駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

文字の大きさ
208 / 349
5.南海の秘宝

75.ある日のアリアンロッド

しおりを挟む
「ふぅ、どうやら今回は無事に切り抜けたようじゃな」

 下界の様子を見ていたアリアは、やや薄い胸をほっと撫でおろした。あいも変わらずクロエが作り出した負の遺産は、アリアの胃をキリキリと締め付ける。

「それって、クロエちゃんの責任じゃなく、ただの食べ過……」

「うるさいわ! それにしても、ついにあのような時代にそぐわないものオーパーツが一般の人間の目に触れてしまうとは……」

 アリアが頭を抱えるのは、海に浮かんだ『QAクイーンアレキサンドリア』を見てからである。
 隣国どころか、アイオライト中を探しても、『QAクイーンアレキサンドリア』に対抗できる戦力はない。滑空砲弾では、ガラス部に当たらない限り、装甲すら抜けない上に、意図的に魔法障壁を解かない限り、ダメージは与えられない。

 クロエが乗艦していない状態であれば、一部の竜種や海龍などの種族であれば沈める事は可能だろうが、あの船が動くときはクロエが乗艦している。沈める事は不可能である。
 陸上戦用の魔導戦車を搭載すれば、陸・海・空・海中では人間種としては最強の戦力が、あの艦だけで集約できてしまい、アレキサンドリア以外の国の手に渡れば、それこそ世界征服などと考える王が現れてもおかしくはない。

「全く、あ奴は厄介事ばかり作り出す……」

 他国に奪われる心配を、実はアリアは心配しているようで心配していない事は、傍から見ている精霊樹にはまるわかりである。

 クロエが作り出す物のなかで、こと戦闘に使える物に関して、クロエ自身の警戒は、みていると徐々に偏執的と言って良いほどの対策が施されている。
 破壊力が高い兵器類は、本来その必要が無くてもクロエの存在を前提として製造される。
 今回の『QAクイーンアレキサンドリア』はその典型である。そもそも艦内への侵入すら不可能な状況を作り上げたうえで、艦自体が奪取された場合には、クロエ自身も含めて消滅させることも辞さない安全装置を組み込むのである。
 おそらく、アリアはクロエ自身が消滅することで安全装置とするその考え方に、危機感を抱いており、神にはありえない胃痛などをもたらすのだろうと、精霊樹は考える。

「ユーリアが成人しないと、『QAあのふね』に乗せてくれないとなると、僕の加護も発動しにくいし……」

 海上では精霊樹とはあまりにも相性が悪い。ユーリア自身が『QAあのふね』に乗船したとしても、ユーリアだけに加護を施す事が精一杯になる。精霊樹の葉を介しても、海上では影響範囲が極端に狭められてしまう。

「……確か、血はだいぶ薄くなったけど、『QAあのふね』に乗っている血族がいたよね。あの子を使うしかないか……」

 一人ごちる精霊樹を尻目に、アリアは素知らぬ顔をして緑茶をすすっているディスの言葉に、彼ををジト目でにらむ。

「言っただろうが、あ奴はそうそう死ぬことは無いと」

「アホか貴様は。身体と魂だけで、危なく精神が消滅するとこだったじゃろうが」

 ディスはジロリとアリアを見て言い放った。

「何故そこまであ奴に入れ込む? 貴様は自分自身が試験中だという事を忘れているんじゃなかろうな?」

 ディスに言われて、アリアは黙り込んだ。とはいえ、試験自体は今のところ問題なく進んでる。クロエを助けようと、干渉しそうになっては自制するという、危機的状況はあったけど。
 本来、神は地上の存在に対して干渉をすることは許されない。それは精霊樹などのように、地上に眷属をもつ上位精霊などまでが許される。神は直接地上の者に干渉せず、眷属を介して行うのである。
 そして、アリアは試験中というだけではなく、管理神は眷属をもたない。管理神はその世界の神々の調整役でもあるため、特定の者に肩入れすることは不和を招き、管理対象に混乱を引き起こすだけとなるのだから。

「それは……せっかく連れて来た面白い者を失っては退屈になるではないか。
 そんな事よりも、あそこにいたのはなんじゃ? 我々の知らない狭間の世界に生きるものか?」

 アリアの問いに、ディスは肩をすくめています。

「知らん。それに、もう考える必要はない。手下リッチを向かわせた。俺が知らん死の世界なぞゆるさん」

 なんだかんだ言って、ディスも気にしているのは事実のようだ。ただ、あの存在は精霊樹には何となくわかるような気がするものだ。
 神にまで昇華しきれていない、かといって精霊樹などの妖精や精霊ともまた違う、わずかにベクトルがずれた存在。
 死のようで真の死ではなく、闇のようで真の闇とはことなる、魂の昇華していった結果が神だとすれば、あれは消え去るべき精神の名残が沈殿してできたような存在だ。
 ディスが手下リッチを向かわせたという事は、それなりに警戒してのことだろうし、先ほどの様子では問題なく消去されることだろう。

「それにしても、クロエちゃんて変なものにばかり好かれるねぇ……」

「……それは勿論自分自身も含めての物言いであろうな?」

 アリアの小声での質問というか確認に、精霊樹はどうかなぁと素知らぬ方向をむくことでごまかす。
 海賊頭シオンとの闘いでは、シオンにより空中に投擲されたレイピアは、本来であればシオンの右胸とクロエの左胸を貫く軌道をとっていた。
 しかし、ディスの眷属であるリッチが、死の大鎌でわずかにレイピアの落下する軌道に干渉することで、クロエが致命傷を受けることを防いでいる。
 口ではなんだかんだ言いつつも、ディスですらその身を守るのだから、クロエもかなり異例の存在となっている。
 精霊樹は、はぁっとため息をつきながら独り言ちた。

「とりあえず、あの自己犠牲的な考えは止めさせられないかなぁ。多分、それが君の試験の最大の障害になると思うんだよね」

 精霊樹にとって、クロエは干渉をするに値する存在だ。居丈高で他種族を見下し、緩やかな滅びにむかっていた自分自身の眷属であるアレキサンドリアのエルフ族を救ってもらっただけではない。北の針葉樹林帯にあるエルフの村も、木々の伐採を強行しようとしていた人族からも救われている。

「北の精霊樹の娘にもお願いされてるし、もう少し積極的に動いてもいいのかもしれない……」

 精霊樹の独り言を聴きながら、傍らのディスはイチゴのショートケーキをほおばり、指についたクリームを舐めとって言う。

「あいつが不要に死の世界に干渉せぬように、こちらも監視は続けるがな。では、俺は失礼しよう。あいつが送ってきた海賊どもの処理があるからな」

 そういってディスの姿が掻き消えると、精霊樹はある事に気が付いて慌てて目の前のイチゴのショートケーキに手を伸ばした。

「あ、私のショートケーキ……」

 クロエがお供えしているものはいつも二つ。精霊樹とアリアの分であり、ディスがしょっちゅうアリアのお菓子をかすめ取っているのをしらない。そして、今日もまたディスにしてやられたようだ。

「……ケーキ……私のイチゴショートを返せ~……」

 アリアの悲痛な叫びを横目に、しっかりと自分の分をお腹に納めて、精霊樹はほっと息を吐くのであった……
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

処理中です...