Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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第3章 盗まれた作品

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「おはよう……ござい……ます……?」
 部室の戸をあけた未来は、中にいる人影に声をかけたが、思わず尻すぼみになってしまった。未来より早く部室にいる可能性が高いのは顧問の榊原だけだ。他の人はそこまで早くは来ないし、そもそも活動日以外は読んだ本を取り換えにくる以外に部室に来る人はあまりいない。結局自分本位、我が道をゆく人間が多いのが文芸部なのだ。週に一回集まって読んだ本の紹介コーナーをやらなければ、部誌作成の原稿を持ってくる以外に顔を合わせるつもりなんてない人間が多い気もする。未来もここで本を読むことはあっても、他人と話をしに来たわけではないので、会話をする気は毛頭ないが。
 事実、部室にいたのは榊原だった。だが、その様子がいつもと違ったのだ。いつものやわらかな雰囲気が欠片もない。彼がこんな雰囲気を出しているのを見たのは、一年前、榊原目当てで部室に来てはずーーっと話していた後輩がいた時くらいだと思う。彼女が今の榊原のどこを気に入ったのかさっぱりわからないが、彼と話すために通い続けていた。そのため文芸部員の中でもあまりいい印象は持たれていなかった。もう、名前も顔も覚えてはいないが。
「どうか、したんですか?」
 未来の声に振り向いた榊原は珍しく眼鏡を取っていた。普段ほとんどとらないため、文芸部員以外は知らないが、随分と整った顔立ちをしている。
 分厚いメガネに隠れ、今まではほとんど見えていなかった表情が今ははっきりと見て取れた。その視線の鋭さに未来は思わず息を呑んだ。
「佐川か、本が少ない気がする」
「は?」
 言っている意味が解らず、思わず聞き返した。本が少ないとはいうが、普通に本棚にびっしりと入っているように見えるが。
「これを見ろ」
 榊原が差し出したのは一枚の紙だった。そこに二十冊ほどの本のタイトルが書いてあり、その横にカッコして部員の名前が書かれている本が数冊ある。何も書かれていない本の方が圧倒的に多いが。
「なんですか、これ」
「現状部室にない本だな。その中で部員が手続きをして持ち出しているのがこの5冊だ。他は行方不明」
 淡々と告げてくる榊原の声音に鋭い物が混ざる。冷たい表情と色に未来は思わず一歩下がってしまった。何故未来の周りには怒らせると怖い人間がそろっているのだろう。姉の彼氏である三波千鶴しかり、榊原彰禧しかり。
 だが、それよりも気になることが今の未来にはあった。榊原は今なんと言っただろう。
「行方不明……ですか?」
 思わず未来の視線も鋭くなる。部室にある本は部員の寄付の他、部費や部誌の売り上げで購入したものがほとんどで、そのため管理も徹底されている。2か月に1回不明本がないかの確認も行っているし、部員以外の貸し出しは厳禁。部員であっても持ち出すのならきちんと持ち出し日、タイトル、返却日を記入する必要がある。
 たまに行方不明本はあるが、大抵が部員の返し忘れであり、出てこなかったことは一度もなかった。だいたい返却日を確認すればそれで解決だったのだ。それが、現在持ち出している人がいない本、というのがこの十五冊の本らしい。
「最後に借りたのは?」
 バラバラだ。だが、だいたい二週間以内には返している。本を盗むような人間はいない。
 貸出簿に目を通した未来は小さくうなった。通りで見覚えのある本が多いはずだ。バラバラではあるがそのうちの7冊が未来が最後に借りている。でも、残りは本当にバラバラだ。一番多いので部長の御堂だろうか。ここに名前があるのは定期的に来ている部員であり、本当に本が好きな人たちだけだ。彼らが部室の本を返さずに手に入れるというのは考えづらい。部室で読んで気に入ったのは大体購入しているのだ。
「佐川、御堂に伝えろ。今日異例ではあるが本の在庫確認を行う。部員は全員集合させろ」
 いきなり今日集合しろと言っても難しい人間だっているはずだ。だが、そんなこと考えつかないほどに榊原は怒っているのかもしれない。
「伝えます」
 ペコリと一礼して急ぎ足で部室を出ていく。さわらぬ神にたたりなし。今の榊原には余計なことは言わないに限る
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