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第二章 4、渡月とお父さん
7、
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お父さんは、私が、テレビやネット、本屋や図書館で読書をすることを、嫌う。
小さいころから、お父さんが添付してくれる本が、娯楽の一つだった。
「新しい本だね。ありがとう、お父さん」
『面白そうだろう? とっても強い子のお話なんだ。渡月にも、強い子になってほしくてね』
「読んでみる。でも、実習が終わってからになるかも。余裕がなくて」
『急がないから、大丈夫だよ』
それじゃあね、と電話は切れた。
じっと携帯電話を見つめる私の表情は、ただただ強張っていた。
お父さんが送ってくれた本のタイトルは、「正義の少年」。内容を確認する気にはなれずに、メールを閉じた。お父さんが送ってくる本は、命の重さとか、生きるつらさとか、そういったものを軽視する「愚かな人間たち」が必ず出てくる。ときに、それらの人々を「正義の使者」が懲らしめたり、はたまた、天罰を下したり、法の下に無実の罪を押し付けて冤罪へ導いたりと、最後に「正義」が勝利する話ばかりだった。
ここでいう「正義」とは、言わずもがな、身勝手で自己中心的、尚且つ自分を常に被害者であると思い込む者のことをいう。
小さいころは、この本に感銘を受けた。
命は大切なのに、それを貶めるような人間たちは生きる価値さえないのだと、本で学んだからだ。例えば、好き嫌いでご飯を食べない。ゲームに夢中で睡眠時間を削る。国に権利で守られているのに義務を果たさない者。そういった人たちはすべて、生きる行為を貶める者だと思っていた。
つまるところ、道行く人々のほとんどが、その愚か者に当てはまるわけだ。
だって、本にそう書いてあったから。
生きるために生きない人間なんて、命を軽んじているのだから――だから、制裁をくだされても仕方がないのだ。そんな、狂人的な書物を、私は読み続けてきた。そして、つい今年まで、それが正しいのだと思い込んでいた。
私は、首を振って考えを振り払った。
もう、お父さんが送ってくれる本は読まない。読まなければならなくなっても、信じない。
命を軽んじているから愚か者、という考え方も。軽んじるという定義さえも。人によって異なっているし、誰が正しいというわけではない。すべての判断基準さえも、個々で違う。
ふいに、先生の顔が頭に浮かんだ。
小さいころから、お父さんが添付してくれる本が、娯楽の一つだった。
「新しい本だね。ありがとう、お父さん」
『面白そうだろう? とっても強い子のお話なんだ。渡月にも、強い子になってほしくてね』
「読んでみる。でも、実習が終わってからになるかも。余裕がなくて」
『急がないから、大丈夫だよ』
それじゃあね、と電話は切れた。
じっと携帯電話を見つめる私の表情は、ただただ強張っていた。
お父さんが送ってくれた本のタイトルは、「正義の少年」。内容を確認する気にはなれずに、メールを閉じた。お父さんが送ってくる本は、命の重さとか、生きるつらさとか、そういったものを軽視する「愚かな人間たち」が必ず出てくる。ときに、それらの人々を「正義の使者」が懲らしめたり、はたまた、天罰を下したり、法の下に無実の罪を押し付けて冤罪へ導いたりと、最後に「正義」が勝利する話ばかりだった。
ここでいう「正義」とは、言わずもがな、身勝手で自己中心的、尚且つ自分を常に被害者であると思い込む者のことをいう。
小さいころは、この本に感銘を受けた。
命は大切なのに、それを貶めるような人間たちは生きる価値さえないのだと、本で学んだからだ。例えば、好き嫌いでご飯を食べない。ゲームに夢中で睡眠時間を削る。国に権利で守られているのに義務を果たさない者。そういった人たちはすべて、生きる行為を貶める者だと思っていた。
つまるところ、道行く人々のほとんどが、その愚か者に当てはまるわけだ。
だって、本にそう書いてあったから。
生きるために生きない人間なんて、命を軽んじているのだから――だから、制裁をくだされても仕方がないのだ。そんな、狂人的な書物を、私は読み続けてきた。そして、つい今年まで、それが正しいのだと思い込んでいた。
私は、首を振って考えを振り払った。
もう、お父さんが送ってくれる本は読まない。読まなければならなくなっても、信じない。
命を軽んじているから愚か者、という考え方も。軽んじるという定義さえも。人によって異なっているし、誰が正しいというわけではない。すべての判断基準さえも、個々で違う。
ふいに、先生の顔が頭に浮かんだ。
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