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背中合わせの運命
紫小灰蝶(ムラサキシジミ)【前編】
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ムラサキシジミ(シジミ蝶)
日本各地に生息し、年に3~4回世代交代する。
大きさは30~40mm。
ヒラヒラと、どこか頼りなく儚く飛ぶ姿に誰しも一度は心惹かれているだろう。
黒い縁取りの中に紫色の羽根を持つ。紫色の部分は光の当たり方により瑠璃色にも輝く。
雑草や芝生の上、低い花壇などに舞う姿は可憐そのものだ。
その本性を知らぬなら…なおさらに。
星が何個か並ぶ一流のホテルのスイートルーム。
天蓋付きクイーンサイズの真っ白なベッドの上に裸で寝入る男女の姿。
無粋ながら裸の男女が寝入るとなれば、その前に何があったか…想像するに容易い(たやすい)。
男の方はよほど疲れたのかヨダレを垂らし、大の字になったままイビキをかいていた。
中途半端な長さの金髪は襟足だけ黒に染め、寝ていても分かるほどのタレ目。
首には鎌、腕に蛇、胸に髑髏の刺青が輪郭だけ刺してあった。
上半身の筋肉は隆起し充分に鍛えてあるように見える。
女の方はシーツで身体を隠し、男とは離れるようにベッドの端の方で横向きで丸まるように眠っていた。
非常に均整の取れたプロポーション、手足のネイルは真紅に染まっている。
整いすぎるほど美しい顔は血が通っていないかのようだ。
こちらも気持ちよく眠っている…と言いたいところだが彼女は、過去の夢を見ていた。
細い眉が小刻みに揺れ額にはじっとりと脂汗が滲む。
苦悶にも近い表情で時々、顔が歪んでは唇を噛んでいた。
夢を見ていると理解しつつも起きられない。
いつも夢の入口は幸せに満ちているから…。
もう少し、あと少しだけこの幸福感に浸りたい…。
夢ならば…想像でハッピーエンドを描けると毎回思う。
けれど記憶の引力は強い。
最後は必ず残酷な現実を色付きで脳裏へと焼き付け、深く深く心をえぐる。
何度、心を切り裂かれても、この夢から起きられないのは人生で一番幸せだと感じていた瞬間だったから。
甘い砂糖菓子のような両親の愛…本当にあった幸せの最後の日。
これはアタシの一番古い本当の記憶…。
5歳になった夏。
夏休みの終わりの方…幼稚園を少しお休みして軽井沢の別荘に遊びに来ていた。
親子3人とメイドが5人…7人? …よく覚えていない。
それからコックとお父様の秘書。
まだ夏の暑さが残ってて、空には大きな入道雲。
いっぱいの草と花と虫がお庭にいて毎日、笑っていた。
お洋服はたくさんあったけれど、いつも幼稚園の制服を着ていたんだ。
どんな服にもない、たった一つの魅力があったから。
毎日、お父様、お母様とおしゃべりして、遊んで、歌も歌った。
メイド達が指人形でお芝居をしてくれるのも好き。
お母様のピアノに合わせて歌うと、お父様が笑うの!
あとね、あとね…。
皆が言うのよ。花鈴は世界一可愛いって。
お父様は花鈴をお嫁さんにしたいって。
お母様は花鈴の大好きなお菓子を焼いてくれるの!
別荘に来た時は、本当に毎日が幸せ。
忙しくて顔もまともに見れないお父様、お母様がお話して抱っこしてくれる。
メイド達も笑顔で優しいの。
けれど時は過ぎるもの…。
帰る日が近付くと寂しくて泣いてしまう。
で、いつも、また来年ねって約束だけ残して帰るの…。
けれど、5歳の夏を最後に約束は果たされなくなった。
もうすぐ別荘を離れるという日。
この日も花々が匂うほど咲き乱れ、空は青く高く、日差しが優しく降り注いでた。
アタシは別荘に来て一度も捕まえられなかったある生き物に心奪われていた。
この日は、それを捕獲し両親に見せたくて必死だった。
〝 捕まえたい! 〟
短く手入れされた芝生の上に、さっき見つけた宝物を探す。
アタシは紺色の短いスカートを履いていた。
窮屈な白いブラウスはあまり腕を伸ばせない…。
けれども首元の赤いリボンは気に入っていた。
なぜなら、毎朝リボンだけは、お母様が結んでくれるから。
ひらりと薄い羽根をせわしなく動かす、青紫色の蝶が目の前を飛ぶ。
お母様の大好きなムラサキシジミ。
「あ! 見ちゅけた!!
命令よ! お待ちなさい!」
機敏に動く小さな蝶を、ただ捕まえたいそれだけだった。
両手で挟むように何度もパチン、パチンと音を立てる。
広いお庭に手を打つ音が響く。
そして……何度も逃げていた蝶がやっと、手の中に収まった。
「! やったぁ!
お父様、お母様ぁ!!」
私はその両手を離さないように、身体の前に両手を合わせて突き出したまま、お庭の隅でお茶をしている両親の元へと向かった。
大きな銀木犀の木の側、お庭からも、建物からも見えない隠れた場所。
早く見せたくて一生懸命走って…
両親の位置から一番近い場所にいたメイドに足を止め、自慢するように言った。
「ちゅごいでしょ!
鈴ね、ちとりで(1人で)捕まえたのよ。」
「あらまぁ。お1人でですか!
花鈴さまが出来ないことは無いですね。」
ふくよかなメイドが笑顔で答える。
「そうよ! 花鈴は何でもできるの!!
でも、あなたには見せてあげない。
一番はお父様とお母様に見せるの。」
「そうですか。それは喜びますね。」
「うん! おまえにも、トクベツに後で見せてあげるわ!」
「はい。楽しみにしております。
どうぞ、お2人とも銀木犀の樹の下におりますよ。」
メイドは一礼すると右手を樹の方へと差し出し方向を指し示す。
メイドと別れ、私は急いだ。
挟んで閉じたままの両手がじんわり汗をかいていた…。
遠くに銀木犀と、その木陰に大きなテーブルらしき物が見える。
両手を前に出したまま走るのはとても難しい。
疲れてきて足が絡まりそうになるのを必死に踏みとどまりながら…やっとの思いで両親のいる銀木犀の樹の下に着いた。
「お父様!お母様っ!……あ。」
大きな樹の陰には物語のアリスに出てくるような可愛いテーブルと椅子が並ぶ。
私はまだ小さくて良く見えなかったけど、大理石のテーブルの上には湯気の立つティーセットとお茶菓子。
そう思うのは…辺りに甘い匂いとダージリンの深い香りが漂っていたから。
けれど両親の姿は椅子の上にはなかった。
キョロキョロと辺りを見回しながら注意深く探すと…。
少し遠くにある、どこからも死角になった銀木犀の樹の裏手にある二人用のハンモックの中に見つけた。
近寄ると、お母様がハンモックにもたれて苦しそうな顔をしていて…。
そんなお母様の上に立ったままのお父様が、見たことの無いほど怖い顔で馬乗りになったまま小刻みに動いていた。
「お父様…、お母様…??。
なんで、お洋服を着ていらっちゃらないの?(着ていないの?)」
持ち上げていた両手はいつの間にか下へと下がり…息を整えながら2人にゆっくりと近付いた。
お母様は何かを耐えるようにクチを大きく開け、ぼうっとした目線はどこを見てるのか分からない。
じーっと見つめていると、ふいに視線が合った。
「あ、あぅ…か、花鈴…。見てはダメ…。
あっちへ、行って…。あああっ!」
お母様のいつもは美しくて優しい顔がいびつに歪んだ。
身体も顔も汗でぐっしょりと濡れており、日差しで光る。
「お2人とも…お顔が怖いわ…。
お父様、お母様をいじめちゃイヤッ!」
目にしたのは苦しそうにうずくまるお母様のお尻に、お父様のお腹あたりから生えている長くて太く、やたらと黒い何かを差し込んでは抜く姿。
お父様の目は獣のように光って…いつもの優しい顔じゃなかった。
「花鈴っ、お願い…あっちで遊ん…でっ。
……んんっ、いやっ、我慢できないっ。」
お母様まで獣のように息づかいが荒い。
お2人は何か別の生き物になってしまったんだ、そう昨日の夜に見た怪物の映画に良く似ている…。
捕まったら花鈴も怪物になってしまうのかも!
アタシは怖くて数歩後ろに下がった。
恐怖で身がすくみ身体が思うように上手く動かない…。
両手はまだ前で合わせたままだった。
逃げようとする私に怖い顔をしたお父様が睨みながらこう告げた。
「…。はぁはぁ。いや、見なさい、花鈴。
お前の母親は見られて感じるんだ…。
中(膣)が、もう、こんなに…。
変態だな。お前は。」
そう言うとお父様は前よりも激しく、お母様のお尻に身体を打ち付けた。
その打ち付ける音とハンモックが軋む音そしてお母様の苦しそうな声が場を満たす。
静かな庭には不釣合いだ。
耳を塞ぎたくても両の手は離せない。
咲き始めた銀木犀の白い花から甘い微香、お母様の香水の香り…2つが交じり合い私の鼻の奥をくすぐる。
恐怖で立ち尽くした私は……気付けば両手を力強く握り合わせていた。
両方の眼からは涙が溢れ、そのことに気付かれたら襲われると思い声を殺して泣くしかなかった…。
それから、ものの数分で両親の〝 事 〟は終わったのだけど…。
やっと捕まえた宝物は手の中でぐちゃぐちゃに潰れて、ただの…。
ただの―――。
ふと薄目を開けると目の前に白いシーツ…ここは、いつも泊まっているホテルのスイート。
ああ、また昔のことを夢に…。
無意識に握り締めていた両手を開いて手のひらを見た。
もちろん…何も無い。
アタシの中で一番、幸せだったけど忘れたい嫌な記憶…。
次の年から3人で別荘に行くことは無かった…。
下半身に重くだるい感覚を感じながら完全に目を覚ます。
隣にいる裸の夜見(よみ・バンドメンバー、ベース)がニヤニヤとしながら煙草をふかしていた。
ベッドの上で腹ばいになって筋肉質の太い腕が掴んでいたのは…アタシの昔の写真。
変な金髪を揺らしながら目覚めたアタシの顔を、鼻を鳴らして覗きこんできた。
煙草の灰がベッドの上に散る。
「鈴よぉ。おまえ何この、ぶっ細工な子供の写真。
まさかとは思うけど…おまえなの??」
夜見の手の中でヒラヒラと舞う写真の中の女の子はちょうど夢に見た頃の自分。
有名なお嬢様学校付属の幼稚園の制服を着ている。
紺色の釣りスカートに白のブラウス、このブラウスは窮屈で本当に嫌いだった。
寝る前のルーティンで枕元に写真とネックレスを置くのが癖になっていたことを悔やむ。
夜見が夜中にやってくる前にしまおうと思っていたのだが、予定よりも早く部屋にやってきて…で、2回ほどシたから疲れて忘れてしまっていた。
ネックレスはあの時、捕まえられなかった紫色のシジミ蝶がモチーフになっている、お守り代わりだ。
「…はぁ。見たなら仕方ない。
そう、それはアタシ。芋虫が蝶になったのよ。」
半ば、やけくそで頭の中はエロいことしか無い馬鹿な男に返す。
「あぁ。そりゃ大変な整形だったんだな(苦笑)。
これ(写真の中)が、これ(今の花鈴)とは…ねぇ。
クックック…。」
タレ目が卑しそうに笑う。
そう言われても仕方ない。
昔の面影は微塵も無いのだから。
けど、この男に言われると何でこんなにムカツクんだろう。
「…欲しいものは手に入れればいいだけ。
お金と名声があれば、何でも揃うのよ。」
いつまでも写真を離さない太い腕からタイミングを見て奪い返した。
取り返した写真。赤いネイルの先にお父様そっくりの昔の自分…。
髪だけは誰よりも綺麗で長く伸ばしていた。
その容姿を見て男の子が昔のホラー映画の主人公に似ていると騒いだのと、顔が魚類だから…2つの名前が合わさったあだ名で呼ばれていた。
鯖子(サバコ)って。
この顔のせいで幼稚園では常に1人だった。
お友達ができても笑うと怖がって逃げていったっけ。
何度見てもイラつく顔だけど、一番幸せだった頃……。
「あれかなぁ。
この情報、どっかの週刊誌にリークしたらどんだけ貰えると思う?
狙ってるキャバクラの娘、ヤラせてくれるかな?…。クックッ。」
夜見はニヤリと笑った。
愉しそうにピチャピチャと舌で宙を舐める仕草を見せつけるように繰り返す。
そのキャバクラの娘を舌で犯してる妄想でもしてるんだろう。
…馬鹿すぎて反吐が出そうだ。
日本各地に生息し、年に3~4回世代交代する。
大きさは30~40mm。
ヒラヒラと、どこか頼りなく儚く飛ぶ姿に誰しも一度は心惹かれているだろう。
黒い縁取りの中に紫色の羽根を持つ。紫色の部分は光の当たり方により瑠璃色にも輝く。
雑草や芝生の上、低い花壇などに舞う姿は可憐そのものだ。
その本性を知らぬなら…なおさらに。
星が何個か並ぶ一流のホテルのスイートルーム。
天蓋付きクイーンサイズの真っ白なベッドの上に裸で寝入る男女の姿。
無粋ながら裸の男女が寝入るとなれば、その前に何があったか…想像するに容易い(たやすい)。
男の方はよほど疲れたのかヨダレを垂らし、大の字になったままイビキをかいていた。
中途半端な長さの金髪は襟足だけ黒に染め、寝ていても分かるほどのタレ目。
首には鎌、腕に蛇、胸に髑髏の刺青が輪郭だけ刺してあった。
上半身の筋肉は隆起し充分に鍛えてあるように見える。
女の方はシーツで身体を隠し、男とは離れるようにベッドの端の方で横向きで丸まるように眠っていた。
非常に均整の取れたプロポーション、手足のネイルは真紅に染まっている。
整いすぎるほど美しい顔は血が通っていないかのようだ。
こちらも気持ちよく眠っている…と言いたいところだが彼女は、過去の夢を見ていた。
細い眉が小刻みに揺れ額にはじっとりと脂汗が滲む。
苦悶にも近い表情で時々、顔が歪んでは唇を噛んでいた。
夢を見ていると理解しつつも起きられない。
いつも夢の入口は幸せに満ちているから…。
もう少し、あと少しだけこの幸福感に浸りたい…。
夢ならば…想像でハッピーエンドを描けると毎回思う。
けれど記憶の引力は強い。
最後は必ず残酷な現実を色付きで脳裏へと焼き付け、深く深く心をえぐる。
何度、心を切り裂かれても、この夢から起きられないのは人生で一番幸せだと感じていた瞬間だったから。
甘い砂糖菓子のような両親の愛…本当にあった幸せの最後の日。
これはアタシの一番古い本当の記憶…。
5歳になった夏。
夏休みの終わりの方…幼稚園を少しお休みして軽井沢の別荘に遊びに来ていた。
親子3人とメイドが5人…7人? …よく覚えていない。
それからコックとお父様の秘書。
まだ夏の暑さが残ってて、空には大きな入道雲。
いっぱいの草と花と虫がお庭にいて毎日、笑っていた。
お洋服はたくさんあったけれど、いつも幼稚園の制服を着ていたんだ。
どんな服にもない、たった一つの魅力があったから。
毎日、お父様、お母様とおしゃべりして、遊んで、歌も歌った。
メイド達が指人形でお芝居をしてくれるのも好き。
お母様のピアノに合わせて歌うと、お父様が笑うの!
あとね、あとね…。
皆が言うのよ。花鈴は世界一可愛いって。
お父様は花鈴をお嫁さんにしたいって。
お母様は花鈴の大好きなお菓子を焼いてくれるの!
別荘に来た時は、本当に毎日が幸せ。
忙しくて顔もまともに見れないお父様、お母様がお話して抱っこしてくれる。
メイド達も笑顔で優しいの。
けれど時は過ぎるもの…。
帰る日が近付くと寂しくて泣いてしまう。
で、いつも、また来年ねって約束だけ残して帰るの…。
けれど、5歳の夏を最後に約束は果たされなくなった。
もうすぐ別荘を離れるという日。
この日も花々が匂うほど咲き乱れ、空は青く高く、日差しが優しく降り注いでた。
アタシは別荘に来て一度も捕まえられなかったある生き物に心奪われていた。
この日は、それを捕獲し両親に見せたくて必死だった。
〝 捕まえたい! 〟
短く手入れされた芝生の上に、さっき見つけた宝物を探す。
アタシは紺色の短いスカートを履いていた。
窮屈な白いブラウスはあまり腕を伸ばせない…。
けれども首元の赤いリボンは気に入っていた。
なぜなら、毎朝リボンだけは、お母様が結んでくれるから。
ひらりと薄い羽根をせわしなく動かす、青紫色の蝶が目の前を飛ぶ。
お母様の大好きなムラサキシジミ。
「あ! 見ちゅけた!!
命令よ! お待ちなさい!」
機敏に動く小さな蝶を、ただ捕まえたいそれだけだった。
両手で挟むように何度もパチン、パチンと音を立てる。
広いお庭に手を打つ音が響く。
そして……何度も逃げていた蝶がやっと、手の中に収まった。
「! やったぁ!
お父様、お母様ぁ!!」
私はその両手を離さないように、身体の前に両手を合わせて突き出したまま、お庭の隅でお茶をしている両親の元へと向かった。
大きな銀木犀の木の側、お庭からも、建物からも見えない隠れた場所。
早く見せたくて一生懸命走って…
両親の位置から一番近い場所にいたメイドに足を止め、自慢するように言った。
「ちゅごいでしょ!
鈴ね、ちとりで(1人で)捕まえたのよ。」
「あらまぁ。お1人でですか!
花鈴さまが出来ないことは無いですね。」
ふくよかなメイドが笑顔で答える。
「そうよ! 花鈴は何でもできるの!!
でも、あなたには見せてあげない。
一番はお父様とお母様に見せるの。」
「そうですか。それは喜びますね。」
「うん! おまえにも、トクベツに後で見せてあげるわ!」
「はい。楽しみにしております。
どうぞ、お2人とも銀木犀の樹の下におりますよ。」
メイドは一礼すると右手を樹の方へと差し出し方向を指し示す。
メイドと別れ、私は急いだ。
挟んで閉じたままの両手がじんわり汗をかいていた…。
遠くに銀木犀と、その木陰に大きなテーブルらしき物が見える。
両手を前に出したまま走るのはとても難しい。
疲れてきて足が絡まりそうになるのを必死に踏みとどまりながら…やっとの思いで両親のいる銀木犀の樹の下に着いた。
「お父様!お母様っ!……あ。」
大きな樹の陰には物語のアリスに出てくるような可愛いテーブルと椅子が並ぶ。
私はまだ小さくて良く見えなかったけど、大理石のテーブルの上には湯気の立つティーセットとお茶菓子。
そう思うのは…辺りに甘い匂いとダージリンの深い香りが漂っていたから。
けれど両親の姿は椅子の上にはなかった。
キョロキョロと辺りを見回しながら注意深く探すと…。
少し遠くにある、どこからも死角になった銀木犀の樹の裏手にある二人用のハンモックの中に見つけた。
近寄ると、お母様がハンモックにもたれて苦しそうな顔をしていて…。
そんなお母様の上に立ったままのお父様が、見たことの無いほど怖い顔で馬乗りになったまま小刻みに動いていた。
「お父様…、お母様…??。
なんで、お洋服を着ていらっちゃらないの?(着ていないの?)」
持ち上げていた両手はいつの間にか下へと下がり…息を整えながら2人にゆっくりと近付いた。
お母様は何かを耐えるようにクチを大きく開け、ぼうっとした目線はどこを見てるのか分からない。
じーっと見つめていると、ふいに視線が合った。
「あ、あぅ…か、花鈴…。見てはダメ…。
あっちへ、行って…。あああっ!」
お母様のいつもは美しくて優しい顔がいびつに歪んだ。
身体も顔も汗でぐっしょりと濡れており、日差しで光る。
「お2人とも…お顔が怖いわ…。
お父様、お母様をいじめちゃイヤッ!」
目にしたのは苦しそうにうずくまるお母様のお尻に、お父様のお腹あたりから生えている長くて太く、やたらと黒い何かを差し込んでは抜く姿。
お父様の目は獣のように光って…いつもの優しい顔じゃなかった。
「花鈴っ、お願い…あっちで遊ん…でっ。
……んんっ、いやっ、我慢できないっ。」
お母様まで獣のように息づかいが荒い。
お2人は何か別の生き物になってしまったんだ、そう昨日の夜に見た怪物の映画に良く似ている…。
捕まったら花鈴も怪物になってしまうのかも!
アタシは怖くて数歩後ろに下がった。
恐怖で身がすくみ身体が思うように上手く動かない…。
両手はまだ前で合わせたままだった。
逃げようとする私に怖い顔をしたお父様が睨みながらこう告げた。
「…。はぁはぁ。いや、見なさい、花鈴。
お前の母親は見られて感じるんだ…。
中(膣)が、もう、こんなに…。
変態だな。お前は。」
そう言うとお父様は前よりも激しく、お母様のお尻に身体を打ち付けた。
その打ち付ける音とハンモックが軋む音そしてお母様の苦しそうな声が場を満たす。
静かな庭には不釣合いだ。
耳を塞ぎたくても両の手は離せない。
咲き始めた銀木犀の白い花から甘い微香、お母様の香水の香り…2つが交じり合い私の鼻の奥をくすぐる。
恐怖で立ち尽くした私は……気付けば両手を力強く握り合わせていた。
両方の眼からは涙が溢れ、そのことに気付かれたら襲われると思い声を殺して泣くしかなかった…。
それから、ものの数分で両親の〝 事 〟は終わったのだけど…。
やっと捕まえた宝物は手の中でぐちゃぐちゃに潰れて、ただの…。
ただの―――。
ふと薄目を開けると目の前に白いシーツ…ここは、いつも泊まっているホテルのスイート。
ああ、また昔のことを夢に…。
無意識に握り締めていた両手を開いて手のひらを見た。
もちろん…何も無い。
アタシの中で一番、幸せだったけど忘れたい嫌な記憶…。
次の年から3人で別荘に行くことは無かった…。
下半身に重くだるい感覚を感じながら完全に目を覚ます。
隣にいる裸の夜見(よみ・バンドメンバー、ベース)がニヤニヤとしながら煙草をふかしていた。
ベッドの上で腹ばいになって筋肉質の太い腕が掴んでいたのは…アタシの昔の写真。
変な金髪を揺らしながら目覚めたアタシの顔を、鼻を鳴らして覗きこんできた。
煙草の灰がベッドの上に散る。
「鈴よぉ。おまえ何この、ぶっ細工な子供の写真。
まさかとは思うけど…おまえなの??」
夜見の手の中でヒラヒラと舞う写真の中の女の子はちょうど夢に見た頃の自分。
有名なお嬢様学校付属の幼稚園の制服を着ている。
紺色の釣りスカートに白のブラウス、このブラウスは窮屈で本当に嫌いだった。
寝る前のルーティンで枕元に写真とネックレスを置くのが癖になっていたことを悔やむ。
夜見が夜中にやってくる前にしまおうと思っていたのだが、予定よりも早く部屋にやってきて…で、2回ほどシたから疲れて忘れてしまっていた。
ネックレスはあの時、捕まえられなかった紫色のシジミ蝶がモチーフになっている、お守り代わりだ。
「…はぁ。見たなら仕方ない。
そう、それはアタシ。芋虫が蝶になったのよ。」
半ば、やけくそで頭の中はエロいことしか無い馬鹿な男に返す。
「あぁ。そりゃ大変な整形だったんだな(苦笑)。
これ(写真の中)が、これ(今の花鈴)とは…ねぇ。
クックック…。」
タレ目が卑しそうに笑う。
そう言われても仕方ない。
昔の面影は微塵も無いのだから。
けど、この男に言われると何でこんなにムカツクんだろう。
「…欲しいものは手に入れればいいだけ。
お金と名声があれば、何でも揃うのよ。」
いつまでも写真を離さない太い腕からタイミングを見て奪い返した。
取り返した写真。赤いネイルの先にお父様そっくりの昔の自分…。
髪だけは誰よりも綺麗で長く伸ばしていた。
その容姿を見て男の子が昔のホラー映画の主人公に似ていると騒いだのと、顔が魚類だから…2つの名前が合わさったあだ名で呼ばれていた。
鯖子(サバコ)って。
この顔のせいで幼稚園では常に1人だった。
お友達ができても笑うと怖がって逃げていったっけ。
何度見てもイラつく顔だけど、一番幸せだった頃……。
「あれかなぁ。
この情報、どっかの週刊誌にリークしたらどんだけ貰えると思う?
狙ってるキャバクラの娘、ヤラせてくれるかな?…。クックッ。」
夜見はニヤリと笑った。
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