何にでもなれる彼ら

apricot

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何にでもなれる彼ら

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「あ、ジンベイザメ」

大都会。
マンションのベランダで、どうやら僕の愛しい人はとても大きな魚を見つけたらしい。

「ほら、あそこの大きいやつ。点々とした雲の感じが、ジンベイザメの背中の模様みたいだろ?」

愛しい人が口を開けたまま空を指差すので、僕も釣られて口を開けて見上げる。
なるほど言われてみれば、大きな一つのいわし雲が、ジンベイザメのそれに見えなくもない。

「俺ジンベイザメって結構好きなんだよ。サメだけど温厚で優しい性格なんだ。大きいから敵に喰われる心配もないし」

「そうだね。…どうせなら見に行ってみるかい?少し遠いけど、水族館にいるらしいよ」

「いや、いいよ。俺が憧れてるのはあんな狭い空間で、同じ場所をグルグル回ってるやつじゃないから」

そう言って愛しい人はやっと、都会の海を泳ぐジンベイザメから目を逸らした。

代わりに僕の方を見て

「君が行きたいなら行くけどね。せっかく二人ともの休みだし」

と言ってニカッと笑った。


……愛しい人は、ずるい人だ。
すぐ僕の頬を赤く染めようとする。


「僕もいいや。こうやって二人でなにもしない時間、好きだから」

「うん、俺も」


そして愛しい人は、寂しがり屋だ。
すぐ僕を抱き寄せてキスをしようとする。


「いつもはもっと1日が長いのに、休みになると早く感じるから可笑しいよね。同じ時間しか流れてないのに」

「そうだな。人間は休みじゃない日ばかりで、生き物のくせに無理をしようとする。俺達には合ってないのかもしれないな」


加えて愛しい人は、僕が大好きだ。
すぐに僕の体を求めて、君なしでは生きていけないと言う。


まったく、困った人だよ。


「来世はジンベイザメになろうか。そうすれば休みの日が増えて俺達は一緒に居られる。いろんな海を渡って、いろんなものを見るんだ」


「いいね、それ。でも君にジンベイザメが務まるかなぁ」


「どういう意味だそれは」


だって、空が明るいうちはジンベイザメのように温厚で優しいけれど、夜が更けるとジンベイザメとは程遠い狼みたいになる。

とは、まぁ口には出さないけども。

けれどそこがまた僕は愛しいと思……ゲホンゲホン、失礼。少し惚気てしまった。

「人間じゃなくなったら、キスとか出来なくなるね」

「確かにそうだ。それは大問題だ」

真剣な顔で唸りながら愛しい人は、途端僕のシャツのボタンを丁寧に外していく。

それに気づき僕は愛しい人の手を掴んで止めようとする。
も、愛しい人は丁寧にボタンを外し続ける。

「う~ん……じゃあ来世のジンベイザメは保留かな。けどさ、俺達がもし次の人生を、人間以外の何かにしようと決めたとしたら、こうして触る事も出来ないかもしれない。
そう考えると、もっと愛し合っておくべきだと思う。君もそう思わない?」

優しい問いかけではあるものの、既に愛しい人は僕に覆い被さるようにして返答を待っている。


あ、あれ…?


「えぇっと、もっと愛し合うっていうのは、つまり今日から?」

「今日から」

「つ、まり、い、今から……?」

「今から」




前言撤回をします。

空が明るいうちにも、僕の愛しい人は時々、ジンベイザメとは程遠い狼になることがある。



まぁそこも愛しいのだけど。


おっと失礼、最後まで惚気てしまった。
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