私は……そんなつもりは……」
「そうだな。君は自分の力を知らなかった。ただの夢と考えていたからこそ、その情景を小説にして配信したのだろう。運が悪かったとも言える。だけど、遺族にとってはそうではない。……だから、君は自分の力を知る必要がある。その上で、一つ約束してほしい」
未来は千鶴から目を離さなかった。否、離せなかった。
「小説を書くな、とは言わない。君にとって物語を描(えが)くことは生きる事、なのだろう?だが、その上で起りうる事態を考えてほしい。……夢から小説を起こす場合は一度考えてほしい。これが、実際に起った事件である可能性を忘れるな」
黙って聞いている未来に千鶴がフッと笑みをこぼす。
「君の書く文章で、人を傷つける事も、逆に救う事も出来る。それを、忘れないで欲しい」
静かな千鶴の言葉は、まっすぐと未来の中に響いて来た。未来は一生この言葉を忘れない、そう、心に誓った。
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