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5.南海の秘宝
73.使えない女?!
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「……つ・か・え・な・い」
ボソッとつぶやかれた声は、コリーヌ・プランシェの心に深く突き刺さった。淡い茶髪に茶色の瞳が大きく揺れる。
剣技や学問で優秀な成績を修めて来た、ミッテルベルヌ王国の貴族プランシェ家の長女にして、知的美人として名高いコリーヌが生涯で初めて聞いた侮辱的な言葉である。
とはいえ、残念ながら言われても仕方ない惨憺たる結果が彼女の眼前に展開されていた。四季チッタ・アペルタ店の調理室での惨劇は、QA出港初日にして、既に引き起こされていたのである。
コリーヌの女性らしい白く細い美しい腕は、軽量級から重量級の武器まで使いこなす、化け物じみた力を秘めている。
また、一部の上級魔法まで使いこなすその魔力は、アレキサンドリアでも魔術学校に入校できるほどであったが、プランシェ家独特の攻撃特化(ドンと貯めてバンと吐き出す)のために、繊細な制御を不得意としており、彼女の引き起こす災害じみた事故に拍車をかけていた。
そして、コリーヌのバイト初日、自分自身がやりたかったバイトを、ひょんなことから射止めたコリーヌに付き添いながらも、内心じくじとした思いがあったクラリスでさえ、あまりの結果に同情すらわいてしまっていたのである。
「困ったわね……午後は接客に回ってもらうとしても、コリーヌさんが調理になれるまでは、お店に並ぶ商品が不足してしまいますわ」
女店主の声に小さくなるしかないコリーヌを見かねて、クラリスが口を挟んだ。
「……あの~、宜しければ私もお手伝いしましょうか? 午前中だけ……で……も」
そこまで口にしたクラリスの手を、ヒュバっと音を立てて目の前に現れた女店主が掴む。ただの店主だと馬鹿にしてはいけない。彼女もアレキサンドリア上層街の住人である以上、予備役とはいえアレキサンドリアの軍人である。魔法にかけては、下手な大国の宮廷魔術師よりも上なのだから。
「あら~、お友達冥利に尽きるわね。早速今からお願いできる?」
「えっ!」
女店主が指さしたのは、悲惨な状況になった調理室であった。
幸いにして、生活魔法と呼ばれるクリーンなどの魔法は、クラリスの得意魔法であった。
クリーン魔法展開後、三人で慌ただしく調理を行い、本店からも商品を搬入してもらって、開店時間の遅れもなかったが、開店と同時に修羅場が訪れていた。
そう、今はチッタ・アペルタが建都されて初の冬季休業である。
そして『QA』の出現に、アルべニア王国中から観光客が集まっているのではないかというくらい街は活況を呈しており、当然ここでしか食せない洗練されたデザートは、人気の的であったのだから、混雑するのは当然のことである。
「は~い、本日のおすすめケーキセット3つお待たせしましたぁ」
混雑したお客の隙間を縫うように、器用にトレイを運んでいくのもクラリスである。本人曰く、『山育ちだから木立を避けるのに慣れてるだけよ』ということであったが……
対してコリーヌは注文を受け、お金の会計を行う事を主に仕事としていた。
とはいえ、計算はレジスターなる魔動機が行ってくれるため、計算が苦手でもあまり問題はないのだが、アルベニア硬貨とアレキサンドリアの硬貨の二種類が流通し、硬貨をやり取りすることはできないので、地味にめんどくさいのである。
その為、店員ですらレジスターを使用するが、コリーヌの持ち前の記憶力と頭脳が役に立ち、レジの前で人が長時間待たされることもなく、スムーズにすすみ、大きな不満もでなかったのである。
「ふぅ、ある意味これはこれで、戦場に相通じるものがあるな……」
店舗2階の休憩室で、少し遅めの休憩をとりながら、コリーヌはつぶやいた。クラリスは午後からの自分のバイトがある為に、既に店をでている。
「あはは、これはこれで忙しいからね。貴族家のお嬢様には、きつかったかしら」
女店主の言葉に、コリーヌは瞳を閉じてゆっくりと首を横に振った。
「正直、私は戦事に役に立つ事柄のみを、今まで学ぶだけでした。それを厭う事は許されず、何も考える事なく邁進してきましたが、結局私は貴族家の娘という政治の道具でしかなかったのです。
父上に無理を言ってここに参りましたが、ここでなら私も私自身として生きられる、戦事以外のこともできるのだと判り、とてもうれしいのです。
とはいえ、レギニータの代わりになれればと、参った次第ですが、あまりにも不甲斐ない自分が情けなく、申し訳ありません」
「あはは、気にする事ないよ。あたしだってこのお店の話がくるまでは、軍で攻撃魔法の研究ばかりだったし、エリクシアとの戦役では、前線に立ったことあるけど、それはそれ、これはこれだよ。
アレキサンドリアだって、ついこの間までは、海軍の船に乗らない限りは、国から一歩でも外に出る事はできなかったんだしね。
今じゃ、昔のアレキサンドリアは、なんて堅苦しかったんだと思うくらいだけど、以外に国も簡単にかわるものよ。
こうして他国の貴族家のお嬢さんとお話できるようになったんだし、コリーヌさんの国もいつかそうなるよ」
目の前でケラケラ笑う女主人の話に、驚きつつも山深い自国の考えてみると、ほんとにそんなことができるのかと疑問にさえ思う。
「うふふ、コリーヌさんのように美人で知的な女性ができないなんてことあるの?
あたしを含めて、アレキサンドリアを変えたのは、当時10歳にもならない、たった一人の小さな女の子がきっかけだったんだよ?
それこそ、何もしないで流されるのなら、そんな女の子に負けを認めるってことだけど、良いのかな?」
いたずらっぽく笑う女店主の微笑みに、力づけられコリーヌもほほ笑むのであった。
「店長~、お食事中すいませんがヘルプお願いしまぁす」
下階からの呼び声に、あらあらと声をあげて女店主が腰をあげる。それをみて、コリーヌも腰をあげようとしたが、女店主が片手でそれを制した。
「いいのよ、コリーヌさんはきちんと休んでいてね」
笑いながら階下に降りていく女店主を見送って、コリーヌはゆっくり目をつぶりしばしの休憩をとるのであった。
ボソッとつぶやかれた声は、コリーヌ・プランシェの心に深く突き刺さった。淡い茶髪に茶色の瞳が大きく揺れる。
剣技や学問で優秀な成績を修めて来た、ミッテルベルヌ王国の貴族プランシェ家の長女にして、知的美人として名高いコリーヌが生涯で初めて聞いた侮辱的な言葉である。
とはいえ、残念ながら言われても仕方ない惨憺たる結果が彼女の眼前に展開されていた。四季チッタ・アペルタ店の調理室での惨劇は、QA出港初日にして、既に引き起こされていたのである。
コリーヌの女性らしい白く細い美しい腕は、軽量級から重量級の武器まで使いこなす、化け物じみた力を秘めている。
また、一部の上級魔法まで使いこなすその魔力は、アレキサンドリアでも魔術学校に入校できるほどであったが、プランシェ家独特の攻撃特化(ドンと貯めてバンと吐き出す)のために、繊細な制御を不得意としており、彼女の引き起こす災害じみた事故に拍車をかけていた。
そして、コリーヌのバイト初日、自分自身がやりたかったバイトを、ひょんなことから射止めたコリーヌに付き添いながらも、内心じくじとした思いがあったクラリスでさえ、あまりの結果に同情すらわいてしまっていたのである。
「困ったわね……午後は接客に回ってもらうとしても、コリーヌさんが調理になれるまでは、お店に並ぶ商品が不足してしまいますわ」
女店主の声に小さくなるしかないコリーヌを見かねて、クラリスが口を挟んだ。
「……あの~、宜しければ私もお手伝いしましょうか? 午前中だけ……で……も」
そこまで口にしたクラリスの手を、ヒュバっと音を立てて目の前に現れた女店主が掴む。ただの店主だと馬鹿にしてはいけない。彼女もアレキサンドリア上層街の住人である以上、予備役とはいえアレキサンドリアの軍人である。魔法にかけては、下手な大国の宮廷魔術師よりも上なのだから。
「あら~、お友達冥利に尽きるわね。早速今からお願いできる?」
「えっ!」
女店主が指さしたのは、悲惨な状況になった調理室であった。
幸いにして、生活魔法と呼ばれるクリーンなどの魔法は、クラリスの得意魔法であった。
クリーン魔法展開後、三人で慌ただしく調理を行い、本店からも商品を搬入してもらって、開店時間の遅れもなかったが、開店と同時に修羅場が訪れていた。
そう、今はチッタ・アペルタが建都されて初の冬季休業である。
そして『QA』の出現に、アルべニア王国中から観光客が集まっているのではないかというくらい街は活況を呈しており、当然ここでしか食せない洗練されたデザートは、人気の的であったのだから、混雑するのは当然のことである。
「は~い、本日のおすすめケーキセット3つお待たせしましたぁ」
混雑したお客の隙間を縫うように、器用にトレイを運んでいくのもクラリスである。本人曰く、『山育ちだから木立を避けるのに慣れてるだけよ』ということであったが……
対してコリーヌは注文を受け、お金の会計を行う事を主に仕事としていた。
とはいえ、計算はレジスターなる魔動機が行ってくれるため、計算が苦手でもあまり問題はないのだが、アルベニア硬貨とアレキサンドリアの硬貨の二種類が流通し、硬貨をやり取りすることはできないので、地味にめんどくさいのである。
その為、店員ですらレジスターを使用するが、コリーヌの持ち前の記憶力と頭脳が役に立ち、レジの前で人が長時間待たされることもなく、スムーズにすすみ、大きな不満もでなかったのである。
「ふぅ、ある意味これはこれで、戦場に相通じるものがあるな……」
店舗2階の休憩室で、少し遅めの休憩をとりながら、コリーヌはつぶやいた。クラリスは午後からの自分のバイトがある為に、既に店をでている。
「あはは、これはこれで忙しいからね。貴族家のお嬢様には、きつかったかしら」
女店主の言葉に、コリーヌは瞳を閉じてゆっくりと首を横に振った。
「正直、私は戦事に役に立つ事柄のみを、今まで学ぶだけでした。それを厭う事は許されず、何も考える事なく邁進してきましたが、結局私は貴族家の娘という政治の道具でしかなかったのです。
父上に無理を言ってここに参りましたが、ここでなら私も私自身として生きられる、戦事以外のこともできるのだと判り、とてもうれしいのです。
とはいえ、レギニータの代わりになれればと、参った次第ですが、あまりにも不甲斐ない自分が情けなく、申し訳ありません」
「あはは、気にする事ないよ。あたしだってこのお店の話がくるまでは、軍で攻撃魔法の研究ばかりだったし、エリクシアとの戦役では、前線に立ったことあるけど、それはそれ、これはこれだよ。
アレキサンドリアだって、ついこの間までは、海軍の船に乗らない限りは、国から一歩でも外に出る事はできなかったんだしね。
今じゃ、昔のアレキサンドリアは、なんて堅苦しかったんだと思うくらいだけど、以外に国も簡単にかわるものよ。
こうして他国の貴族家のお嬢さんとお話できるようになったんだし、コリーヌさんの国もいつかそうなるよ」
目の前でケラケラ笑う女主人の話に、驚きつつも山深い自国の考えてみると、ほんとにそんなことができるのかと疑問にさえ思う。
「うふふ、コリーヌさんのように美人で知的な女性ができないなんてことあるの?
あたしを含めて、アレキサンドリアを変えたのは、当時10歳にもならない、たった一人の小さな女の子がきっかけだったんだよ?
それこそ、何もしないで流されるのなら、そんな女の子に負けを認めるってことだけど、良いのかな?」
いたずらっぽく笑う女店主の微笑みに、力づけられコリーヌもほほ笑むのであった。
「店長~、お食事中すいませんがヘルプお願いしまぁす」
下階からの呼び声に、あらあらと声をあげて女店主が腰をあげる。それをみて、コリーヌも腰をあげようとしたが、女店主が片手でそれを制した。
「いいのよ、コリーヌさんはきちんと休んでいてね」
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