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第二章 3、渡月の、秘密
3、
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「話のつながりがよくわかりません。あ、でも、うす暗いところだと格好良く見えるっていう理屈があるのなら、納得ですね」
「喧嘩を売っているのか。自分で言うのもなんだが、私はかなり男前だと思うぞ」
「知ってます。麗しい容姿ですね」
そんな話をしているうちに、さっそくドリンクがやってきた。店員は、最低限の言葉で接客をすると、また奥へ戻って行った。
どちらも、透明なジョッキで届いた。グラスにストローじゃないんだ、と手に取ってしげしげと眺めているうちに、先生はすでにジョッキに口をつけていた。
一気に半分ほど飲み干すと、「あー」と言ってジョッキを置く。
「きみと話していると、おかしくなる」
「それは、私が正直で真っ当な人間だからですか」
「そういったことを、本気で言う辺りだ。冗談ならばわかる、救いようがある」
「……えっと、私、救いようがない?」
「ああ」
「わかりました、ではこの話はここでおしまいで。さっきの話に戻るんですが、居酒屋とファミレスってどこが違うんですか」
「知るかっ、定義なんか時代で変わるだろうが! 大体、どれだけ蝶よ花よと育てられてきたんだ。きみは、全体的にずれている。やたらと博識だったり、知的だったりするくせに、変に偏っていたり。」
やたら饒舌な先生の言葉を聞いて、胸中で首を傾げた。私がずれているのは承知のうえだ。けれど、この世にはいろんな人間がいるのだから、避難されるいわれはない。
「先生だって、結構変わってると思いますけど」
む、と言い返すと、途端に反撃がきた。
「きみと比べると、ビー玉と運動会の玉転がしの玉くらいの差がある」
「先生がビー玉なら、世間一般の人たちは消えてなくなります」
「言ったな。私は、いたって真っ当だ。どこが変わってる? 普通だろう!」
「私と一緒にいてくれるじゃないですか!」
先生は、何かを言おうと口を開いて――閉じた。掴んだままだったジョッキに口をつける。ごくごくとまた勢いよく飲み始めた。
「……その点は認めよう」
先生の声音は、いつもの冷静なものに戻っていた。
「確かに、私の行動は奇行だろう。いくら人手が欲しかったとはいえ、初対面で不快な思いをさせられたきみを、強引に雇ったのだから」
そのとき、早くも注文した品が届いた。お刺身の盛り合わせです、漬物の盛り合わせです、唐揚げです、サーモンバターの釜めしです、などなど、間違いではないかと思えるほどに、皿が並んでいく。
先生はそれを当たり前のように好みの配置に皿を置きなおし、取り皿へ自分の分を取り分け始めた。
「こういうものなんですか?」
「何がだ」
「沢山頼むんですね。これまでは、ラーメンとチャーハン、とか、定食だけ、とかだったのに」
「一品が安い分、量も少ない。お前のことだから、好きなだけ選べと言っても、わからないだの、遠慮して一品や二品しか頼まないだの、面倒くさいことをするだろう。だから、適当にチョイスした。ほら、取り皿がそこにある。食べろ」
「え。私も食べていいんですか?」
「何度も言わせるな」
食べてもいいのなら、食べてみたい。取り皿を手元に引き寄せて、先生がしたみたいに、お箸でちょこちょこと、並んだ皿から取った。釜めしは火が消えてから十分蒸らすと言っていたので、時間を確認しておかなければ。ご丁寧に、しゃもじと茶碗二つも、置いてある。
「喧嘩を売っているのか。自分で言うのもなんだが、私はかなり男前だと思うぞ」
「知ってます。麗しい容姿ですね」
そんな話をしているうちに、さっそくドリンクがやってきた。店員は、最低限の言葉で接客をすると、また奥へ戻って行った。
どちらも、透明なジョッキで届いた。グラスにストローじゃないんだ、と手に取ってしげしげと眺めているうちに、先生はすでにジョッキに口をつけていた。
一気に半分ほど飲み干すと、「あー」と言ってジョッキを置く。
「きみと話していると、おかしくなる」
「それは、私が正直で真っ当な人間だからですか」
「そういったことを、本気で言う辺りだ。冗談ならばわかる、救いようがある」
「……えっと、私、救いようがない?」
「ああ」
「わかりました、ではこの話はここでおしまいで。さっきの話に戻るんですが、居酒屋とファミレスってどこが違うんですか」
「知るかっ、定義なんか時代で変わるだろうが! 大体、どれだけ蝶よ花よと育てられてきたんだ。きみは、全体的にずれている。やたらと博識だったり、知的だったりするくせに、変に偏っていたり。」
やたら饒舌な先生の言葉を聞いて、胸中で首を傾げた。私がずれているのは承知のうえだ。けれど、この世にはいろんな人間がいるのだから、避難されるいわれはない。
「先生だって、結構変わってると思いますけど」
む、と言い返すと、途端に反撃がきた。
「きみと比べると、ビー玉と運動会の玉転がしの玉くらいの差がある」
「先生がビー玉なら、世間一般の人たちは消えてなくなります」
「言ったな。私は、いたって真っ当だ。どこが変わってる? 普通だろう!」
「私と一緒にいてくれるじゃないですか!」
先生は、何かを言おうと口を開いて――閉じた。掴んだままだったジョッキに口をつける。ごくごくとまた勢いよく飲み始めた。
「……その点は認めよう」
先生の声音は、いつもの冷静なものに戻っていた。
「確かに、私の行動は奇行だろう。いくら人手が欲しかったとはいえ、初対面で不快な思いをさせられたきみを、強引に雇ったのだから」
そのとき、早くも注文した品が届いた。お刺身の盛り合わせです、漬物の盛り合わせです、唐揚げです、サーモンバターの釜めしです、などなど、間違いではないかと思えるほどに、皿が並んでいく。
先生はそれを当たり前のように好みの配置に皿を置きなおし、取り皿へ自分の分を取り分け始めた。
「こういうものなんですか?」
「何がだ」
「沢山頼むんですね。これまでは、ラーメンとチャーハン、とか、定食だけ、とかだったのに」
「一品が安い分、量も少ない。お前のことだから、好きなだけ選べと言っても、わからないだの、遠慮して一品や二品しか頼まないだの、面倒くさいことをするだろう。だから、適当にチョイスした。ほら、取り皿がそこにある。食べろ」
「え。私も食べていいんですか?」
「何度も言わせるな」
食べてもいいのなら、食べてみたい。取り皿を手元に引き寄せて、先生がしたみたいに、お箸でちょこちょこと、並んだ皿から取った。釜めしは火が消えてから十分蒸らすと言っていたので、時間を確認しておかなければ。ご丁寧に、しゃもじと茶碗二つも、置いてある。
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