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第三章 4、真実
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いつだったか、先生のアトリエの二階、執務机に置いてあった封筒。私がたまたま受け取れたから、先生には見つからなかったと思ったけれど。なにも、封筒が置いてあったのが一度だけとは限らない。
確実に相手に届けたいのならば、様々な手段を選んだり、回数を重ねたりもするだろう。
ぬくもりが、手に触れた。
シーツをきつく握りすぎて感覚がおかしくなっていた手が、大きく筋張った先生の手に包まれて――少しだけ、こわばりが解けた。
振り返ると、先生と目が合う。
真剣で、痛みをこらえるような表情の先生が、こちらを見ていた。
「きみと母との関係を、ずっと聞きたかった。だが、どこから、どんなふうに聞けばいいのかわからなかったんだ」
一度、先生が視線をそらした。
だが、すぐに、また目を合わせる。何かを決意したような、意思の強さを感じた。
先生は、何かを決めたのだ。
「きみは、私を恨んでいるか」
「……え?」
「私の母は、幼いきみにとんでもない仕打ちをしただろう。言葉にするのもおぞましいような」
暖炉のある家が、脳裏によみがえる。ぱちっとはねる薪の音や、冬の香りまでが、私の身体を包んだ。けれど、それも強く握られた手の熱に、ふっとかき消される。
私がいるのは、ホテルの一室。
隣にいるのは、由紀子ではなく、先生だ。
「……全部、思い出したわけじゃないんです。でも、私は、先生のお母さまと暮らしていた時期があると思います」
知られたくなかったけれど、先生は、知っていた。
ならば、もう、話すしかない。
***
確実に相手に届けたいのならば、様々な手段を選んだり、回数を重ねたりもするだろう。
ぬくもりが、手に触れた。
シーツをきつく握りすぎて感覚がおかしくなっていた手が、大きく筋張った先生の手に包まれて――少しだけ、こわばりが解けた。
振り返ると、先生と目が合う。
真剣で、痛みをこらえるような表情の先生が、こちらを見ていた。
「きみと母との関係を、ずっと聞きたかった。だが、どこから、どんなふうに聞けばいいのかわからなかったんだ」
一度、先生が視線をそらした。
だが、すぐに、また目を合わせる。何かを決意したような、意思の強さを感じた。
先生は、何かを決めたのだ。
「きみは、私を恨んでいるか」
「……え?」
「私の母は、幼いきみにとんでもない仕打ちをしただろう。言葉にするのもおぞましいような」
暖炉のある家が、脳裏によみがえる。ぱちっとはねる薪の音や、冬の香りまでが、私の身体を包んだ。けれど、それも強く握られた手の熱に、ふっとかき消される。
私がいるのは、ホテルの一室。
隣にいるのは、由紀子ではなく、先生だ。
「……全部、思い出したわけじゃないんです。でも、私は、先生のお母さまと暮らしていた時期があると思います」
知られたくなかったけれど、先生は、知っていた。
ならば、もう、話すしかない。
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