Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

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最終章 事件の連鎖

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 未来は五年前に起きた事、その裏側、Aria展での事が五年前にも繋がりがある可能性、そして、今回榊原に頼まれた事、その全てを、今まで描いた絵を見せながら話した。
「今日は……夢だと、過去の事だと分かっていたのに……一瞬で全部吹っ飛んでた。一遍に色々と見過ぎたせいで、現実との区別がつかなくなっていたのかも。特に……私自身が深く関わっていた事だったから」
 今でも目を閉じると落ちていく唯の姿が脳裏にうつる。
 全部話し終え、顔を上げた未来は、姉からの冷たい視線を覚悟した。でも、予想に反し、姉はどこか気遣うように未来を見ていた。
 ふわり、と姉に抱きしめられる。
「おね……ちゃん……?」
「よく、頑張ったね。話してくれて、ありがとう」
 それは、どこまでも優しい声だった。
「……未来、この間のAria展での事件について、話しておきたい事がある」
 姉が未来から離れると同時に弥生が切り出した。どこか苦々しい表情を浮かべている。今、ここで切り出す、という事はやはり安茂里圭も関わっていたのだろう。
「あの男も、関わっていたんですね」
 未来の問いに弥生が頷く。
「今日、三波さんに呼び出されて、里中津軽と高校のクラスメイトだった安茂里圭の関係を調べろ、って言われて見てみたんだけど……そこでとんでもない事実が幾つか発覚したの。……今回未来が見た夢が私が得た情報を補完してくれたから、なんとなく全貌が見えてきたわ」
 言いつつ、弥生が鞄から取り出した小さめのスケッチブックを広げた。そこには、未来が見たあの部屋の中の絵や津軽達三人のイラストなどが書かれて入る。
 弥生は未来とは違い、能力で描いているわけではないので、目をみはるほど上手という訳ではないが、特徴を捉えた見やすい絵だ。弥生が見た光景を人に伝える唯一の手段だ。ポラロイドカメラで撮影した写真を見ながら描いているらしい。それを描く手段して絵を学んだと聞いている。
「幾つか、伝えたい事があるんだけど……いい情報と悪い情報、どっちが聞きたい?」
「どちらでも」
 どの道、両方聞くのだから、どちらから聞いても構わなかった。
「じゃぁ、いい情報から。私たちがさっき病院に入る直前に連絡が来たんだけど、安茂里圭、里中津軽、坂上慎二の三人を捕獲、Aria封じをつけて、Ariaの刑務施設に放り込んだ。……明日から、本格的な尋問が始まるみたい」
「は?捕まえた?Aria封じ?刑務施設……?」
 いきなりの急展開と聞き覚えのない言葉にポカン、と目を瞬いた。隣で奈々子もアングリと口を開いている。
 そんな未来の様子に小さく笑みを零した弥生が一つずつ説明してくれる。
「未来は、Aria能力を持った犯罪者がどうなるか知ってる?」
「知らない」
 今まで犯罪者のAriaと関わった事がなかった。
「だろうね、私もついさっき三波さんに教えてもらって初めて知った事だから。実際、あまりいないみたいだし」
「Ariaの能力は、力や使い方によってとんでもない事態を引き起こす可能性があるから、能力の使い方のほか、情緒面の教育も徹底されている」
 言われ、納得する。確かに、榊原唯も未来の力がなければ今も生きていただろう。
「でも、ゼロではないから、その対策もなされている。まず、能力を直接的に犯罪には利用しなかったAriaは、通常の受刑者と同じ扱い。ただし、能力は封じさせてもらう。能力によっては簡単に脱獄できてしまうし、我々が把握していない使い方もある可能性もあるからな。安茂里圭が前回捕まった時はこの扱いだった。そして、大きな問題を起こさず出所し、その後半年間問題を起こさず、真面目に生きていれば、能力封じを外し、監視の目が外れる。ただし、GPS機能をつけたAriaカードの常時携帯と、ひと月ごとの定期連絡が義務づけられる。そのカードは能力を使えば記録として残るようになっているからな。で、安茂里圭は、監視が外れた数日後には姿を消していたらしいが、こちらが把握したのは一週間前に定期連絡に来なかった時だ」
 苦々しい表情とともに千鶴が吐きすてるように言った。Ariaとしても、完全に裏をかかれたようで、面白くないのだろう。Ariaのやり方を熟知した方法だ。おかげで捜索の手が伸びるのが遅く、まんまと事件を起こせた。
「で、もう一つ、Ariaの能力を犯罪に利用した人間に関しては完全な特別処置になる。今度、この三人はこの扱いだ」
「三人とも……ですか?」
 安茂里圭はともかく、里中津軽や坂上慎二はAriaではなかったはずだ。
「ああ、状況が悪質で、かつ、三人ともAriaについて把握しているからな。……本来Ariaの能力を使って犯人がわかっても、物理的に、人を納得させられる証拠がなければ捕まえられない。もちろん、監視は付けさせて貰うがな」
 千鶴の説明は最もだ。未来が夢で見た、弥生が千里眼で見た、それで納得させられるのはAriaを知る人たちだけだ。
「だが、悪質と判断し、監視をつけた状態であっても放置するのが危険な場合は、適当な理由で勾留する。今回この三人は、警察側には証拠ありとしてAria預かりで捉えさせてもらっている。Ariaの力を犯罪に利用した犯罪者はAria刑務所での終身刑になる」
「終身刑……って事は……」
 驚いたように目を見張る。アメリカの方では終身刑になれば一生出られない。だが、日本の無期懲役は終身刑とは違い、途中で出られたはずだ。
「もう二度と外には出さない。見張りは全てAria能力者が開発したロボットやその他、Ariaの能力を総動員して脱獄不能な要塞となっている。今いる囚人はあの三人を入れて、十数人。そこで自給自足をしてもらう。外との連絡手段は皆無。もちろん、こちらからはロボットを通して見張っているが。あの三人には一生あの小島で過ごしてもらう」
 ……小島……。どうやらAria刑務所は本島には無いらしい。能力を封じられ、ロボットに見張られる。本当に一生出ては来れないだろう。その事実に未来は、安心したようにホッと息をついた。
「まぁ、まだわからないことが多いから、明日から本格的な捜索、尋問に入るが」
「……わかりました。……ところで、Aria展では、結局何が?」
 あの三人が関わっている事はわかったが、Aria展で結局何があったのか、それがわからない。物的証拠はなくとも強制的に捕まえる必要がありと判断した以上、弥生が何かを見たはずだ。
「まず、Ariaの監視を振り切って脱走した安茂里圭が、坂上慎二、里中津軽に合流して、久しぶりにPCSクラブ始動する小手調として選んだのがAria展だったみたい」
 PCSクラブ。やはり弥生も見たらしい。おそらく未来よりも詳しく。
「PCSクラブって……?ロクな組織じゃ無いことだけはわかったんだけど……」
 結局未来は調べることができていない。
「未来は、そこに焦点を当ててなかったからね。PCSクラブはあの三人がそれぞれの目的のために彼らが高校生の時に作った完全犯罪計画クラブの名称」
「それぞれの目的?」
 首を傾げた未来に弥生が説明してくれる。一日でこれだけ見たのだから、弥生もまた、今日一日能力を使い続けていたのだろう。
「ええ、安茂里圭は自分の使える能力の研究」
 それはみんながやっている。ただし、他の人はそれを犯罪に利用しないだけだ。
「里中津軽は人間観察と研究。逆境に置かれた人間がどう行動するのかとか、復讐を望む人間にその糸を垂らしたら、どうするのか?とか、……後、犯罪者の子供が助けてくれる相手がいない孤独からどう成長するか、とか、正直胸糞悪かったけど……。最後に里中慎二、彼は趣味の爆弾作りで作った爆弾を使ってみたい」
 三人とも、もはや人としてどうかと思う。
「それで、今回だけど……まず、安茂里圭が催眠の能力を込めたネックレスと計画を伝える手紙を作成。込めた催眠は、手紙には、手紙の内容を確実に守るように。ネックレスには、催眠維持と、もし、計画が知られ、捕まった時に全ての記憶を失うように催眠。……今回、未来達の目の前で 浅野千世子が倒れたのはそれが原因。目を覚ました時に全てを忘れていたのも。……次に坂上慎二だけど、ちょうど良い爆発力、大きさを持った爆弾の作成。ぱっと見可愛い小物にしか見えない物を作ったみたいね」
 未来の脳裏に、あの部屋にあった小物類が浮かぶ。あれが爆弾を入れる容器だったのだろう。確かにあれを見て爆弾だと思う人間はほぼいないと思う。
「最後に里中津軽。彼は偶然を装って街で声をかけ、カウンセリングと称して話を聞きながらAria展には超能力がなければ出展できない事を伝え、ほんの少しの心の隙を作る。そうすると暗示が聞きやすいみたい」
 人を人と思わないような計画ゾッとする。彼らにとって人間とは、自分の興味を引き立てる道具でしか無いのだろう。
「あと、このPCSクラブの一番大掛かりな実験だけど……」
 弥生が言いづらそうに口を開いた。今聞いた内容以上にひどいことなんてあるのだろうか……?
「山内美穂だけど……安茂里の娘。あの三人が高校の時からの長期の実験で……人為的に悪の心を持つ人間を作れるか、て。……最低最悪な思考回路を持った安茂里の血、安茂里に長期的に操られ、犯罪者となった莉音の作る環境と孤独。その中で育った美穂は、悪の道に進むか?っていう実験。ルールの一つとして、美穂には直接安茂里の能力を使わないこと。彼ら三人は美穂と会わないこと……だって」
 吐き捨てるように告げた弥生の言葉に未来も顔をしかめる。正直、胸糞悪かった。
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