須藤先生の平凡なる非日常

如月あこ

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第一章 5、須藤先生は、やっぱり少し、変わっている

6、

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「こうすると、文字が浮かび上がってくる。……ほら! すごいだろう?」
 先生は興奮気味に私の肘を引っ張った。先生の言うように、おみくじの白紙部分には文字が浮かび上がっている。
 出たおみくじ、「凶」って書いてあるんだけど。先生は鼻歌交じりで「やってみろ」というと、自分のおみくじには目を通さずに、縦に折り始めた。結ぶつもりだろう。
 同じように、おみくじをぺたりと氷に張り付けたとき。
「あのう、大仏殿はどこへ行けばいいんですか」
 聞き覚えのある、か細い声音が耳に届いて、振り返る。白いもこもこ上着を着た女性が、観光客らしき集団に話しかけていた。
 あの人、昨日私に道を聞いた人だ。
 昨日と同じ姿で、同じようなことを聞いている。聞かれた集団の二人が、地図を広げて、丁寧に女性に道案内をしていた。女性はおっとりとした笑顔で「ありがとう」というと、お参りもせずに、氷室神社から出ていってしまった。
 道をきくためだけに、ここまで入ってきたのだろうか。こんな神社のなかまでこなくても、通りには人がたくさんいるはずだ。大仏殿を示す看板も出ている。
 何より、彼女はなぜまた、大仏殿の場所を聞くのか。
「あの、すみません」
 隣から声をかけられて、とっさに「すみません」と謝った。氷待ちをしていたらしい女性にぺこりと頭を下げて、おみくじを結んでいた先生のほうへ駆け寄った。
「先生、ちょっとお尋ねしたいんですがいいですか?」
「ああ。あ、っと。その前に一つ言わせてくれ」
「はい、なんでしょう」
 おみくじを結んだ先生は、私が手に持ったままのおみくじを見て、へへへと奇妙な笑い声をあげた。
「お前、凶なんだな。幸先のよいことだ。おめでとう、凶。いいな、うらやましいぞ、凶」
「連呼しないでください、凶って。そもそも、先生も凶だったじゃないですか」
「ん? ……え」
「見てなかったんですか」
「ああ、あまり内容には興味がなく……どれだったか、私が結んだのは」
「知りませんよ」
 氷みくじを折りたたんで、さっと紐に結ぶ。折りたたむ際に「知らぬが幸せ」という文字が目に入ったが、見なかったことにした。
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