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@rie_RICO

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背中合わせの運命

紫小灰蝶(ムラサキシジミ)【後編】

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 無粋な物言いと下種な内容に心底腹が立つ。
 冗談っぽく言いながらも、タレ目の奥が怪しく光るのを見逃さなかった。

 こいつは…本気で思ってる時の眼だ。
 飼い犬に噛まれる前に躾けておかないと。

「バカでしょ。バンド潰す気?」
 キッと一瞬睨んでワザと後ろを向く。

 昨日、耳の後ろに刷り込んでおいた〝 媚薬 〟の入った練り香水をさり気なく擦った。
 空気に触れ揮発すると効果が出るという…黒魔術の小道具で、いわゆる惚れ薬だ。
 使うまでは本気にしていなかったが、これが案外、効果がある。
 ベッドの上にアタシのフェロモンと媚薬の混じった匂いが漂う。


「えー。だってさ。もう半分解体してんじゃん。俺ら。
 音楽活動してぇけど、デビューできないし。
 カネは鈴の会社が毎月くれるけどさー。」
 夜見は、そう悪態をつきながらも、鼻の奥で匂いを感じ取る。

 目の前にあるシーツからはみ出た、鈴の細い肩が視界に入り急に鼓動が跳ねた…。
 甘い、脳が溶けるような甘い匂いは次第に濃くなり、雄としての欲求が高まってゆく。
 心拍数が異様に上がり頭がクラクラする。
 急激に欲望に駆られ、下半身が充血していく。

 夜見はベッドの端で煙草の火を消して、筋肉質の腕で後ろから抱きついてきた。
 煙草臭い息が耳元にかかる。


―馬鹿が…罠にかかった。
 夜見が夢中になるのはアタシだけでいい…今は。
 知ってる? ムラサキシジミの幼虫は甘い香りの蜜を出す…。
 それはアリにとって遠くにいても分かるぐらい甘美な匂い。


 夜見の欲情した声は熱い息使いを伴い鈴の耳元をくすぐった。
「こうやって…
 お嬢様を〝 かわりばんこに 〟犯せば…メンバーにカネは入るけど。」


 昨日のままで何も履いていない下半身に後ろからいきなり勃起した男根で突き上げる。
 寝起きの乾いた膣が擦れて死にそうに痛い。


―くっ、い、痛い…けど、これも計算通り…。
 この変態が一番興奮するのがコレなんだから。
 …そう幼虫が出す蜜にアリが夢中になるみたいに。
 けどね。その蜜って、幼虫がアリを使役する成分が入ってる。
 つまり食べたらアリは死ぬまで幼虫の奴隷…。
 そのことに全く気付かず、巣の中に幼虫を連れて行くアリもいるけど。
 そうなったら巣ごと幼虫の奴隷になっちゃう。ふっ。


「っ!!! バッカ! 止めてよ!
 痛いって言ってんのー!!!!」
 あまりの激痛に奥歯がギリリと鳴った。
 後ろに手を伸ばして身体を離そうとするが、押さえられて犯(や)られるだけだ。


「あっ。鈴とは…さぁ、はっきり言ってヤってもつまんないの。
 こうやって服従でもさせない…っと、俺、感じな…いんだよ。
 あーぁ、あの娘とシたいなー。」
 言葉とは裏腹に夜見は激しく腰を動かす。
 筋肉に汗がしたたり、ソレが動くたびに背中に降ってきた。


―馬鹿。アタシを犯して優越感に浸って感じまくってる。
 そう? そんなにイイ?
 気分が上がるように、もっと叫んで演技してあげる。
 アタシという蜜から、オマエは逃げられない。


「嫌ぁぁぁっ、こういうのはシたいヤツにヤりなよ!!
 キャ…バクラの女でも何でもっ! もう止めて!」
 半分絶叫に近い声で叫びながら後ろを振り向いたとき…。


 片手で髪を掴まれて無理やり上半身を起こされた。
 動きを止めた夜見が自身を抜かぬまま、剥き出しになった鈴の片耳を後ろから唇で食み舌を耳の中へと滑らせる。
 ぬるっとした舌先が耳の中を唾液と共に入り込む。
 ピチャピチャと舐める音、耳に入り込む唾液の不快感…。
 いつ終わるかとも分からない耳の内部を犯されている嫌悪感が徐々に背中からお腹に落ち、身体の奥が熱くなっていく。
 夜見を受け入れている場所が湿っていくのが分かった…。

 
―嫌…イヤなのに身体中が変に敏感になる……。
 ああ、このバカ男にイカされるなんて…最悪。
 だけど…こうなった方が、この馬鹿は興奮する…。


 耳元で響く、夜見の低くて卑しい声。
「…なっ? 鈴はこういうの好きじゃん。
 オマエって本当に…」


 そう言い鈴の耳たぶに歯を立てながらまた激しく動き出す。
 前のような痛さは遠のき、代わりに水音と痺れるような気持ち良さがお腹の奥からせり上がった。
 たくましい腕の中で自ら快感を得ようと無意識に腰が動く。

「オマエって本当に…さぁ。…」

 2人の汗がベッドの上にしたたり、お互いの快楽の為だけに粘膜を擦り合わせる音が響く。

「えっ、あ、ああんっ。もう…ダメっ」
 鈴の身体に電気のような衝撃が走り全身のチカラが一気に抜け…中が痙攣する。


「ヘ・ン・タ・イ…だよなぁ。」
 ぐったりとした鈴の腰を持ち上げて力任せに自身を何度も打ち付け中で果てた。
 そして〝 用は終わった 〟と言わんばかりに自身を抜くと彼女の身体をシーツに投げ捨てる。


「ふぅー。いい運動した(苦笑)。
 もう、今日はシなくていいだろ?
 シャワーいってくる。」
 一方的にまくし立てるように夜見は言い残し、一度も振り返らずにシャワールームへと向かった。


 ゴミのように捨てられたまま…
 奥に残る痛みと身体の痺れて、すぐには動けない。
 気だるい身体を湿ったシーツの上で癒しながら目の前に落ちていた写真を拾い眺める。
 バカ男のさっきの言葉で、ぼんやりとまた昔を思い出していた。


 お母様も、あのときお父様に〝 変態 〟って…。
 あれから1年後に弟が生まれた。
 お母様そっくりの可愛い顔をした赤ちゃんだった。
 お父様は待ち望んだ男の子だからって、弟の方をものすごく可愛がって…。
 何をしても、もう私を見てくれなくなったんだ……。


〝 欲しいものは手に入れる 〟お父様はいつもそう言ってた。
 だから…行動しただけ。そのための代償なんてちっぽけなもの――。



 あれは…暑いぐらい日差しが照りつける日。
 庭の花もいっせいに咲き誇っていた。
 チャンスは突然やってきたんだ。

 お母様がメイドに呼ばれてお屋敷に戻り、弟が乗っていたベビーカーを私に預けた。
 お父様が愛馬に乗ってお庭を走って戻ってきたところに、手を振るふりをしてベビーカーを勢い良く馬の前へと転がす。
 弟は馬に頭を踏まれてぺしゃんこ。
 愛馬も転倒してしまって足を折ったから射殺したんだっけ。
 あの時のお父様の顔ったら…。

「ふふふっ。」
 鈴はつい思い出し笑いを漏らした。
 無邪気で清々しい笑顔を浮かべ起き上がる。
 気だるい下半身から夜見のモノが垂れた。
 開いた両太ももの間にシミを作る…。
 しかし、そんな事には気を止めず、ベッドサイドに置いてあったネックレスを掴んだ。
 シャラリと軽い音がして紫色の蝶が宙を舞う。
 それをぼんやり見つめながら昔の記憶をたどった。


 それから2年後に生まれた2人目の弟…。
 アタシは小学生になっていた。
 よく泣く煩い(うるさい)生き物。
 こいつも要らないと思ってた。

 あの日はいつもより泣きわめいていた。
 寝苦しいほど急に暑くなった日だった。
 寝返りがまだできない弟には暑すぎる夜。
 いつも面倒を見ていたメイドが休みを取ったから誰も部屋にはいなかった。
 だから親切心で寝ている弟の鼻とクチにミルクをたっぷりと浸したハンカチを乗せて寝かせた。

 永遠に――。

 
 また生まれたら処分すればいい。
 そう思っていたけど、お母様の様子が2人目の弟が死んでからおかしくなって。
 今はお屋敷のどこかに隔離されている。
 誰の目にも触れないようにって。
 …特に花鈴には会わせないように…だって。ふふ。


 薄暗い部屋の中、無粋な足音と共にビチャビチャに濡れたままの夜見がベッドサイドに戻ってきた。
「…鈴よぉ。いつまでこんなことすんの?」

 その声で現実に戻り、手にしていたネックレスを裸の上に着けた。

 シーツで身体を隠しながら嫌な男を見上げ答える。
「決まってんじゃない。気が済むまでよ。
 あんた達は全員アタシの所有物なんだから。」

「へぇ。そりゃ随分と気に入られたみたいで面倒くさいハナシだ。」
 濡れてほんのりと湯気が昇る手に着信を知らせているスマホ。
 それを押し付けるように渡してきた。

 無言で受け取って乱れた髪を耳に掛けながら開くとLINUが2件。
 内容は…思っていたのと違った。

「チッ。どいつも使えない…。」
 ちらりと中身を見てスマホをベッドの上に叩きつけた。
 スマホは再び夜見の手の中に戻る。
 

「へぇぇ。三咲ってヤツすげぇじゃん。
 あの有名な暗殺者、倒したんだ?
 その上、今は沖縄に逃亡してんのか。」
 鈴のスマホを愉しそうに眺めながら棒付きキャンディを舐め回していた。

 ため息をつきながら夜見の手の中に落ちたスマホを奪い返す。
 三咲のGPSを確認し、正確な位置を調べようとしたときだった。
 沖縄の那覇にあった印が高速で移動、今は京都の嵐山だ…。

「…こんな偶然ある?
 このタイミングで飛行機??」
 つい独り言が漏れた。

 夜見が後ろから覗いて鈴の頭を軽く小突く。
「ばーか。この距離を数秒で動けるなんてありえねーだろ。
 …ほら、見てみ。また動くぞ。」

 画面上の赤い印が夜見の言った通りに動き出した。
 次は羽田空港の上。

「なるほどな…。
 やり方は分からねーけどGPSが誤作動してるか、機能そのものが消滅して他のプログラムに書き換えられた、か、だな。」

「なっ! 逃げられるだけなら分かるけど…。
 三咲ってヤツにそんな技術があったなんて。」

「だよなー。どうすんの? 鈴。」

 タイミングよく手の中のLINUが鳴った。

「大河(たいが・バンドメンバー・ギター)が、夜に来る。
 高畑…海(みう)だっけ、あのクソ女の居場所が分かったって、今LINUで。
 アイツからデータを奪うのが先。…三咲は後でゆっくりと。」

「あー、みう! あいつ可愛かったな…。
 喰い損じたんだよなぁ。…。
 なぁ、俺も夜までいていい?」

「…。勃ってる…。」
 年中発情しているバカ男にため息しか出ない。


 真夜中になり、大河が重要な情報と共にやってきた。
 凱(KAI)の居場所の目星がついたというのだ。
 みうも、ほぼ今の住所が分かったと、そこまで報告すると大河は夜見を無理やりホテルから追い返す。
 大河と2人きりになり、着替えと化粧直しをしホテルの近くでご飯を食べてから、また2人でホテルのスイートへ戻ってきた。
 ハウスキーパーが入り部屋は綺麗に整っている。

 部屋が閉まると同時に
「夜見はー、昨日いっぱい鈴とシたんでしょ。」
 と、ちょっと拗ねた感じの大河が鈴に抱きついた。

「気になるの?」
 回された腕を優しく撫でながら聞く。

「そ、りゃ…ね。俺が鈴にとって一番ならいいのに。」

 大河は鈴の後ろから首筋にキスを落とすと、そのまま手を取ってベッドへと誘う。
 鈴を器用に脱がしながら、くすぐったいぐらい優しい大河のキスが何処にでも降り注ぐ。

「っ、うんっ、大河…。顔と胸には触らないでね。」
 鈴は頬を染めながら言う。
 もちろん演技だ。

「ん。了解。…鈴、綺麗だよ。」


 夜見とは違う甘い時間が流れ、果てた大河はすやすやとベッドの上で眠ってしまった。
 鈴は大河の頭をひと撫でし、薄い上着を一枚羽織るとワイングラスとワインのボトルを持ってテラス(部屋に付いている小さい庭)へと出た。
 テラスには食事ができるぐらいのテーブルと椅子が完備されていた。

 あと1時間もすれば明るくなってくるだろう。
 いまは真っ暗で星の1つも見えない。
 間接照明が雰囲気を壊さない程度、オレンジ色に灯っていた。
 1人になって冷静になり、煙草をふかしながらワインを飲み思いふける。


 凱(KAI)。
 あの死に損ないめ…。
 アタシの手で殺さないと気が済まない。

 データさえ奪えれば、みうとかって女はどうでもいい。
 夜見の好きにさせるのも面白いだろう…。

 そこまで考えて閃いた(ひらめいた)。
 凱(KAI)はまだ病院にいるという大河のハナシ。
 みうはバイトを全て辞めている。
 もしかしたら2人はこっそり会っているんじゃないか…。
 と、すると一緒にいる所を押さえれば…アタシの願いが両方叶う。


「なぁんだ…。もうすぐチェックメイトじゃない。
 もちろんアタシの圧勝でね。」
 手に持った飲みかけのワインがグラスの中で揺れた。

 黒い空に薄ら笑いを浮かべた、その顔は…
 血も通わず、心もない…綺麗なドール(人形)そのものだった。
 
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