戦場のピアニスト

しらゆき

文字の大きさ
2 / 9

1

しおりを挟む
 今から約七年前、牧瀬光流に拾われた望海は、その日から辻岡望海になった。望海の養父となってくれた辻岡せいは光流のおじさんらしく、望海のような変な力を持つ人間に対する忌避の感情は全く持ち合わせていなかった。それどころか、彼自身ちょっと面白い力を持っているそうだ。
 光流がAriaという、能力者を束ね、教育し、保護してくれる組織の人や光流の家族や養父ちちと相談した結果、望海は養父とともに暮らさず、Ariaの能力者が暮らす寮のようなところで生活することになった。でも、放置されているわけではなく、定期的に顔を出してくれる養父や光流に感謝している。
 あの時、彼らと出会わなければ、Ariaについて知ることができなければ、あのまま成長していたらどうなっていたのか、考えただけでもゾッとする。
 あの頃の望海は「死神」と呼ばれていた。望海が写す写真は人の死や、草花の終わりしか写さなかったからだ。望海に写真を撮られると魂を抜かれ、死ぬ、と言われていた。
 でも、光流にAriaについて教えてもらって、自分の力を研究し、その力と向き合うことで、望海の持つ力が人の死ではなく、カメラで未来を写すことなのだと知ることができた。あの頃に終わりしか写さなかったのは、初めて力を意識したのが、人の死を写し撮った時だったので、望海自身がそう思い込んでしまっていたかららしい。
 いろいろな研究と練習の成果か、今では未来だけではなく、今この時を写すこともできるようになった。
 もちろん、望んだ時を写し撮ることも可能だ。

「それ、いつ撮ったの?」
 いきなり後ろからひょっこりと覗き込まれ、望海は文字どおり、飛び上がった。
「み……光流くん!いつ来たの?っていうか、勝手に入ってこないでよ!」
 望海はプリンターが吐き出した写真を思わず落としてしまう。ここは、望海の部屋であって光流が勝手に入っていい場所ではない。でも、彼は望海を拾った時から、兄のような心情でいるのか、勝手に部屋に入り込むことがある。普通、大の大人が女子高生の部屋に勝手に入って来ないはずなのに……。
 光流を睨みつけても、彼はどこ吹く風、というように一切気にした様子がない。
「ノックしたよ?でもお前、作業に集中してて、気づかなかっただろ?それより、その子……」
 光流は今落ちた写真を拾い上げると不思議そうに首を傾げた。そこには二人の人間が写っている。向かい合って楽しそうに会話をしている二人は、白いドレスと白いタキシードを着ている。背景が学校の廊下でなければ結婚式の写真にも見えた。
「合成……じゃないな……。この二人、榊原と佐川?いつ撮ったの?」
 望海の学校の先生である榊原彰禧しょうきの事はもちろん知っていたが、高校の先輩、それも部活も違う彼女、佐川未来のことを知ったのはほんの半年ほど前、彼らがAria能力者だけが出展しているAria展に来た時だった。望海は写真系能力者だし、将来カメラマンを目指す人間としてもAria展に出展していたため、手伝いに駆り出されていた。その時に彼らがAriaであることを知った。最も光流はもともと知っていたらしいし、何よりも望海が暮らすこの寮の一階にあるアトリエ部分には榊原も顔を出していたらしく、「なぜ、知らない?」という顔をされた。理不尽だと思う。榊原だって気づいていなかったのに……。
 その時以外は、二人とはまともに会話をしたことはなかったが、つい先日の卒業式の日、たまたま話している二人を見かけてシャッターを切っていた。いつの時を撮るとはっきり決めていたわけではなく、なんとなく、だったので、データを見て唖然とした。ただ、この幸せそうな光景が撮れたことは嬉しかった。いつかこの未来が現実となった時、二人にプレゼントしようかと思う。
「卒業式で二人が話してるのみて、つい。私、写真部として当日カメラマンしてたから。……ただ、いつの時を撮ると明確にしてシャッターを切ったわけじゃないから……何時になるかはわからないけど、現実になった時にあげようかと」
「意識せずに撮るなんて、珍しいな」
「二人もAria能力者だからいいかな、と。ただ、一番幸せの時を撮りたいな、とは思ってたけど」
 撮ったはいいけど、不幸の絶頂のような写真になったら目も当てられないし、そんな写真見たくもない。
「いいんじゃないか……榊原に見せてからかいたい気もするけど……」
 光流がニヤリと笑う。この人は本当にやりそうで怖い。
「やめてよ」
  光流から慌てて写真を奪い取った。持たせておくと本当にやりそうだ。
「冗談だって。……それより時間いいの?友達と出かけるんじゃなかった?」
 言われ、慌てて時計を見ると、約束の時間まで、後三十分しかなかった。
「あ、行かなきゃ……というわけで、光流くんは出て。鍵かけるから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...