Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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第4章 Aria展

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 真っ暗な世界、ここから繋がっている世界に未来の望む真実があるのかはわからない。多分、全く関係のない状況を見ることはないとは思うが、弥生がいないため、確実に望み通りの時を見れる保証はない。こんな時に、弥生がいてくれたら、と心から願う。
 真っ暗だった視界が少しずつ晴れてくる。だが、物音ひとつしなかった。この静寂はAria展と似ている。ただし、電気が付いているので、今の時ではないのだろう。
 視界が開けると、未来は驚いたように目を瞬いた。
 そこは、たくさんの画面があり、それぞれ違う映像を流しているが、全てAria展の映像だった。
「警備員室?」
 小さく口をついて出た言葉が、真実のような気がした。Aria展の警備員室は見たことがないが、テレビのドラマなどで見たのと同じような作りをしている。ただ、今のこの場の光景は異様だった。
 中にいる警備員服の男性が皆、机に突っ伏すように眠っているのだ。いくら何でもあり得ない。警備員は一般人だと聞いているが、信用できる人間を雇っているし、一人、二人がサボるならまだわかるが、全員が居眠りなんてどんな職場でもないだろう。真っ先に考えついたのは、睡眠薬だった。ただし、いきなり全員が睡眠薬をとる方法なんてないし、一人が眠れば誰かが気づくだろう。それを考えると、何か睡眠系のガスが撒かれた可能性が高い。
 小さな音とともに一人の女性が入り口から顔を出した。見覚えはないが、Aria展スタッフ証を首から下げている。そこに書かれた名前は「#浅野_あさの__#千世子ちよこ」。やはり、未来が知らない名前だった。能力者かどうかさえ定かではない。
 浅野はこの異様な光景にも顔色ひとつ変えず、モニターの前にある、操作パネルに近づいた。彼女がここの人たちを眠らせたのかもしれない。一体全体、浅野千世子は何者なのだろうか。
 この施設のスタッフでAria関係者はさほど多くない。受付は絶対に能力者という決まりはあるが、他はそんな指定はない。それどころか積極的に非能力者を雇っているとも聞いている。それもあり、施設にはほとんどAriaの特殊能力は使われていない。例外は、スタッフ証であり、偽造不可なほか、使用者以外の使用もできないようになっている。確か、あのスタッフ証がスタッフ以外立ち入り禁止の部屋に入る鍵にもなっていると聞いている。
 浅野は慣れた手つきで幾つかのボタンを操作した。すると、施設の入り口のシャッターが全て降りる。おそらく、鍵もかけたのだろう。
 機械から少し離れた浅野が、手に持っているリモコンを操作すると、小さな爆発が起こり、電気が消えた。爆発したのは、制御装置と、地下にある電気制御装置だ。この警備員室での爆弾は巧妙に作られており、機械はばらばらにしたが、けが人はない。
「あの人が……?でも何で……?」
 動機も、爆弾を手に入れたルートも未来にはわからなかった。

 ぐるぐると視界が回る。この感覚は一度だけ経験があった。画面が入れ替わるのだろう。できれば浅野千世子の事が知れる場面が見れればいいのに、と心から願う。 
 場面が安定すると、見覚えのない通りにいた。繁華街らしく、いろいろな人でごった返している。未来が好んで近づく場所ではない。
 ぐるり、と辺りを見回した未来は、つい先ほど見たばかりの女性の姿にほっと息をついた。今がいつなのかはわからないが、少なくとも全く関係のない時ではないのだろう。
 浅野は近くの喫茶店に入っていった。彼女について中に入ると柔らかな音楽と、壁にズラリと飾られた絵画が目に入る。どれも、柔らかな雰囲気の絵で、見ているだけ優しい気分になれる。全てが白黒の鉛筆画なのに、色を持っているようにさえ感じる。風景画や人物画など様々な種類の絵があるが、未来はその中でも四枚の連作となっている作品に目を惹かれた。長い髪をおさげにした少女が、森の中にいる絵だ。春夏秋冬の季節毎に分かれているらしく、桜吹雪の中で踊る少女、木と木の間から差し込む木漏れ日に目を細める少女、紅葉の中でもウッドチェアに座り、本を読んでいる少女、そして、雪景色の中で楽しそうに笑っている少女。どれも、優しくて、いつまでも見ていたくなる。
「これが一番人気なのよ。……うちじゃなくて、もっと本格的に飾れたらいいんだけどね」
 どこか自嘲気味に笑う声に未来は驚いたように顔を上げる。まるで自分が話しかけられたかのような気がした。今の未来の姿が人に見えるはずがないのに。
「私も、今まで描いた中で、一番のお気に入りよ……でも、ダメだった。毎年聞いても飾ってはくれないのよね」
 未来の隣で答えた浅野は今にも泣きそうな表情で告げる。
「Aria展?展示基準ってなんなのかしらね」
「さぁ、何度聞いても教えてはくれないから。……いつもの、お願い」
 カウンターに腰を下ろした浅野が深く息を吐く。ここまで書けて、自分に自信があるのなら、余計に納得ができないのだろう。多分Aria展じゃなければ、飾らせてくれるんじゃないか、という気もする。
 浅野はコーヒーを一杯だけ飲んで、すぐに喫茶店を出た。
 まるで、そのタイミングを待っていたかのように、一人の男性が浅野に声をかけてきた。
「お姉さん、もしよければ少し、時間もらえませんか?」
 突然声をかけてきた相手を警戒したように後ずさった浅野は、ついで告げられた言葉に目を瞬いた。本当に驚いたようだ。それは、未来も同じだった。その男との接触、それがすべての始まりなのだろう。
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