須藤先生の平凡なる非日常

如月あこ

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第三章 1、最後の期間

4、

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「すみません。一月の末で、バイトを辞めます」
「それはもう聞いた! まったく」
 心なしかやや乱暴に片づけを始める先生を眺めながら、先日、先生のアトリエの郵便受けに届いていた手紙を思い出していた。
 以前、先生の執務机に茶封筒が置いてあったことがある。消印も住所もなく、明らかに何者かが侵入して置いたものだった。同封されていた私の幼いころの写真も含めて、一枚ずつライターであぶって捨てた。
 それから一か月ほど経ったころ。
 その手紙は、届いたのだ。
 やはり消印も住所もない、茶封筒だった。分厚さはほとんどなく、宛名は私になっていた。私が先生のアトリエで寝泊まりしていることを知っている者は、知り合いにはいないはずなのに、だ。
 不審に思いながら――いや、恐怖で震えながら、私はその手紙を開いた。
 なかに入っていたのは、一枚の手紙。
――「信じているよ」
 と。
 それだけ、印字されていた。その手紙を受けった翌日から、お父さんからの電話が途絶えた。あれは警告だ。
 私は、手紙を受け取ったあと、一週間考え抜いて、お父さんにメールを送った。二月から、心機一転、心を入れ替えて学業を頑張ります、と。
 一見差しさわりのない文章で、その真意を読み取ることは難しいだろう。
 それでも、あの手紙の主が――先生宛の茶封筒の送り主が、お父さんならば、十分通じるはずだ。お父さんからの連絡は、変わらずない。手紙のたぐいもあれ以降、見かけていなかった。
 先生とこうしておしゃべりするのは、二月の末まで。それで終わり。
 私はまた、これまで通りの私に戻る。
 すっかり慣れてしまった休憩室の片付けや夕食づくりをして、一緒にご飯を食べる。食事中の先生は、よくしゃべるか無口かの極端な二択で、今日は後者の日だった。
 片付けや雑務を済ませて、二階の借りている部屋へ向かった。
 確認のために、隣の部屋に新しい茶封筒がないか、異変はないかと、確認をする。何もないことを確かめると、部屋に鞄を置いて、みこちゃんから貰った袋を取り出した。
 一体なんだろう。
 確かに、誕生日でもないし、もらう理由がない。
 開けてみよう、と決心した、まさに瞬間。
 聞きなれた着信音が、鳴った。この音は、お父さんだ。
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