55 / 67
最終章 事件の連鎖
0
しおりを挟む
「未来、お客さんよ」
文化祭も終わり、久しぶりにのんびりと休日を満喫していた未来は、奈々子の言葉にパソコンから顔を上げた。今書いているのは文化祭中に突然思いついた話だった。文化祭の写真部で見た一枚の写真。それを見た瞬間、どうしてもその場面を描きたくなったのだ。文化祭中に突然ノートに書き記し始めた未来に美穂や榊原が呆れたような表情を浮かべていた気がするが、未来には関係ない。書きたいときに書くのが未来だった。
ただ、今思うと少しおかしかったな、とは思うが。いつもの榊原であれば未来の手から無理矢理ノートをもぎ取っていたはずだ。だが、その時の榊原は口では文句を告げてきたが、本当に口だけだった。教師として一応注意する、というだけで心ここにあらずに見えた。あの日、外に出た未来と美穂を見た時から彼はどこかおかしかったように思う。あんな風に震えた腕で抱きしめてくる、そんな弱さを生徒に見せるような人ではなかったのに。
「お客さん、て誰?」
ここに尋ねてくる可能性が一番高い弥生は、既にここにいる。小説を書いている未来の横で一心に調べものをしている。来年から研究室に入るらしく、希望の研究室に入るためのレポート提出が忙しいらしい。美穂がわざわざ訪ねてくる理由も思いつかない。今日からアルバイトを始める、と言っていたから来れるとも思えない。
「榊原先生よ」
「……先生?」
予想外すぎて思わず弥生と顔を見合わせてしまった。
「入ってもらって」
わざわざ訪ねてきたのだから、お店でできる話でもないのだろう。
部屋に入ってきた榊原はこわばった表情を浮かべていた。いつもの武装もしていない。と言っても未来の所に来るときはしていないことが多いが。
「草薙もいたのか……助かる、な」
「弥生にも、ですか?」
「ああ、お前たち二人に調べてほしいことがあるんだ」
ポカンと目を瞬く。調べものをするのであれば未来たちではなく正規の探偵や、他のAria協力者の方がいいことが多い。未来や弥生の調べものには一切証拠が出てこない。裏を取る必要が出てくるので、未来たちだけでできる事はさほど多くはない。
「正式に調べるなら……」
「俺は、証拠が欲しいわけでも、真実を人に知らせたいわけでもない。……俺自身が、真実を知れればそれでいい。だから、証拠はいらない」
「私や弥生が千里眼や夢で見た内容を先生に伝えればいい、という事?」
「ああ、出来れば絵付きで、細かいこともレポートにしてくれると助かる。もちろん謝礼は払う」
「謝礼は、いらないですけど……何を調べればいいんですか?」
「数年前に妹が自殺、した。……その原因を調べてほしい」
「……全くわからないんですか?」
「いや、表向きの理由はわかっている。でも、何故そんなことになったのかわからない。……Ariaを知ったのは妹が死を選んだ時よりも後だったが、知るのが怖かった。俺が知らない唯が出てきそうで……それに、もし、死を選んだのが俺のせいだったら……」
もしかしたら、榊原の人間嫌いはそれが原因なのだろうか。それが原因で人が嫌いになり、人を遠ざけるようになったのかもしれない。それは本来未来たちが触れる事が許されない部分。彼にとっても知られたくない部分のハズだ。それをさらしてまで過去を知りたいと願う何かが榊原にあったのだろうか。
「何で……今更……」
「この間のAriaの事件。お前たちはまだ高校生で、子供なのに自分のできる事をきちんと考えて動いていた。……お前たちを見ていたら、過去を乗り越えて前に進みたい、って思ったんだ。……生徒に、負けてられるか」
ポツリと呟いた声に未来と弥生が再び目を瞬かせる。彼が未来たちの何を見てそう思ったのかはわからない。でも、過去をシッカリと見つめ直す勇気を持てる彼が凄いと思う。きっと、今まで知らなかった真実を知るのは怖いだろうに。
「わかりました。……妹さんの写真と名前だけ、教えてもらえますか?他は……自分で確認します。先生が知ることが真実とは限らないので……できるだけ先入観を持ちたくないんです」
下手な先入観を持つと、夢や千里眼で見た時にミスリードされてしまう可能性も有る。
「わかった。名前は、榊原唯。自殺したのは、今から約五年前。唯が十七歳。高校三年生だった」
すっと一枚の写真を差し出す。その裏に『榊原唯』と名前が記されていた。
その名前に、顔に……見覚えがある。それは、未来が決して忘れる事が出来なかった名前だった。
「榊原……唯……さん……?先生の、妹、さん?」
呆然とつぶやいた未来の隣で弥生も信じられない、という様に目を瞬いている。
その後何があったのか覚えていない。気が付いたら榊原は帰っていて、弥生と未来だけがその場に残されていた。
文化祭も終わり、久しぶりにのんびりと休日を満喫していた未来は、奈々子の言葉にパソコンから顔を上げた。今書いているのは文化祭中に突然思いついた話だった。文化祭の写真部で見た一枚の写真。それを見た瞬間、どうしてもその場面を描きたくなったのだ。文化祭中に突然ノートに書き記し始めた未来に美穂や榊原が呆れたような表情を浮かべていた気がするが、未来には関係ない。書きたいときに書くのが未来だった。
ただ、今思うと少しおかしかったな、とは思うが。いつもの榊原であれば未来の手から無理矢理ノートをもぎ取っていたはずだ。だが、その時の榊原は口では文句を告げてきたが、本当に口だけだった。教師として一応注意する、というだけで心ここにあらずに見えた。あの日、外に出た未来と美穂を見た時から彼はどこかおかしかったように思う。あんな風に震えた腕で抱きしめてくる、そんな弱さを生徒に見せるような人ではなかったのに。
「お客さん、て誰?」
ここに尋ねてくる可能性が一番高い弥生は、既にここにいる。小説を書いている未来の横で一心に調べものをしている。来年から研究室に入るらしく、希望の研究室に入るためのレポート提出が忙しいらしい。美穂がわざわざ訪ねてくる理由も思いつかない。今日からアルバイトを始める、と言っていたから来れるとも思えない。
「榊原先生よ」
「……先生?」
予想外すぎて思わず弥生と顔を見合わせてしまった。
「入ってもらって」
わざわざ訪ねてきたのだから、お店でできる話でもないのだろう。
部屋に入ってきた榊原はこわばった表情を浮かべていた。いつもの武装もしていない。と言っても未来の所に来るときはしていないことが多いが。
「草薙もいたのか……助かる、な」
「弥生にも、ですか?」
「ああ、お前たち二人に調べてほしいことがあるんだ」
ポカンと目を瞬く。調べものをするのであれば未来たちではなく正規の探偵や、他のAria協力者の方がいいことが多い。未来や弥生の調べものには一切証拠が出てこない。裏を取る必要が出てくるので、未来たちだけでできる事はさほど多くはない。
「正式に調べるなら……」
「俺は、証拠が欲しいわけでも、真実を人に知らせたいわけでもない。……俺自身が、真実を知れればそれでいい。だから、証拠はいらない」
「私や弥生が千里眼や夢で見た内容を先生に伝えればいい、という事?」
「ああ、出来れば絵付きで、細かいこともレポートにしてくれると助かる。もちろん謝礼は払う」
「謝礼は、いらないですけど……何を調べればいいんですか?」
「数年前に妹が自殺、した。……その原因を調べてほしい」
「……全くわからないんですか?」
「いや、表向きの理由はわかっている。でも、何故そんなことになったのかわからない。……Ariaを知ったのは妹が死を選んだ時よりも後だったが、知るのが怖かった。俺が知らない唯が出てきそうで……それに、もし、死を選んだのが俺のせいだったら……」
もしかしたら、榊原の人間嫌いはそれが原因なのだろうか。それが原因で人が嫌いになり、人を遠ざけるようになったのかもしれない。それは本来未来たちが触れる事が許されない部分。彼にとっても知られたくない部分のハズだ。それをさらしてまで過去を知りたいと願う何かが榊原にあったのだろうか。
「何で……今更……」
「この間のAriaの事件。お前たちはまだ高校生で、子供なのに自分のできる事をきちんと考えて動いていた。……お前たちを見ていたら、過去を乗り越えて前に進みたい、って思ったんだ。……生徒に、負けてられるか」
ポツリと呟いた声に未来と弥生が再び目を瞬かせる。彼が未来たちの何を見てそう思ったのかはわからない。でも、過去をシッカリと見つめ直す勇気を持てる彼が凄いと思う。きっと、今まで知らなかった真実を知るのは怖いだろうに。
「わかりました。……妹さんの写真と名前だけ、教えてもらえますか?他は……自分で確認します。先生が知ることが真実とは限らないので……できるだけ先入観を持ちたくないんです」
下手な先入観を持つと、夢や千里眼で見た時にミスリードされてしまう可能性も有る。
「わかった。名前は、榊原唯。自殺したのは、今から約五年前。唯が十七歳。高校三年生だった」
すっと一枚の写真を差し出す。その裏に『榊原唯』と名前が記されていた。
その名前に、顔に……見覚えがある。それは、未来が決して忘れる事が出来なかった名前だった。
「榊原……唯……さん……?先生の、妹、さん?」
呆然とつぶやいた未来の隣で弥生も信じられない、という様に目を瞬いている。
その後何があったのか覚えていない。気が付いたら榊原は帰っていて、弥生と未来だけがその場に残されていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる