Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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第4章 Aria展

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 バサリ、机に紙の束が叩きつけられるような音が、部屋の中に響く。苦々しい表情を浮かべている三波千鶴のため息が部屋に響いた。彼が未来の部屋に来るのは珍しかった。だいたい奈々子に会いに来るので、奈々子のお店で話をすることが多い。だが、今日の千鶴は厳しい表情で現れ、奈々子の同席を完全に拒否した。奈々子が関われることではない、と。彼女も警察関連の仕事であれば仕方がないのだと知っているからか、文句ひとつ言わずに千鶴を奥に通した。
 目の前に落とされたのは数枚の報告書だった。里中津軽、浅野千代子の写真が見えた。だが、未来と弥生が驚いたのはそこではなかった。最後の一枚に、見覚えのある、でも二度と見たくない顔があった。
「これ……山内さんの……」
 どこかきつい印象のある美女。山内梨音りおん。しばらくの間世間を騒がせた、あの虐待騒動を引き起こした人だ。
「まず、この間の事件だが、どこかで協力要請が来る可能性がある」
 苦々しい表情に、千鶴がその事態に納得していない事が分かった。
「協力要請、ですか……?」
「ああ、とはいえできるだけ警察本部で解決させる。Ariaの協力も最低限だが、それ以上にできるだけ学生を借り出す機会は減らしたい、というのが本音だ」
 ああ、それで……と思わず納得する。未来も弥生も、今まで捜査協力依頼があったことはほぼなかった。ただ、未来が偶々見た夢をデータベースに載せたり、弥生がデータベースを元に視たりする程度だった。どうしても無理、の時、Aria関係者が関わっている時だけはこちらに要請が来ていたが。
「Ariaが関わっているんですか?」
 弥生の問いに千鶴が軽く首を振る。
「解らない。……この山内梨音はある日を境に突然意識不明になり、目を覚ました今、ほぼ何も覚えていない。……記憶を見る能力者が見てもほぼ真っ白で何もわからないらしい。……そして、先日の事件の浅野千代子。彼女もあの後目を覚ましたが、記憶を完全に失っている」
「二人とも、ですか……」
 近々で起きた事件の容疑者二人の記憶がない。それを偶然で片付けていいのか。もし、偶然でないとしたら、何らかの形でAriaの能力者が関わっている可能性がある。
「二人とも、だ。……鍵は浅野千代子と接触をしている里中津軽だが……今のところ接点が見えない」
 千代子に声をかけてきた里中津軽。でもこの二人が知り合いだとは思えない。知り合いが久しぶりに顔を合せた、という繋がりでもなさそうだし、もし、知り合いの知り合いという繋がりがあるなら、信用させるためにもその事は告げているはずだ。里中津軽の患者でもないのだろう。それを警察が真っ先に調べないとは思えない。
「里中津軽と……山内梨音にも繋がりってないんですか?」
 それは単なる思い付きだった。もし、この二つが繋がっているのなら、どちらかひとつでもつながりが見つかれば突破口になるはずだ。
「……そっちは調べてなかったな。……調べてみよう。そこでもし、Ariaとの繋がりが出てくれば、今度こそ全員に協力要請が出る可能性もある。……特に、お前たち二人の能力は有効だ」
 苦虫を噛み潰したような表情で千鶴が告げる。
 弥生も、未来も真剣な表情で頷いた。Ariaの能力を犯罪に使う人間を未来は許さない。
「私は……犯罪に力を使う人を許さない」
「まだあの事を、気にしているのか?あれは……お前のせいじゃない。まだ、力を知らなかったんだ、だから……」
「それでも、私はこの力で人の命を奪いました。……だから、二度とあんな思いはしたくないんです」
 もしも、この二件の事件が繋がっているのなら、そんな負の連鎖はここで終わりにする。
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