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第4章 Aria展
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「え……嘘……」
グルグルと回る水が安定して、映し出した光景に弥生が小さく声を上げる。
何もしていないのに、Aria展の警備員室が映る。そこには半透明の状態の未来がいた。いつも未来とコラボで見ている状態と似ている。だが、同じではない。
いつもは未来が動いても弥生の視点が動くことはできない。だからこそ、その場での光景を弥生が見て、そこ以外の場所を未来が見ることでバランスを取っていた。だが、今は違う。未来が動くと水が映し出す光景も動く。
弥生はしばらく唖然としていたが、慌てて傍に置いてあるカメラを手に取った。弥生は人に目にした光景を伝える手段として絵を学んだ。ある程度早いスピードで特徴を捉えることができるようにはなったが、目の前で刻一刻と変わる状況を目にしながら描くのは無理だ。絵に集中すれば、何かを見逃すだろうし、映像に集中すれば絵なんて描けない。その状況を打開すべく試行錯誤の末に見出したのがカメラだった。
現在一番売れている、デジカメとポラロイドカメラのコラボ商品であるデジポラではなく、旧式のポラロイドカメラで撮影した場合に限り、その情景を映し出すことができる。ただし、撮影した写真は弥生の目以外にはただの真っ黒な写真にしか見えないらしく、後で絵に描く必要はあるが、焦らずに状況を見れる、という一点で重宝している。
写真が吐き出されるとすぐさま後ろに浅野千世子の名前とその下に一言、「なんで、Aria展を襲ったの?」と記入し、タライに放り込む。今の状態で未来が見る情報に干渉できるかはカケだった。今のメインはが未来である以上、弥生は見ることしかできない可能性もある。
だが、弥生の心配をよそに、画面は切り替わり、弥生達に、真実を映し出してくれた。それは、弥生にとっても、そして恐らく未来にとっても予想外の出来事だった。
一通り見終えて水面がいつもと変わらない水の色に変ると同時に弥生はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。時間にして、三十分くらいだろうか?ここまで連続して力を使った事がなかった。そのせいなのか、ひどく疲れた。
「これ飲んで、一息ついたら、何があったか話せ」
短く端的な言葉。さっきまでいなかった人間の声に弥生はのろのろと顔を上げた。
「三波……さん……」
弥生達能力者にとっての上司的立場にいる人で、未来の姉の菜々子の恋人でもある。
千鶴に渡されマグカップに口をつけると、じんわりとした暖かさが体を包み込んだ。
「回復したか?」
不思議なことに一口飲むごとに体が楽になる気がする。
「菜々子が作った疲労回復用の茶だ。……元々は 未来を落ち着ける為に作ったらしいが、お前にも効くだろう?」
コックリと頷いた弥生は、すぎさま写真を見ながら二枚の絵を描き上げ、それを集まってきた人達に見えるように置いた。一枚目には女性の絵が描いてあり、下に「浅野千世子」と書いてある。二枚目は男性の写真で、「里中津軽」。浅野に声をかけてきた人物だった。
「この二人が関係しているのか?」
問われた言葉に弥生が軽く頷く。弥生は今しがた見た光景を語った。聞くにつれ、驚いたような表情を浮かべる彼らの中から、ポツリ、と小さな声が聞こえた。
「浅野千世子さん……彼女が……?」
「知り合いですか?」
千鶴の問いに一人の男性が頷いた。このAria展の開催責任者だったと思う。……名前は覚えていないが、本社で何度か見かけたことはある。確か千鶴と同じ、霊視の能力者だったはずだ。
「ああ、毎年、Aria展の準備が始まる頃に、絵を持ってくるんだ。……Aria展でなければ飾りたいと思う絵を描くよ。ただ……一般受けはするだろうが、見る人を選ぶ。……審査員受けは難しいだろうね。……今回は駄目なら勉強のためにスタッフとして入りたい、と言われて、了承したが……」
もしかして、という言葉に弥生は慌てて首を振った。恐らくだが浅野千世子がAria展スタッフになったのは、ぶち壊しを企画するよりも前だった。
「多分、彼女がAria展スタッフになったから今回の計画にしたのかと」
「その計画なら、浅野千世子は未だに中にいるはずだ。まず、今見た状況を中の連中に……」
「今までのは未来も見ているはずなので、もし伝えられるなら今から見てみる浅野千世子の今の居場所の方が良いかと」
一瞬何かを聞きたそうにした千鶴はすぐに言葉を飲み込んだ。
「いけるか?」
「大丈夫です」
弥生は先ほどの絵の下に今の時間を書きこむ。そして、一言「文字のみ」と付け加えた。
これも弥生の力の使い方の一つだった。普段は映像が欲しいため、あまり使わないが、こう書くことで、文字で情報与えてくれる。ただし、得られる情報は映像の十分の一程度だ。だが、今のように映像を期待できない場合にはかなり有効な一手となる。
水に文字が浮かび上がってくる。『地下 電気制御室手前』。画面がゆらゆらと揺れ、文字が消える。これ以上の情報は期待できないだろう。
「三波さん、浅野千世子は、地下の電気制御室付近にいます」
「わかった。すぐに連絡を取ろう。……原野、いけるか?」
「麻原先生となら、すぐにでも」
「よし、今の情報を伝えろ。あの方なら、なんとかしてくれる」
きっぱりと告げた声に弥生は安心したように座り込んだ。千鶴がそういうのなら、きっとすべて無事に解決するはずだ。
グルグルと回る水が安定して、映し出した光景に弥生が小さく声を上げる。
何もしていないのに、Aria展の警備員室が映る。そこには半透明の状態の未来がいた。いつも未来とコラボで見ている状態と似ている。だが、同じではない。
いつもは未来が動いても弥生の視点が動くことはできない。だからこそ、その場での光景を弥生が見て、そこ以外の場所を未来が見ることでバランスを取っていた。だが、今は違う。未来が動くと水が映し出す光景も動く。
弥生はしばらく唖然としていたが、慌てて傍に置いてあるカメラを手に取った。弥生は人に目にした光景を伝える手段として絵を学んだ。ある程度早いスピードで特徴を捉えることができるようにはなったが、目の前で刻一刻と変わる状況を目にしながら描くのは無理だ。絵に集中すれば、何かを見逃すだろうし、映像に集中すれば絵なんて描けない。その状況を打開すべく試行錯誤の末に見出したのがカメラだった。
現在一番売れている、デジカメとポラロイドカメラのコラボ商品であるデジポラではなく、旧式のポラロイドカメラで撮影した場合に限り、その情景を映し出すことができる。ただし、撮影した写真は弥生の目以外にはただの真っ黒な写真にしか見えないらしく、後で絵に描く必要はあるが、焦らずに状況を見れる、という一点で重宝している。
写真が吐き出されるとすぐさま後ろに浅野千世子の名前とその下に一言、「なんで、Aria展を襲ったの?」と記入し、タライに放り込む。今の状態で未来が見る情報に干渉できるかはカケだった。今のメインはが未来である以上、弥生は見ることしかできない可能性もある。
だが、弥生の心配をよそに、画面は切り替わり、弥生達に、真実を映し出してくれた。それは、弥生にとっても、そして恐らく未来にとっても予想外の出来事だった。
一通り見終えて水面がいつもと変わらない水の色に変ると同時に弥生はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。時間にして、三十分くらいだろうか?ここまで連続して力を使った事がなかった。そのせいなのか、ひどく疲れた。
「これ飲んで、一息ついたら、何があったか話せ」
短く端的な言葉。さっきまでいなかった人間の声に弥生はのろのろと顔を上げた。
「三波……さん……」
弥生達能力者にとっての上司的立場にいる人で、未来の姉の菜々子の恋人でもある。
千鶴に渡されマグカップに口をつけると、じんわりとした暖かさが体を包み込んだ。
「回復したか?」
不思議なことに一口飲むごとに体が楽になる気がする。
「菜々子が作った疲労回復用の茶だ。……元々は 未来を落ち着ける為に作ったらしいが、お前にも効くだろう?」
コックリと頷いた弥生は、すぎさま写真を見ながら二枚の絵を描き上げ、それを集まってきた人達に見えるように置いた。一枚目には女性の絵が描いてあり、下に「浅野千世子」と書いてある。二枚目は男性の写真で、「里中津軽」。浅野に声をかけてきた人物だった。
「この二人が関係しているのか?」
問われた言葉に弥生が軽く頷く。弥生は今しがた見た光景を語った。聞くにつれ、驚いたような表情を浮かべる彼らの中から、ポツリ、と小さな声が聞こえた。
「浅野千世子さん……彼女が……?」
「知り合いですか?」
千鶴の問いに一人の男性が頷いた。このAria展の開催責任者だったと思う。……名前は覚えていないが、本社で何度か見かけたことはある。確か千鶴と同じ、霊視の能力者だったはずだ。
「ああ、毎年、Aria展の準備が始まる頃に、絵を持ってくるんだ。……Aria展でなければ飾りたいと思う絵を描くよ。ただ……一般受けはするだろうが、見る人を選ぶ。……審査員受けは難しいだろうね。……今回は駄目なら勉強のためにスタッフとして入りたい、と言われて、了承したが……」
もしかして、という言葉に弥生は慌てて首を振った。恐らくだが浅野千世子がAria展スタッフになったのは、ぶち壊しを企画するよりも前だった。
「多分、彼女がAria展スタッフになったから今回の計画にしたのかと」
「その計画なら、浅野千世子は未だに中にいるはずだ。まず、今見た状況を中の連中に……」
「今までのは未来も見ているはずなので、もし伝えられるなら今から見てみる浅野千世子の今の居場所の方が良いかと」
一瞬何かを聞きたそうにした千鶴はすぐに言葉を飲み込んだ。
「いけるか?」
「大丈夫です」
弥生は先ほどの絵の下に今の時間を書きこむ。そして、一言「文字のみ」と付け加えた。
これも弥生の力の使い方の一つだった。普段は映像が欲しいため、あまり使わないが、こう書くことで、文字で情報与えてくれる。ただし、得られる情報は映像の十分の一程度だ。だが、今のように映像を期待できない場合にはかなり有効な一手となる。
水に文字が浮かび上がってくる。『地下 電気制御室手前』。画面がゆらゆらと揺れ、文字が消える。これ以上の情報は期待できないだろう。
「三波さん、浅野千世子は、地下の電気制御室付近にいます」
「わかった。すぐに連絡を取ろう。……原野、いけるか?」
「麻原先生となら、すぐにでも」
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