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第3章 盗まれた作品
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未来はあの孤児院が解散したその日から一度も美穂に会う事はなかった。あの光景を見てしまったからなのか、未来は美穂と会う勇気が持てなかったのだ。あんな人間を目の当たりにしたからなのか、美穂とどうやって話していいのかがさっぱり解らなかった。それに、彼女も七尾も学校に来ていないのだから話すきっかけもなかった。何も知らなければ運ばれたという病院へ顔を出したかもしれないが、あの光景を見てしまった以上、自分から美穂に会いに行くことは出来なかった。
「絶対に許せない……と思っていたんだけど、な」
ポツリ、と呟いた未来の言葉に傍らにいた弥生が小さく頷く。ノートを見せた時の弥生の反応も奈々子と同じ、『この人、人間?』だった。でもそれはきっと誰にとってもそう感じるものなのだろう。事実、人間より本が好きの榊原でさえ美穂に対する怒りを消し、同情を感じていたように思う。
「未来、お客さんが来てるけど」
どこか困ったように部屋に入ってきた奈々子に未来が軽く首をかしげる。訪ねてくる相手に覚えはなかった。榊原は未来が呼んだ日しか来ないし、弥生はここにいる。他に未来を訪ねてくる用件のある相手なんていない気もするが。
「誰?」
「……山内美穂さん」
告げられた名前に未来が軽く目を瞬き、弥生を見る。弥生が頷いたのを見て、未来は再び奈々子へ視線を転じた。
「入れて。……あと、先生も呼ぶから来たらここに通してもらってもいい?」
「わかったわ」
奈々子が一度部屋から消え、直ぐに美穂を連れてやってきた。入ってきた美穂はずいぶんとやつれている様にも見えたが、元気そうだったことにほっとする。
「座って……」
おずおずと腰を下ろした美穂は座るなり深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。謝ったからって許されるわけない、というのはわかっていますが……」
美穂は頭を下げながら紙袋に入った本を未来たちに差し出した。中に入っている本は全て「牧瀬学院 文芸部」の印が押してある。
「全部、入っていると思います」
しおらしい美穂にはバリバリの違和感を感じる。未来は美穂本人を知るわけではないが夢で見た美穂は様々な顔を持っていたが、その中でも印象的なのはやはり七尾に対する高圧的な態度だろう。
「何で、こんな事をしたの?……本は、あの子たちのため?」
静かに戸が開き、榊原が入ってきた。未来は軽く口元に指を持って行き、榊原に黙っているようにお願いをする。今の美穂は榊原が来ていることに気づいていない。多分彼がいない方が色々と話してくれるような気がする。
美穂は小さく頷き、今にも消えそうな声でゆっくりと語りだした。
「……私と椿じゃあの子たちに食事を用意するだけで、いっぱいいっぱいだったから……でも、本好きな子たくさんいるから……多分椿の影響だけど……小説は、先輩が、先生と仲、良かったから」
ゆっくりと深呼吸をした美穂の続きの言葉を待つ。
「……それに、小説書いたりできたら……文芸部に居られると、思って……自業自得だってわかってるけど……でも、先生だけが私を見て、私自身を叱ってくれた、から……「おめでとう」って言ってくれた、から。だから……ごめんなさい。謝って許されることじゃないけど……」
「もう、いいよ。小説削除してくれたし、あれ、買った人ほとんどいないでしょ?」
多分榊原くらいじゃないかと思う。恐らく立ち読み版を読んだ人さえいないんじゃないだろうか。
未来の予想は当たっていたらしく、美穂が小さく頷く。
「何で……?」
「私も、多分先生もあのストーリーを見なきゃ、立ち読み版にさえ手を出さなかった。……あなた、読書家、使ったことないでしょ?」
「パソコンない、から……文芸部の部室で登録して投稿しただけ……です」
だからなのか、時間がなかったのだろう。詳しく調べもせずに彼女は投稿したのだ。
「読書家のコイン、一コインが一円だと思っていたでしょう?」
「違うん……ですか?」
「一コイン十円で購入できるの。だから、電子書籍を購入した場合についてくるコインは千円分を購入してようやく一コイン。だから、オリジナルの小説を投稿して販売する場合、だいたい四十コイン、四百円分よ。ただでさえ素人が書いているんだから、よほどファンでもついていない限りあまり高い値段設定には出来ない。あなたの場合作ったばかりだからファンどころか存在を知る人さえいない。……小説は投稿したらしばらくはトップに出るから見る人はいるだろうけど、初めてなら十コイン、百円からの販売が妥当。でもあなたは七百コイン、七千円で販売していた。プロの本だって買わないわ」
だから誰も買わなかった。正直榊原が購入してくれたことが意外なのだ。そのおかげで完全に未来の本とわかったが、当人である未来でさえ二の足を踏んでいた。そんな値段設定の本は誰も買わない。
「だから、もういい。二度とやらないで」
「はい」
頷いた美穂は再度深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「……これから、どうするの?」
「椿と二人で暮らしながら高校を卒業します。……孤児院には行きません。それに……Ariaで援助してくれる、と言ってくれたので」
「は?」
黙って存在を消していた榊原の声が部屋の中に大きく響いた。
「せ……せん……」
唖然と目を瞬いた美穂に未来は小さく笑みをこぼした。
「ごめんなさい。先生がいるの黙っていた方がいろいろ話してくれると思って。……あと、先生、山内さんは能力者、だと思います」
「絶対に許せない……と思っていたんだけど、な」
ポツリ、と呟いた未来の言葉に傍らにいた弥生が小さく頷く。ノートを見せた時の弥生の反応も奈々子と同じ、『この人、人間?』だった。でもそれはきっと誰にとってもそう感じるものなのだろう。事実、人間より本が好きの榊原でさえ美穂に対する怒りを消し、同情を感じていたように思う。
「未来、お客さんが来てるけど」
どこか困ったように部屋に入ってきた奈々子に未来が軽く首をかしげる。訪ねてくる相手に覚えはなかった。榊原は未来が呼んだ日しか来ないし、弥生はここにいる。他に未来を訪ねてくる用件のある相手なんていない気もするが。
「誰?」
「……山内美穂さん」
告げられた名前に未来が軽く目を瞬き、弥生を見る。弥生が頷いたのを見て、未来は再び奈々子へ視線を転じた。
「入れて。……あと、先生も呼ぶから来たらここに通してもらってもいい?」
「わかったわ」
奈々子が一度部屋から消え、直ぐに美穂を連れてやってきた。入ってきた美穂はずいぶんとやつれている様にも見えたが、元気そうだったことにほっとする。
「座って……」
おずおずと腰を下ろした美穂は座るなり深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。謝ったからって許されるわけない、というのはわかっていますが……」
美穂は頭を下げながら紙袋に入った本を未来たちに差し出した。中に入っている本は全て「牧瀬学院 文芸部」の印が押してある。
「全部、入っていると思います」
しおらしい美穂にはバリバリの違和感を感じる。未来は美穂本人を知るわけではないが夢で見た美穂は様々な顔を持っていたが、その中でも印象的なのはやはり七尾に対する高圧的な態度だろう。
「何で、こんな事をしたの?……本は、あの子たちのため?」
静かに戸が開き、榊原が入ってきた。未来は軽く口元に指を持って行き、榊原に黙っているようにお願いをする。今の美穂は榊原が来ていることに気づいていない。多分彼がいない方が色々と話してくれるような気がする。
美穂は小さく頷き、今にも消えそうな声でゆっくりと語りだした。
「……私と椿じゃあの子たちに食事を用意するだけで、いっぱいいっぱいだったから……でも、本好きな子たくさんいるから……多分椿の影響だけど……小説は、先輩が、先生と仲、良かったから」
ゆっくりと深呼吸をした美穂の続きの言葉を待つ。
「……それに、小説書いたりできたら……文芸部に居られると、思って……自業自得だってわかってるけど……でも、先生だけが私を見て、私自身を叱ってくれた、から……「おめでとう」って言ってくれた、から。だから……ごめんなさい。謝って許されることじゃないけど……」
「もう、いいよ。小説削除してくれたし、あれ、買った人ほとんどいないでしょ?」
多分榊原くらいじゃないかと思う。恐らく立ち読み版を読んだ人さえいないんじゃないだろうか。
未来の予想は当たっていたらしく、美穂が小さく頷く。
「何で……?」
「私も、多分先生もあのストーリーを見なきゃ、立ち読み版にさえ手を出さなかった。……あなた、読書家、使ったことないでしょ?」
「パソコンない、から……文芸部の部室で登録して投稿しただけ……です」
だからなのか、時間がなかったのだろう。詳しく調べもせずに彼女は投稿したのだ。
「読書家のコイン、一コインが一円だと思っていたでしょう?」
「違うん……ですか?」
「一コイン十円で購入できるの。だから、電子書籍を購入した場合についてくるコインは千円分を購入してようやく一コイン。だから、オリジナルの小説を投稿して販売する場合、だいたい四十コイン、四百円分よ。ただでさえ素人が書いているんだから、よほどファンでもついていない限りあまり高い値段設定には出来ない。あなたの場合作ったばかりだからファンどころか存在を知る人さえいない。……小説は投稿したらしばらくはトップに出るから見る人はいるだろうけど、初めてなら十コイン、百円からの販売が妥当。でもあなたは七百コイン、七千円で販売していた。プロの本だって買わないわ」
だから誰も買わなかった。正直榊原が購入してくれたことが意外なのだ。そのおかげで完全に未来の本とわかったが、当人である未来でさえ二の足を踏んでいた。そんな値段設定の本は誰も買わない。
「だから、もういい。二度とやらないで」
「はい」
頷いた美穂は再度深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「……これから、どうするの?」
「椿と二人で暮らしながら高校を卒業します。……孤児院には行きません。それに……Ariaで援助してくれる、と言ってくれたので」
「は?」
黙って存在を消していた榊原の声が部屋の中に大きく響いた。
「せ……せん……」
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