駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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5.南海の秘宝

78.海賊船団壊滅の裏で……

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 ムルジア領私領船団壊滅の報が、南部エリクシアの公都ラエティヤにあるレピドゥス公爵の耳に入ったのは、新年を明けた1ヶ月後の二月初旬であった。
 例年であれば、多くの貢物をもって公都ラエティヤにある、レピドゥス公爵邸に現れるはずのムルジア領のグラナドス伯イサークであったが、今年は年を明けて2週間が経過しても現れなかったのである。
 それどころか、同じように東海岸沿いの他の領主も新年のあいさつに現れず、現れたとしても例年と異なり定められた税をわずかに超える程度納めるばかりであった。

 レピドゥス公爵は別段欲深い人物ではなかったが、東海岸の各貴族が私服を肥やし、国や侯爵家に反旗をひるがえされてはたまらない。東海岸の諸侯に通達を出し、問質といただしたことによって判明したのである。

 南洋諸島海域は、南洋諸国の香辛料や、大陸南部からもたらされる鉱石や宝石類、遼寧などの東国からもたらされる絹などを運ぶ交易船が通る、最大の海上交易路であった。

 当然それを狙う海賊は多く、当初は帝政エリクシアの交易船も襲われ被害を出していたが、海賊に私掠免許を渡すことによって、他国の交易船を襲う事を認め、略奪品の2割を所属する領主に納める事により、自領での立場を保護したのである。
 そして多くの海賊は、明日をも知れぬ命であったために、享楽的に領内の港街などでも大量に金を使うため、治安は悪いが経済は活況を呈していたのである。
 そうなれば人が集まり、さらに金も回る。海賊どもが誘拐してきた船乗りや各地の領民は、奴隷としてさらに販売・利用される。
 容易く金銭が入るとなれば、地道に農業などをしてあくせく働く者も減るが、略奪品だけでも十分な収入となる領主としては、領民の海賊化を半ば認めているところもあったのであった。

 しかし、年末のわずか2週間足らずで壊滅した私領船は30隻を超え、捕殺された海賊は1500名を超えた。これにより、12月は海賊から領主にはいる略奪品は激減。さらに、海賊が捕殺されたことにより、港街で金が使用される事もなくなり、一気に経済が衰退したのである。
 海賊行為で捕まり、殺される確率が上がれば、海賊を辞める者もでる。しかし一度楽をして稼ぐ方法を知った人々は、田畑を耕すことをしない。まして耕作を放棄され荒れ果てた畑が、以前の収穫を取り戻すには、どれだけ時間がかかるだろう。
 人々は海賊から山賊や盗賊にくら替えし、領内で活動を始めたことによりさらに東海岸の貴族領の治安は悪化したのだった。

 レピドゥス公爵としては苦虫をかみつぶしたようなものである。彼はそれなりに優秀でまともな貴族であったため、海賊行為を認めて、そのあがりをピンハネするような真似を嫌っていたので、自分自身はその真似をしなかった。

 しかし、税収の激減を国に報告するには、正当な理由が必要である。東海岸の貴族たちからは、それまで不当にため込んだ私財を没収することにして、刑吏を使わすと同時に、街道の治安維持に軍を派遣した。
 さらに、私領船団壊滅の原因を詳しく調査させたのであった。

「アレキサンドリアの『白い船』だと……」

 1隻だけ無傷でもどって着た海賊船の乗組員から入った情報は、今度はレピドゥス公爵に衝撃を与えた。
 彼はルキウス教にも批判的であったのと、ルキウス教の修道士が南部エリクシアの酷暑と湿気を嫌った事もあり、南部では信者も少なかった。その為、南部エリクシアからは第三次アレキサンドリア攻略戦には参加者はおらず、その被害もなかったのである。
 しかし、当時の王太子や教皇の死亡に伴う、東西のエリクシア領の壊滅的な打撃のきっかけとなった戦役の情報は知っていた。
 東部エリクシアと異なり、領地を接してもおらず、海上にあっても1隻だけの軍艦では戦力として数える必要すらなかったが、『白い船』はたった1隻で30隻以上の私領船を壊滅させたという事実は、衝撃的であった。

「帆を張らずに、風に逆らい海上を走る船に、空を飛ぶ新兵器だと……」

 彼にもたらされた情報は、嘘か誠かすらわからない与太話と一蹴されてもおかしくはなかったが、複数の幕僚の発言が、その証言に真実味を与えたのである。

「かの、ルキウス教の暴走により、アレキサンドリアを攻略せしめんとした際に、軍の糧秣りょうまつや武器の保管場所が、敵の姿すらなく炎上したとの報告がありました。
 当時は、日が当たったことによって自然発火したのではないかと言われておりましたが、空飛ぶ兵器があれば簡単に糧秣りょうまつの保管場所に近寄り、炎上させることが可能ではありますまいか?」

 一人の幕僚がそういえば、思い立ったように他の幕僚も口を開く。

「そういえば、その直後からクラウディウス侯爵家とアレキサンドリアを結ぶ、飛空艇なる空を飛ぶ乗り物があると聞いております。
 かの飛空艇は大型でさほど高い空を飛んではいないようですが、軍用に更に高度な空飛ぶ兵器があったとしてもおかしくはありませぬぞ」

 うなづく彼らは、こと軍事においては有能であった。それ故に、アレキサンドリアの脅威が肌身に感じられるのである。
 海賊船につまれたカノン砲の射程外から放たれる、アレキサンドリアの魔法兵器は、一瞬で海賊船を炎上させるという。空から襲われても同様である。弓や槍では攻撃の届かない高さから、ただでさえ強力なアレキサンドリア側の魔法攻撃が来る。
 そして、風のあるなしに関わらず洋上を走り、空を飛ぶ兵器は、彼らの手の届かぬ場所から、確実な死をもたらすであろう事は想像に容易かったのである。

「侯爵、差し出がましいようですが、これは帝都に連絡をして、王にご判断いただかねばならぬことかと……」

 一人の将軍の言葉に、ほぼ全ての幕僚と将軍がうなずく中、レピドゥス公爵もそれを是とするのであった。内心に、恐るべき存在と、時代の変化を感じながら……
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