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第4章 Aria展
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牧瀬学院の高等部の文化祭はある方面でとても有名だ。文化祭は二日間にわたり行われ、外部から多くに来場者が訪れる。卒業生や在校生の家族以外にも、将来有望な子供を見つけたいと考える著名人も訪れる。
牧瀬学院は部活に力を入れている学校ということもあり、部活動での出し物がほとんどの割合をしめる。他の高校にはあるクラスごとの出し物や展示は一切ない。九割が部活の出し物で、残り一割が有志の出し物となっている。
美穂は去年は部活に入っていなかったため、文化祭を楽しんだ記憶が一切ない。確か、二日間ずっと関係者以外立ち入り禁止区域にいて、全く見学しなかった気がする。だから、部活の出し物の参加できる今年はとっても楽しみにしていた。
「山内さん、文化祭、楽しみだったんじゃなかったっけ?」
頭上から聞こえた声に顔を上げると、部長の御堂茜が呆れたような表情で美穂を見下ろしていた。
「御堂先輩……。楽しんでいます。去年は部活に入っていなくて全く参加できなかったので、今年は楽しいです」
美穂の答えに茜が冷たい視線を返してきた。
「……なら何で、今日一日、ここにいるの?そろそろ一日目が終わるけど?」
美穂が今いるのは、文芸部でやっている休憩スペースだ。レストランに近いレイアウトにしているが、食事の提供はない。外で購入したものを持ち込んで食事をすることを可にしているので、料理研究会などで購入してきたお弁当などを持ち込んでいる人もいる。
文芸部の休憩所は、部員が書いた本のサンプルを読めたり、注文、購入ができるようになっている。今年の部誌は購入しなければ読めないようになっているが、過去の部誌は休憩所の中でなら自由に閲覧が可能になっている。現在有名になっている作家の初期の作品などがあったりもするため、そこそこ人気がある。
美穂の当番は明日だが、今日も朝からずっとここにいた。
「今、これ描くの楽しいんです」
美穂は今書いていた画用紙を茜に見せる。今度、千鶴の紹介でAria系列の託児所でアルバイトをすることになっているため、そこに紙芝居を作って持って行こうかと思っている。まだ、オリジナルの話を描く自信はないため、桃太郎の新バージョンとして、桃太郎のパロディーを書いている。
「可愛いわね。……あなた、絵本を書くの向いていそう……ただ、折角の文化祭でやること?七尾さんとでも回ってきたら?」
「椿は多分、他の子と回っているかと」
「……未来は?」
「……弥生さん……先輩の友達と回っているかと」
「……なら、先生でも誘って行ってきたら?」
茜が教室の隅に視線を送る。美穂はそっちを見ることなく、首を振った。
「嫌です」
「……なんでよ、あなた先生が好きなんでしょう?」
どうやら茜が声をかけてきたのは、あの榊原を追い出したかったかららしい。あの日、Aria展で事件に巻き込まれた日から、榊原の様子がおかしい。醸し出す空気が正直言ってかなり怖い。近づきたくないし、現に榊原の周りには人がいない。正直な話、あそこに居られると邪魔なのだろう。
「怖いです。……先輩、当番変わるので行ってきたらどうですか?」
「嫌よ」
茜もためらうことなく、吐き捨てた。
「まぁ、いいわ。あなたにお客さんよ」
茜の背後から見覚えのない人が出てきた。多分二十代前半くらいの女性だ。
「初めまして、宮野秋です」
美穂の向かい側に座った宮野は、茜がカウンターに戻るにを待って、名刺を差し出しながら口を開いた。名刺には「瑞宝社 企画編集部」とある。
「瑞宝社……読書家、の、ですか?」
美穂の問いに宮野が笑みを浮かべつつ頷いた。
「あなたが数日間だけ、投稿していた本能寺の変について聞きたいのだけど……」
宮野の言葉に美穂の表情が凍りつく。まさか、今更あの話が出てくるとは思ってもいなかった。馬鹿なことをした、と後悔してもしきれない苦々しい思いが美穂の中にはいまだにある。未来は本当に気にしていないのか、美穂に気を使っているのか、たまに話題に出すこともある。あの話は三部作で、今、第二部を書いているところらしい。第三部までを書いて、ほとぼりを冷めた頃に別の出版社の文学賞に応募してみると言っていた。
「絵本も描くのね」
どこか感心したような表情で視線を落とした宮野は描きかけの絵に視線を落とした。
「それは……桃太郎、かしら?なんか雰囲気が違う気もするけれど、とても優しい絵ね」
柔らかな表情を零した宮野の言葉に美穂は目をみはる。心がじんわりと温かくなった。美穂の絵は決して上手くない。でも、そう言って貰えるのが、それがたとえお世辞だったとしても嬉しい。
「桃太郎の、パロディーです。少し話を変えています……私はまだ、オリジナルで書いたことがないので」
美穂の言葉に宮野が大きく目を見張り、絶句した。読書家に投稿した時の住所は既にないのにどうやって美穂にたどり着いたかは知らないが、美穂が本能寺の変を書いたと思っていれば驚くのも仕方がない。最もあの話と絵本では全く別物で、ああいう話を書けること=絵本を書ける事にはならないとは思うが。現に未来は絵本を書くのには向いていないと思う。まあ、未来の場合絵本を書きたいと望めば書けそうだが、今の所興味はなさそうだ。
「……え?でも……」
「ただ、読書家に投稿したのは私です。書いたのは……私じゃ無いですけど……」
美穂はその事実を隠すつもりはなかった。宮野が会いに来たのはそれに気づいたからではなく、純粋にあの話を気に入ったから、な気がした。それなら、その宮野と未来を結びつけることが、美穂にできる唯一の贖罪なのだと思う。
「どういうこと?」
若干厳しい表情を浮かべた宮野に深く頭を下げてから、告げる。
「……私が、先輩が書いた話を私の名前で勝手に投稿したんです。……今では馬鹿なことをした、と思っていますが……。でも、何で?あの話はほとんど購入されてないし、サンプルさえ読んだ人間はほぼいなかったはずなのに……。だから先輩は、完全な形に完成させて別の出版社の文学賞に応募するって……」
「別の?できればそれは待って欲しいんだけど……」
困ったように顔を顰めた宮野に美穂が勝手に投稿したことによる怒りの感情は見えない。編集者である彼女からしたら美穂のしたことは「ふざけるな」と怒鳴りつけたいほどじゃないのだろうか……?
「怒らないんですか?っていうか、訴えられても……」
「あなたたちの間で話がついてるんでしょう?だったら、私が口を挟むことじゃないわ。……それより、その子、紹介してもらえない?本能寺の変を瑞宝社で出版させて欲しいんだけど……」
宮野の言葉は半ば予想していたが、実際口にされると、美穂のことじゃないのに、なんか嬉しくなってきた。でも、美穂が勝手に教えるわけにはいかない。
「先輩に聞いてみないと……」
「まぁ、そうよね。じゃあ、もしその子がいいって言ったら、連絡くれる?」
宮野は美穂に渡した、名刺の裏に携帯電話の番号とメールアドレスを書いた。
「会社でも、こっちでもいいから」
にこりと笑った 宮野に美穂はしっかりと頷いた。
きっと未来も喜ぶ。文化祭が終わったら話そう、そう決めた。でも、美穂が未来にその話をできたのは、それから一ヶ月以上も先の事だった。
牧瀬学院は部活に力を入れている学校ということもあり、部活動での出し物がほとんどの割合をしめる。他の高校にはあるクラスごとの出し物や展示は一切ない。九割が部活の出し物で、残り一割が有志の出し物となっている。
美穂は去年は部活に入っていなかったため、文化祭を楽しんだ記憶が一切ない。確か、二日間ずっと関係者以外立ち入り禁止区域にいて、全く見学しなかった気がする。だから、部活の出し物の参加できる今年はとっても楽しみにしていた。
「山内さん、文化祭、楽しみだったんじゃなかったっけ?」
頭上から聞こえた声に顔を上げると、部長の御堂茜が呆れたような表情で美穂を見下ろしていた。
「御堂先輩……。楽しんでいます。去年は部活に入っていなくて全く参加できなかったので、今年は楽しいです」
美穂の答えに茜が冷たい視線を返してきた。
「……なら何で、今日一日、ここにいるの?そろそろ一日目が終わるけど?」
美穂が今いるのは、文芸部でやっている休憩スペースだ。レストランに近いレイアウトにしているが、食事の提供はない。外で購入したものを持ち込んで食事をすることを可にしているので、料理研究会などで購入してきたお弁当などを持ち込んでいる人もいる。
文芸部の休憩所は、部員が書いた本のサンプルを読めたり、注文、購入ができるようになっている。今年の部誌は購入しなければ読めないようになっているが、過去の部誌は休憩所の中でなら自由に閲覧が可能になっている。現在有名になっている作家の初期の作品などがあったりもするため、そこそこ人気がある。
美穂の当番は明日だが、今日も朝からずっとここにいた。
「今、これ描くの楽しいんです」
美穂は今書いていた画用紙を茜に見せる。今度、千鶴の紹介でAria系列の託児所でアルバイトをすることになっているため、そこに紙芝居を作って持って行こうかと思っている。まだ、オリジナルの話を描く自信はないため、桃太郎の新バージョンとして、桃太郎のパロディーを書いている。
「可愛いわね。……あなた、絵本を書くの向いていそう……ただ、折角の文化祭でやること?七尾さんとでも回ってきたら?」
「椿は多分、他の子と回っているかと」
「……未来は?」
「……弥生さん……先輩の友達と回っているかと」
「……なら、先生でも誘って行ってきたら?」
茜が教室の隅に視線を送る。美穂はそっちを見ることなく、首を振った。
「嫌です」
「……なんでよ、あなた先生が好きなんでしょう?」
どうやら茜が声をかけてきたのは、あの榊原を追い出したかったかららしい。あの日、Aria展で事件に巻き込まれた日から、榊原の様子がおかしい。醸し出す空気が正直言ってかなり怖い。近づきたくないし、現に榊原の周りには人がいない。正直な話、あそこに居られると邪魔なのだろう。
「怖いです。……先輩、当番変わるので行ってきたらどうですか?」
「嫌よ」
茜もためらうことなく、吐き捨てた。
「まぁ、いいわ。あなたにお客さんよ」
茜の背後から見覚えのない人が出てきた。多分二十代前半くらいの女性だ。
「初めまして、宮野秋です」
美穂の向かい側に座った宮野は、茜がカウンターに戻るにを待って、名刺を差し出しながら口を開いた。名刺には「瑞宝社 企画編集部」とある。
「瑞宝社……読書家、の、ですか?」
美穂の問いに宮野が笑みを浮かべつつ頷いた。
「あなたが数日間だけ、投稿していた本能寺の変について聞きたいのだけど……」
宮野の言葉に美穂の表情が凍りつく。まさか、今更あの話が出てくるとは思ってもいなかった。馬鹿なことをした、と後悔してもしきれない苦々しい思いが美穂の中にはいまだにある。未来は本当に気にしていないのか、美穂に気を使っているのか、たまに話題に出すこともある。あの話は三部作で、今、第二部を書いているところらしい。第三部までを書いて、ほとぼりを冷めた頃に別の出版社の文学賞に応募してみると言っていた。
「絵本も描くのね」
どこか感心したような表情で視線を落とした宮野は描きかけの絵に視線を落とした。
「それは……桃太郎、かしら?なんか雰囲気が違う気もするけれど、とても優しい絵ね」
柔らかな表情を零した宮野の言葉に美穂は目をみはる。心がじんわりと温かくなった。美穂の絵は決して上手くない。でも、そう言って貰えるのが、それがたとえお世辞だったとしても嬉しい。
「桃太郎の、パロディーです。少し話を変えています……私はまだ、オリジナルで書いたことがないので」
美穂の言葉に宮野が大きく目を見張り、絶句した。読書家に投稿した時の住所は既にないのにどうやって美穂にたどり着いたかは知らないが、美穂が本能寺の変を書いたと思っていれば驚くのも仕方がない。最もあの話と絵本では全く別物で、ああいう話を書けること=絵本を書ける事にはならないとは思うが。現に未来は絵本を書くのには向いていないと思う。まあ、未来の場合絵本を書きたいと望めば書けそうだが、今の所興味はなさそうだ。
「……え?でも……」
「ただ、読書家に投稿したのは私です。書いたのは……私じゃ無いですけど……」
美穂はその事実を隠すつもりはなかった。宮野が会いに来たのはそれに気づいたからではなく、純粋にあの話を気に入ったから、な気がした。それなら、その宮野と未来を結びつけることが、美穂にできる唯一の贖罪なのだと思う。
「どういうこと?」
若干厳しい表情を浮かべた宮野に深く頭を下げてから、告げる。
「……私が、先輩が書いた話を私の名前で勝手に投稿したんです。……今では馬鹿なことをした、と思っていますが……。でも、何で?あの話はほとんど購入されてないし、サンプルさえ読んだ人間はほぼいなかったはずなのに……。だから先輩は、完全な形に完成させて別の出版社の文学賞に応募するって……」
「別の?できればそれは待って欲しいんだけど……」
困ったように顔を顰めた宮野に美穂が勝手に投稿したことによる怒りの感情は見えない。編集者である彼女からしたら美穂のしたことは「ふざけるな」と怒鳴りつけたいほどじゃないのだろうか……?
「怒らないんですか?っていうか、訴えられても……」
「あなたたちの間で話がついてるんでしょう?だったら、私が口を挟むことじゃないわ。……それより、その子、紹介してもらえない?本能寺の変を瑞宝社で出版させて欲しいんだけど……」
宮野の言葉は半ば予想していたが、実際口にされると、美穂のことじゃないのに、なんか嬉しくなってきた。でも、美穂が勝手に教えるわけにはいかない。
「先輩に聞いてみないと……」
「まぁ、そうよね。じゃあ、もしその子がいいって言ったら、連絡くれる?」
宮野は美穂に渡した、名刺の裏に携帯電話の番号とメールアドレスを書いた。
「会社でも、こっちでもいいから」
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