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7.女王の奏でるラプソディー
14.嵐の夜に……②
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QAの飛空艇格納庫に隣接した、飛行科の待機所には、総員起こしによって集合した1番機、2番機の乗員が、壁面に設置された簡易座席に腰を掛けて待機していた。飛行科の待機所は、格納庫のほぼ中央にあり、右舷側に整備班の待機所と女性用の化粧室、左舷側に男性用のトイレと艦内への水密扉が続いている。
QAの全長百五十メートルの艦に対し、艦橋後部のデッキサイドエレベータの艦首側に、小型の飛空艇が二機、艦尾側に大型の運搬用飛空艇が一機と、格納庫のスペースは比較的小さいが、艦首側にはクロエが所有するDM2やVF1といった艦載機格納庫がある事は、飛行科には知られていないのであった。
待機室で簡易座席に座っていたライラは、座りなれない簡易座席に腰を掛けつつ、自分の相方であるディランがこの場に居ない事に気づいていた。
「……ディランは何故来ないの……?」
何気なく呟いた言葉は、隣に座る1番機2班の女性砲術士の耳に入った。彼女は正面にすわる2番機の操縦士、ランディーにたずねる。
「ランディー、貴方ディランを知らない? 機体洗浄終わってたんでしょ?」
たずねられたランディーと呼ばれた青年は、顔をしかめた。飛行科の中でも、ディランの態度は好かれているとは言えなかったのだ。当初はそうでもなかったのだが、最近は特に自分あっての飛行科、自分が飛行科のエースだと公言してはばからない態度だったのだから当然である。
「さぁな、別にあんな奴に興味はないしね。そういえば、少し前に左舷の展望デッキで騒ぎがあって、当面展望デッキのカフェテリアは閉鎖されるって話があったけど、アイツが絡んでないといいよな。さもないと、またこっちへの風当たりが強くなっちまう」
ランディーの言葉に、ライラもいたたまれなくなってしまう。実際、最近のディランは特に態度が悪い。青家の価値観としては、帆船の操帆技術が至上であり、チームワークが求められたが、飛空艇の操縦は個人の技量がモノをいう。飛行科の操縦士は6名居り、その他に大型の飛行艇の操縦士を含めても十名だ。飛空艇の操縦士で、自分こそが最上位であるとの自負が、ディランの態度に拍車をかけていたのはライラも承知していたのである。
簡易座席の座り心地の悪い座席で、ライラは更に肩身が狭く感じるたが、ランディーの言っていた展望デッキでの騒乱も気になる。さらにライラが、ランディーに問いかけようとした時に、待機所に飛行艇の操縦士たちが入ってきた。そのうちの一人ジャスパー・ロックハートは、飛行科の副班長である。
全員が着座をして、人員の点呼が行われたが、当然ディランの不在が明らかになるが、副長は特に気にかけている様子はない。そして、騒乱が発生したことと、それに伴う左舷展望デッキでの飲酒が制限された事が発表されたのであった。
「ディラン操縦士は、現在医療班の拘束病棟に留められている。理由は、砲雷科のエリオット砲術士との乱闘による負傷との事だ。恐らく、この二人には今後なんらかの懲罰が加えられると思う」
青家出身の者にとって、『海軍士官である前に紳士であれ!』とは、アレキサンドリア海軍の教育精神でもあり、最初に学ぶものだからである。
それもあって、酔ってバカ騒ぎをしても、その場限りにして後にしこりを残さないのが船乗りの伝統であったからである。無論全ての船乗りがそうではないが、狭い船内に長期間同居するのだから、根に持つような性格のものは自然に淘汰されてしまうのだ。
だが、青家以外のものにとってはそうでもない。飲酒は好きなものが飲むだけであり、自身の酒量をわきまえない者も多く、軽度のトラブルが多発していたのだ。
特に女性士官の多いQAでは、飲酒による問題は落水などの安全上の問題だけでなく、船内での嘔吐するものなどもおり、衛生上の問題ととらえられていたのである。
「おって沙汰があると思うが、艦内を汚損させたものは、勤務時間帯後の艦内清掃の義務を負わされる可能性が高い。飲酒を好む者は注意するように」
飲酒をしない物は、この手の義務を負わせないのはクロエの配慮でもある。とはいえ、飲酒以外で汚損させれば、クイーンが黙っていない可能性は高いのだが……
しかし、ライラにとっては相方の操縦士のディランに懲罰があるのは問題だが、ディランの性格を考えると、頭を抱えるしかないのも現状であった。ディランの増長は、ライラにも責任が無いとは言えないのだから。
その後の荒天準備作業は、なかなかに飛行科とはいえ乗組員の少ないQAなだけに、作業はしっかり割り当てられている。機体の固定などは整備科が行うために、飛行科は閉鎖標識にしたがって、各部の防水扉やダクトなどの閉鎖を行っていく。
閉鎖が完了された後は、飛行科・整備科はそれぞれの待機室で待機となるのだが、ワイアット航空指令から、女性乗組員は飛行科の待機室、男性乗組員は整備科の待機室で待機を命じられた。待機室の大きさは、飛行科の方が狭いので、当初女性の乗組員から不満がでたが、最終的にワイアットは部下の女性たちから、その配慮に感謝されることになった。
嵐の中、波が高くなり艦が揺れだすと、男女別に分けられた理由が判明する。多少慣れてはいたものの、揺れによる傾斜などによって、船酔いを起こす女性乗組員が多数発生したのである。
そして、それはライラも例外ではなかった。また、荒天時の個室の使用は許されず(汚水の逆流防止の為)、人数分のエチケット袋などが用意されていた。
節電により照明も非常灯にかわり、艦が傾斜する度に悲鳴があがる。とはいえ、異性の目が有る訳ではないので、阿鼻叫喚にはならず、恐怖に隣に座る者に抱き着いても同性である。泣き叫んで、多少化粧が崩れたり、恐怖による粗相があっても同性だけなら気分は大幅に楽に済む。すくなくても殿方の面前で醜態をさらすハメにならずにすんだことにより、航空指令の配慮に感謝したそうであった。
また、一部の女性乗組員は、この嵐によって多少なりとダイエットに成功したようで、嵐を抜けた後に喝采を上げる女性乗組員がいたとかいないとか言われたが、男性諸氏にはその真偽は不明なのであった……
QAの全長百五十メートルの艦に対し、艦橋後部のデッキサイドエレベータの艦首側に、小型の飛空艇が二機、艦尾側に大型の運搬用飛空艇が一機と、格納庫のスペースは比較的小さいが、艦首側にはクロエが所有するDM2やVF1といった艦載機格納庫がある事は、飛行科には知られていないのであった。
待機室で簡易座席に座っていたライラは、座りなれない簡易座席に腰を掛けつつ、自分の相方であるディランがこの場に居ない事に気づいていた。
「……ディランは何故来ないの……?」
何気なく呟いた言葉は、隣に座る1番機2班の女性砲術士の耳に入った。彼女は正面にすわる2番機の操縦士、ランディーにたずねる。
「ランディー、貴方ディランを知らない? 機体洗浄終わってたんでしょ?」
たずねられたランディーと呼ばれた青年は、顔をしかめた。飛行科の中でも、ディランの態度は好かれているとは言えなかったのだ。当初はそうでもなかったのだが、最近は特に自分あっての飛行科、自分が飛行科のエースだと公言してはばからない態度だったのだから当然である。
「さぁな、別にあんな奴に興味はないしね。そういえば、少し前に左舷の展望デッキで騒ぎがあって、当面展望デッキのカフェテリアは閉鎖されるって話があったけど、アイツが絡んでないといいよな。さもないと、またこっちへの風当たりが強くなっちまう」
ランディーの言葉に、ライラもいたたまれなくなってしまう。実際、最近のディランは特に態度が悪い。青家の価値観としては、帆船の操帆技術が至上であり、チームワークが求められたが、飛空艇の操縦は個人の技量がモノをいう。飛行科の操縦士は6名居り、その他に大型の飛行艇の操縦士を含めても十名だ。飛空艇の操縦士で、自分こそが最上位であるとの自負が、ディランの態度に拍車をかけていたのはライラも承知していたのである。
簡易座席の座り心地の悪い座席で、ライラは更に肩身が狭く感じるたが、ランディーの言っていた展望デッキでの騒乱も気になる。さらにライラが、ランディーに問いかけようとした時に、待機所に飛行艇の操縦士たちが入ってきた。そのうちの一人ジャスパー・ロックハートは、飛行科の副班長である。
全員が着座をして、人員の点呼が行われたが、当然ディランの不在が明らかになるが、副長は特に気にかけている様子はない。そして、騒乱が発生したことと、それに伴う左舷展望デッキでの飲酒が制限された事が発表されたのであった。
「ディラン操縦士は、現在医療班の拘束病棟に留められている。理由は、砲雷科のエリオット砲術士との乱闘による負傷との事だ。恐らく、この二人には今後なんらかの懲罰が加えられると思う」
青家出身の者にとって、『海軍士官である前に紳士であれ!』とは、アレキサンドリア海軍の教育精神でもあり、最初に学ぶものだからである。
それもあって、酔ってバカ騒ぎをしても、その場限りにして後にしこりを残さないのが船乗りの伝統であったからである。無論全ての船乗りがそうではないが、狭い船内に長期間同居するのだから、根に持つような性格のものは自然に淘汰されてしまうのだ。
だが、青家以外のものにとってはそうでもない。飲酒は好きなものが飲むだけであり、自身の酒量をわきまえない者も多く、軽度のトラブルが多発していたのだ。
特に女性士官の多いQAでは、飲酒による問題は落水などの安全上の問題だけでなく、船内での嘔吐するものなどもおり、衛生上の問題ととらえられていたのである。
「おって沙汰があると思うが、艦内を汚損させたものは、勤務時間帯後の艦内清掃の義務を負わされる可能性が高い。飲酒を好む者は注意するように」
飲酒をしない物は、この手の義務を負わせないのはクロエの配慮でもある。とはいえ、飲酒以外で汚損させれば、クイーンが黙っていない可能性は高いのだが……
しかし、ライラにとっては相方の操縦士のディランに懲罰があるのは問題だが、ディランの性格を考えると、頭を抱えるしかないのも現状であった。ディランの増長は、ライラにも責任が無いとは言えないのだから。
その後の荒天準備作業は、なかなかに飛行科とはいえ乗組員の少ないQAなだけに、作業はしっかり割り当てられている。機体の固定などは整備科が行うために、飛行科は閉鎖標識にしたがって、各部の防水扉やダクトなどの閉鎖を行っていく。
閉鎖が完了された後は、飛行科・整備科はそれぞれの待機室で待機となるのだが、ワイアット航空指令から、女性乗組員は飛行科の待機室、男性乗組員は整備科の待機室で待機を命じられた。待機室の大きさは、飛行科の方が狭いので、当初女性の乗組員から不満がでたが、最終的にワイアットは部下の女性たちから、その配慮に感謝されることになった。
嵐の中、波が高くなり艦が揺れだすと、男女別に分けられた理由が判明する。多少慣れてはいたものの、揺れによる傾斜などによって、船酔いを起こす女性乗組員が多数発生したのである。
そして、それはライラも例外ではなかった。また、荒天時の個室の使用は許されず(汚水の逆流防止の為)、人数分のエチケット袋などが用意されていた。
節電により照明も非常灯にかわり、艦が傾斜する度に悲鳴があがる。とはいえ、異性の目が有る訳ではないので、阿鼻叫喚にはならず、恐怖に隣に座る者に抱き着いても同性である。泣き叫んで、多少化粧が崩れたり、恐怖による粗相があっても同性だけなら気分は大幅に楽に済む。すくなくても殿方の面前で醜態をさらすハメにならずにすんだことにより、航空指令の配慮に感謝したそうであった。
また、一部の女性乗組員は、この嵐によって多少なりとダイエットに成功したようで、嵐を抜けた後に喝采を上げる女性乗組員がいたとかいないとか言われたが、男性諸氏にはその真偽は不明なのであった……
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