Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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第1章 Aria ~国立能力研究所~(未来 中学生)

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 未来は気が付いたら真っ暗な空間にいた。右を見ても左を見ても真っ黒な空間だ。それは、いつもの夢の始まりだった。
 未来が千鶴に言われるままに自分の力について研究を始めてから約一月。たった一ヶ月で色々な事が分かってきた。一つは未来が見る夢には大きく分けて四種類ある事。そして、その夢の見分け方。一つは今のように真っ黒な、何もない空間から始まる夢。これには2種類あり、過去に起きた出来事を見る夢とこれから起きる出来事を見る夢だ。その2つははっきりとは見分けがつかないが、その時の状況を観察するとわかるときもある。例えば近くに日時の書いた電光掲示板があったり、などだ。次に、真っ白な空間から始まる。何もない空間、その時には未来の妄想、想像の世界だ。今書いている小説の世界だったり、全く関係ない世界だったり、そういった世界観を元に新しい小説を描くことも多々ある。最後に、真っ青な空間、まるで水の中にでもいるような青と光が入り混じった空間から始まる夢。それは、未来が好きな小説の裏話的な物語や、時には未来がその世界に入り込んだ話などがある。そういう話を連続してみる事もあり、まるでアトラクションなんかで疑似体験しているみたいな感覚に陥ることもある。自分が入り込んでいる夢の時には、始まりは夢とわかっているのに、気が付いたら未来は佐川未来としてその世界で普通に生活しているのだ。原作に沿った話だったり、全く関係ない話だったり。共通して言える事はその世界もまた未来の意志からできているのだろうが、未来が自由に偽の未来みらいを築けるわけではないらしい。
 今まで見る夢は夜眠った後だったのに、ここに来る前は確か学校で体育の授業をしていたはずだが、一体全体なぜ夢を見ているのだろう……。

 ぼんやりとした真っ黒な空間に徐々に光が見え、周りの景色が見えるようになってきた。それでもまだ薄暗い。
 未来は木々の生い茂る森の中にいた。光は木と木の間から見えるかすかな光のみだ。ここがどこなのか、何か目印はないかとあたりを見回した未来は少し離れたところに通っている道路が見えた。その道路の所まで歩いていくと、そこがどこだかようやくわかった。そこは通称「悪魔の森」と呼ばれる森だ。正式名称は覚えていないが、自殺の名所と言われるくらい気味の悪い場所だった。そこの夢を見る、というのは碌な状況とは思えない。
 グラリと地面が揺れ、再び先ほどの場所に立っていた。これが過去なのか未来なのかはわからないが、実際に起ったこと、起きる予定の事であることだけは確かだ。
「……めんね、ごめんね……」
 小さく女性の声が聞こえてくる。どうやら泣いているらしく、何を言っているのかはっきりと聞き取ることができなかった。
 きょろきょろとあたりを見回すと、少し離れた木の所に女性が座り込んで何かを埋めていた。懸命に土を掘り、その中に何かを投げ入れる。ドサリと音を立て落ちたそれを覗き込んだ未来は衝撃のあまり、その場に座り込んだ。その何かは、人だった。正確には人の赤ん坊だったもの。頭が真っ赤に染まり、既に生きていない事が一目で分かった。
 声も出せずにその場にへたり込んだ未来を、女が振り向いた。それはどこにでもいる、大人しそうな女性だった。年は30代前半くらいだろうか。どこか疲れているような印象があった。
 目があった瞬間、ぞっとする物を感じた。女は泣いているのに、涙を流しているのに、その目が笑っていた。

 パッと目を開けるとそこは学校の保健室だった。慌てて起き上がった未来に保健室の先生……名前は何と言ったか記憶にないが……が心配そうに駆け寄ってくる。
「佐川さん、大丈夫?あなた、体育の時間に倒れたのよ」
 何故寝ていたのかその理由は分かったが、今の未来はそれどころではない。今見た夢を、未来なのか過去なのか知らないが、その夢を忘れないうちに書き出さなければならない。時間が経つと状況を言葉にすることはできるが、絵として残すことができなくなってしまう。でも、今未来がいるのは家じゃない。夢日記は持っていない。
「紙とペン……」
「え?」
「紙とペン、ありますか?」
 開口一番に告げた言葉に、先生がぽかんと目を見張るのが滑稽だった。こんな状況でなければ笑っていただろう。でも、今はそんな余裕はない。
「早く!!」
 普段おとなしい未来の焦るような言葉に先生が呆れたように紙とペンをとってくれた。未来は先生が貸してくれたバインダーに紙を載せると三種類の絵を描く。一つは未来が穴の中を覗きこんだ光景。一つは女がこちらを振り向いた時の状況。そして、道に出てあたりを見回した時の状況だ。そしていつもと同じようにわかる限りの情報を書きだしていく。
「何を書いているの?」
 先生が紙を覗き込んできたので慌てて隠す。これを見られるわけにはいかない。
「何でも、ありません。ありがとうございました」
 バインダーとペンを返し、紙を丁寧に折りたたんでポケットに入れた。今日の放課後、この場所に行ってみよう。

 放課後、未来は悪魔の森まで来ていた。学校からの帰り道、服を着替える間さえ惜しく、制服のままで足を踏み入れる。この場所に来る人間はほとんどいないから目立つこともないだろう。
 書き出した絵を元にその場所を探し出す。そこは思いのほか簡単に見つかった。さほど大きな特徴があるわけではないのに、直ぐにわかった。そこから10分程奥に入るとその場所があった。木の根元が軽く膨らんでいる。
 未来はそっと手を合わせた。未来ではなく過去だったのだ。もう絶対に変える事が出来ない。未来の能力はなんて中途半端なのだろう。どうせならもっと、先の未来を見れる予知夢であればよかったのに。
「助けられなくて……ごめんね」
 小さくつぶやいた未来の声にかぶさるように、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「やっぱり、見られてたんだ……」
 小さな声に振り向こうとした未来の頭に衝撃が走る。
 その場に倒れ込んだ未来は、殴られたのだ……と薄れゆく意識の中で、何となく感じた。
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