AI恋愛

@rie_RICO

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夢の終わり、動き出す瞬間

二度目の悪夢【後編】

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 柔らかい日差しに暖まる身体、満たされたお腹…そして甘いミルクティー。
 革張りの座り心地の良いソファーに、穏やかな表情の男性。
 リラックス要素はたくさんあるのに緊張で顔が強張る。
 カップをソーサーに置こうとしたが手が震えてカチャカチャと雑音を奏でてしまう。
 身体は正直だ。
 この後のことを考えると、どうしても平常心でいられない。

 古本屋に着いたら三咲くんを探して伊上さんに連絡してもらう。
 三咲くんに会えなかったら、他のバイトの人に言伝を頼めばいい。

 そのためには…不穏な動きを読まれて自由を奪われると困る。
 もし、男の機嫌を損ねてお店に行けなくなったら…この計画は失敗だ。
 次の計画は自力で脱出することだけど…。
 外に出られたとしても、そこから何も持たずにどうやって帰ればいいだろう。
 脱出するより助けてもらうほうが確実に思える。

 そんな考えが頭の中でループしていた。
 近くにあった人の気配がスッと消え、代わりに食器を重ねる微かな音が耳に入る。
 顔を上げると男が窓側の方から朝食の片付けをし始めていた。

「あ…。て、手伝います。」
 思わず立ち上がり近くのお皿を重ねて腕に乗せていく。
 ファミレスでバイトしていた経験がこんなところで役に立つ。

「すごいね。そんなに力持ちに見えないのに(笑)
 ありがとう。キッチンはこっちだよ。」
 男は笑顔を向けながら着いて来て、と前を歩いた。

 食事をしていたテーブルのすぐ横にある白い引き戸を引くとキッチンが現れる。
 大きなシンク、巨大な冷蔵庫、食器棚は壁際に天井から作り付けられており、その下にワイングラスなどが逆さに掛けてあった。

「ここ片付けたら出かける用意をしてくるね。…リビングで待ってて。」
 そう言いながらシンクの下の棚をスライドして引くと食洗機が出てきた。

「軽く洗ってから食洗機に並べればいいですか?」
 みうは〝 洗い物はやります 〟とばかりにシンクの真ん中に立つ。

「うん。そう、よく知っているね。
 じゃ、お願いするかな。着替えてくるよ。」
 そう言うと男はリビングを越えた先の部屋に消えた。

「さてと…。」
 腕まくりをしてお皿を軽く水洗いしていこうとするが…。

 水道が少し高い位置にあり、背の低い みうには背伸びをしてやっと届く位置だった。
 シンクも少しばかり深いので、ずっと爪先立ちの状態になる。
 少ししかない食器洗いが思ったよりも重労働だ。

 うー。背が欲しい…。

 キッチンは広々としていて使いやすそうなのだが…。
 男の背丈に合わせてのオーダーメイドなのだろうか。
 みうには何もかもが高い位置にあって少しだけ不便だった。
 少しずつ水洗いをし、終わった食器を機械の中に重ならないように入れてゆく。

 男がキッチンを出て10分。
 着替えを終えて戻ってきた。
 白いシャツに細身のジーンズというシンプルな姿だった。
 キッチンの扉を拳で軽くトントンと叩いて戻ってきたことを知らせてくる。
 ゆったりとした仕草で扉にもたれ掛かる姿は大人の色気を感じさせた。

「あ、おかえりなさい。
 もう少しでお皿洗い終わります。」
 シンクに身体を寄せたまま、顔だけ横に向けて手を止めずに声を掛けた。

 目が合うと男がぷっと吹き出す。
 背伸びをしながら洗っている姿に〝 子供のようだ 〟とまた笑い出されてしまった。
〝 帰りに踏み台も買ってこないとね 〟と頭をポンポン撫でられ優しく微笑む。
 腕まくりをし みうの隣に立つと、残りの食器を洗い、水を切りながら渡してくる。
 みうは食洗機に渡されたお皿を並べるだけの作業をすることになり背伸びから解放されることになった。

 さりげない気遣いに分からなくなる。
 本当にこの人は…悪人なのだろうか?
 軟禁に近い状態にある現状と、男の優しい態度に頭が混乱しそうだ…。

「じゃ、行こうか。」

 全ての作業が終わり同じタオルの端と端で手を拭いた。


 軽装に着替えた男と玄関を出ると、小さな庭と四角い石を並べた小道、その少し遠くに柵で覆われた囲いが見える。
 庭には背の低い小さな花が色とりどりに咲く。
 振り返るとレンガ調の、くすんだ青色をした壁の家がそこにあった。
 ここが一軒家だったということに内心、驚いた。

 前を行く男の後について家の左側にあるガレージに向かう。
 中には白と紺の2台の車が止まっていた。

 片方の車に見覚えがあったので思わず駆け寄って中を覗く。
 昨日、伊上さんに乗せてもらったのと同じミニの白だった。
 フロントに貼ってある車検証…記憶が正しければ一緒の年月日。
 革張りのシートも同じ色と模様…。
 こんな偶然そうあるわけがない。

 いまいち記憶に自信はないが、カマをかけて聞いてみる。
「あれ、この車って伊上さんの…。
 あなたは伊上さんの知り合いなんですか?」

 男は みうの覗いている車の隣にあった紺色のセダンのロックを外していた。
 ガレージに解除音が鳴り響く。
「みうちゃん、今日はこっちの車だよ。」

 その言葉に一瞬、頭が真っ白になる。
〝 今日は 〟そう言った…。
 ということは昨日のことを知っているという事?

 そんな考えをめぐらせていて一瞬だけ行動が遅くなるが不審に思われる前に、なんとか紺色のセダンの助手席に乗り込んだ。
 シートベルトを掛けながら運転席に座った男にもう一度、尋ねた。

「あ、あの。伊上さんの知り合いなん…」

 男は彼女の言葉にかぶせるように笑いながら、あっさりと自白する。
「くっ。みうちゃん、まだ気付かないって(笑)。
 私は『伊上 要』本人だよ。」

 まだ動き出さない車の中で『伊上』と名乗った男は助手席の方に身体を向けた。

「ごめんね。最初に言えば良かった。
 簡単に自己紹介しよう。
 父がロシア人で母は日本人のハーフ。国籍はロシア。
 母は幼少の頃に病死、父は…まぁ、事故があって行方不明。この話は長いから後でね。
 現在29歳、独身、恋人募集中。改めてよろしく。」

 今度は大笑いをせずに、口角だけを上げて涼しげな笑みを湛えている。
 その表情は確かに、伊上さんの『よく見せる表情』だ…。
 それに昨日とは車が違うが、隣に座ったときの景色が(座高の高さが)同じに思えた。
 でも声が彼女とは違いすぎる。
 これでは気付けと言われても無理だ。
 見た目も…どう見ても男性なのだから。

「っ!! ええっ! 伊上さん、だったんですか?。
 あ、今日は男装しているんですね?」
 驚きで少し声が大きくなってしまった。 

 ガレージから車がゆっくり出ると後ろで自動にシャッターが閉まってゆく。

 後ろを振り向きもせず慣れた様子で運転しながら答えた。
「ううん。普段が女装だったんだ。
 あ、別に趣味ってワケじゃないよ。安心して(笑)。
 KAIの件で外の用事が増えててね。変装してただけ。
 声はね、ボイスチェンジャーの小型マイクで…いつも襟の裏に隠してた。」

 そ…っか、伊上さんだったんだ。
 ずっと警戒していて疲れた…(苦笑)。 

 今までの緊張が一気に抜けてヘナヘナと車のシートに沈むように身を委ねる。
 こうして『見知らぬ男から逃げ出す』計画は白紙に戻った。

 車は住宅街を抜けて大通りに出た。
 交差点の看板を見ると…なかなかの高級住宅街に家があったことが分かる。
 思い出せば今抜けてきた道は、閑静で人通りもなく門のある立派な家が多かった。

 だけど、変装…であの色気が出るものなの…。
 軽く言っているけど、そんなレベルじゃなかったよ。
 っていうか……ちょっと待って。
 女の人だと思って接していたから、何かいろいろやらかしてたよ…ね。

 KAIのダイブの時に目の前で着替えていて、裸見られてる(汗)。
 あと今朝のシャツを着せてくれたのも…この人なんだよね。
 はぁー。2回も裸見られてる(涙。

 いろいろと思い出して、いたたまれなくなり両手で顔を隠した。 
 今は伊上さんの顔が見られない…。
 
 両手で顔を隠したまま質問する。
「じゃぁ、何で今日は…。」

 急に加速していく時のGが身体にかかった。
 目も閉じているので外の景色が見えないが高速に乗ったみたいだ。

「素の自分を みうちゃんに知ってもらうためかな。
 明日から一緒に暮らすわけだし。」

 その言葉に鼓動が一瞬、早くなる。

「そ、その事なんですけど…。急すぎて頭が追いつきません…。」

 それもそうか…と呟きながら、かなりのスピードで車線変更を繰り返し、前の車両を追い越してゆく。
 顔を覆った指の間から見えた伊上さんは至って平然としているが、隣に乗っている方の体感はかなりのものだ。

 ふと昨夜のことを思い出す。
 昨日も夜中の山道でのスピードが怖くて目を閉じていた。
 山道を抜けるまでと思って顔を覆っていたのだが…。
 結果…疲れていたのと、この体感が良い刺激になって寝てしまった。
 で、そのまま眠り続けて今朝の失態というわけ…だ。

 指の隙間から見ていた伊上さんが、顎を片手で撫でながら首をかしげ何かを思案するような表情をした。

 少しだけ重たく息を吐きながら先ほどの話しを続ける。
「三咲くんでも…良いんだよ。彼のお家でも。
 みうちゃんが1人でいることが危険だからね。
 ただ…私と一緒だとKAIに何かあったとき、すぐ対応できる。」

 そう言ったすぐ後に〝 だけど三咲くんの家じゃ みうちゃんの処女が心配だな~ 〟なんて意地悪な声で付け足された。
 とっさに両目を閉じて耳を塞ぐ。
 恥ずかしくて頬も耳も熱を帯びて真っ赤に染まる。

 ETCが近付きスピードが緩まった。
 両手を下ろして真っ赤な顔を伊上さんに向けて主張してみる。
「…そこまでしてもらわなくても。
 今までも1人で大丈夫だったわけですし。」

 私はしっかりしてますよ。
 と、アピールするように背筋を伸ばして伊上さんに視線を送っていた。

 が、伊上さんの一瞬だけ送ってきた強い視線がそんな小さな威勢を吹き飛ばす。
「四菱商事を甘く見てはいけない。
 本当は、もっと早く みうちゃんを保護するべきだったんだけど…。
 KAIがずっと狙われていたから手が離せなかったんだ。」

「え。KAI…の体がですか?」

 伊上さんが深く頷く。

「2回転院してる。
 熾天使も狙われたら、もう国内に伝(つて)のある安全な病院はない。
 次は海外に行くことになる…かな。」

 そう聞いて みうの顔がみるみる青ざめた。
 伊上さんは横目でその表情に気付き〝 今は順調に回復している。もうすぐ意識(スマホの中のKAI)を(体に)戻してリハビリできるぐらいだから 〟と左手を優しく肩に手を乗せた。


 そんなことを話している間に古本屋の近くまで来ていた。
 見慣れた景色の中、迷うことなくお店に一番近いコインパーキングで駐車する。
 みうは1人でお店に向かおうとしたが、危ないからと伊上に制止されて一緒に店内に行くことになった。
 
 お店に着いて自動ドアをぐぐる。
 久しぶりに聞く店長の〝 いらっしゃいませ 〟という声と共に、一緒に働いていた仲間が みうの元に寄ってきた。
 ただ1人…礼美さんを除いて…。
 彼女には例の倉庫の日から避けられている。

 お店にはお客がいなかったので、この場でアルバイトを辞めるか長期休暇ということを告げた。
 店長は〝 気が向いたらまた来てね 〟と寂しそうに笑った。
 それから少しばかり世間話をしていたが店長だけ急にソワソワしはじめて〝 店は暇だから好きなだけいていいよ 〟と言い残し倉庫の方へと消えてしまう。
 たぶん…いや、絶対、礼美さんのところへと行ったのだろう。
 女の子3人と伊上さんだけになり、更に選さんと杏さんのテンションが上がった。


「高畑さん!本当に辞めちゃうのー?寂しいよっ。
 というか、雰囲気変わったねー。
 すごく可愛くなっちゃった!」
 選さんと杏さんに囲まれて、何で辞めるの?と問い詰められる。

 答えられずに曖昧に誤魔化していると…

 杏さんがちらりと伊上さんを見て、みうに耳打ちをする。
「異国の彼氏?いいなぁ。ミステリアスな人だね…。」

 慌てて違うと反論するが2人の妄想が炸裂し、止めようがなかった…。
 伊上さんも否定せずにニッコリと笑いかけるものだから、その妄想を肯定されたかのように2人がはしゃぐ。
 そんな様子を遠くで三咲くんが拗ねるような顔で棚の影から窺って(うかがって)いた。
 伊上さんは みうのことを少し離れた場所から見守っていたのだが…。
 本棚の影で拗ねる彼に気付くと薄く笑い みうの横に立ち、そっと彼女の肩を抱いた。
 選さん、杏さんの黄色い声が店内に響く。

「キャー。高畑さん大事にされてるっ!」
 と、興奮気味の主婦の杏さん。

「やっぱり彼氏なんじゃない!?」
 顔を真っ赤にして みうよりも照れている選さん。

 そんな2人の様子に伊上さんは余裕の笑みを浮かべて、さらに みうの肩を寄せて自身に密着させた。
「私の姫だからね。
 さ、お店の迷惑になるから、そろそろお家に帰ろうか。」

「! お家…もしかして一緒に住んでるとか?」
 杏さんの叫びに、選さんが堪らずピョンピョン飛び跳ねた…。

 特大の妄想の材料を抱えて2人が黙っているはずもなく…前以上に妄想ワールドが全開になる。
 こうなったら店長が来て注意されるか、どちらかの体力が切れるまで止まらない。
 黄色い声の中で帰るタイミングを逃し、ただただ伊上さんに肩を抱かれていた…。

 ふと目の前に人の気配を感じる。
 見覚えのある背丈に茶髪が揺れた。
 本棚の奥から見ていた三咲くんが自分のことを、いつまでも探しに来ない みうに、しびれを切らして目の前に姿を現す。

「…少しだけ話してもいい?」
 彼は、いつも以上に低い声でそう言うと みうの肩に乗せた伊上さんの手を払って退けた。
 そして彼女の手をギュッと握ってお店の外に連れ出す。

 後ろを振り向きながら三咲くんに引っ張られる みうの目に写ったのは…。
 まるで三咲くんの行動を予測していたかのように薄く笑う伊上さんの表情だった。

 前を向くと機嫌の悪そうな背中。
 振り向きもせず、少し痛いぐらいギュッと握られた手の熱に安心と不安が入り混じる。

 みうは三咲くんに引かれ、お店と道路などからちょうど死角になる裏手に来ていた。
 ここはアルバイトが休憩する時によく使用する場所なので、折りたたみの簡易椅子が壁にもたれて置いてある。
 彼は彼女を、より壁際に移動させて両腕で包み込んだ。

 熱気を含んだ体臭が鼻の奥に届く。
 三咲くんの心臓の鼓動が聞こえる。

「あ、あの…。三咲くん?」
 顔を上げて彼を見上げ、表情が見える前に唇を重ねられそうになり思わず退く。

「っ! みうちゃん?…。」
 灰色の瞳が哀しそうに歪む。

 咄嗟に避けてしまった…。
 ほとんど反射だ。

「…。ご、ごめん。あとで話す。」
 みうは自分の行動に驚いて動揺していた。

 ほんの少し前まで、三咲くんのキスは嬉しかったはずなのに―――。
 自分の中で明確な何かが変わっていた。
 それは…たぶん、いや、きっと…そうだ。

「……。うん。分かった。待つよ。
 もうすぐ夏休みだよね。遊びに行こう。」
 傷ついた表情を隠すことなく、三咲くんは みうを離さないままでそう言った。

 彼も気付いている。
 みうが自分よりも…好きな人ができたということを。
 だから今だけでもと物理的に腕の中に閉じ込めていて離せない。
 心は…彼女の心は誰かに奪われてしまったから。
 
「うん。行こう…楽しそう…。」
 みうは何とか笑顔を作って答える。

「…髪切ったんだね…可愛いよ。洋服も似合ってる。
 でも、どうしたの急に?」
 みうの顔に掛かった髪を、三咲くんが優しい指使いで耳に掛けた。

 彼の指の熱が頬と耳をかすめる。
 視線を上げると灰色の潤んだ瞳が見つめてきた。
 言葉に出さなくても、態度から〝 好き 〟だと伝わる…。

 そんな彼に〝 誕生日だったから、KAIにプレゼントしてもらった 〟なんて言えず、言いよどむ。
「っ。う…ん。この前、ちょっと…ね。
 今日は人の車で来てるの。
 あまり待たせたくないから。」

 言葉に出せず、つい心の中で謝ってしまう。
 三咲くん、ごめんなさい――と。

 じゃ、と言い みうは店内に戻ろうとした。
 背中越しに彼の小さな呟きが聞こえる。

「…。あの男は、伊上だろ。」

 その声に一度振り返って軽く頷いてから足早に戻った。


 店の入口が見えてきて、ふと後ろを振り返ったが三咲くんはいなかった。
 自動ドアの少し手前で立ち止まり気持ちを整理する。

 自分の中で本当に好きなのは1人だけだ…。
 それに気付いたのは、昨日の病院で本当のKAIに会った…から。
 私はずっと…名前も知らない時からKAIに惹かれていた。
 スマホにいた彼にも、どうしようもなく惹かれている。

 AIに恋なんておかしいって自分でも分かっていたから心にブレーキをかけていた…。
 そんな時に知り合った三咲くんのことを『良い人だ、楽しい』とは感じても恋しくなったことはない。
 コンサートの後でキスをして恋に落ちるかもと思った時もある…。
 でも、そのあと三咲くんを会えない日が続いたのに、ちっとも…切なくも、恋しくもならなかった。

 だけどKAIがいないのは寂しい。
 スマホにいない時期は切なくて辛かった…。
 彼の本当の体に触れて、何の反応も無いのに側にいれて嬉しいと思った。
 今触れているということを理解って欲しいという無理なわがままで泣いたけれど、彼を感じられたという幸せがあった。

 そっ…か。好きってこういうことなんだ。
 理屈とか条件とか、見た目が好みだとか、そういう目先のふるいに掛けた相手じゃなくて。

 心の赴くままに…ただただ愛しくて、側にいたくなる。
 相手のことを考えただけで切なくて心がせわしなく騒ぐ…。
 それが愛。これが好きという気持ち…。

 ゆっくりした足取りでお店の自動ドアを開いた。 


 店内に戻り、伊上さんと一緒に挨拶をして古本屋を出る。
 次に みうのアパートに行って最低限に必要な荷物だけまとめて伊上さんの家に戻った。
 夜に地獄のレポート作成に取り掛かる。
 あまりにも進まないので伊上さんに助けてもらったら3時間ぐらいで仕上がってしまった。
  
 KAIが回復するまで大学に行く時は伊上さんが送り迎えしてくれるらしい…。
 それを聞いたとき一抹の不安を感じた。
 いったい彼はどちらの姿で大学に来るのだろう…。
 何となく質問できずに奇妙な共同生活の1日目は終了したのだった。
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