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7.女王の奏でるラプソディー
20.邂逅
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「行方不明者をだしてしまい、誠に申し訳ありません……」
士官が集まる会議室の中、ワイアット航空指令が頭を下げます。士官以外ではこの場に居るのはライラ砲術士だけで、彼女からも状況の説明を行ってもらいました。とはいえ……
「よりにもよって、他国からのお客人です。このまま放置するわけにもいきません」
航海長のハリーの言葉にうなづきますが、まず現地でそのまま捜索を行おうとしていたワイアット航空指令を含めた先遣隊に帰艦を命じたのは僕です。
人二人を一瞬で浚う事ができるのなら、そのまま現場に浚われる可能性のある先遣隊を残しておくわけにはいきませんからね。
「デーゲンハルト氏の言葉によれば、Aランク以上の威圧感と存在感をもち、飛空艇に搭載している警報装置を突破。油断していたとはいえ、ライラやワイアットに幻覚を見せるほどの力を持つモノが存在しているなんてね。
しかも僕たちの偵察飛行では察知されなかったんですから、魔物としてもかなりの上級種の可能性もあります」
僕の言葉に、士官はみな黙りこくりますが、さすがにここで積極論を出す人はいないでしょう……
「とにかく、すぐに捜索隊を出さなきゃまずいだろ」
……リアンは相変わらずの積極論ですね。
「夜間の捜索は危険が伴います。高台・暗闇・地形の把握も完全ではない状態では、二重遭難の危険が高くなります。その案には賛同できません」
「だからって、他国の貴族のお嬢様も含まれているんだ。探しに行かないわけにはいかないだろ」
どちらの意見にも理がありますので、一方的には結論は出せませんね。そう考えていると、タブレットに緑のランプがついています。僕はふと気づいてタブレットを操作してみました。すると……
「……捜索は明日早朝に、僕が単騎ででます。皆さんは、出港準備と二次調査の両方が可能なように準備をお願いします」
「艦長、いくら艦長でもお一人では危険です。護衛に誰かお付けください!」
「そうよクロエ、せめて私とユイは連れて行きなさい!!」
砲雷長とイリスさんから声が上がりますが、僕はやんわりとそれを拒否します。
「残念ですが、複数で行っても危険な相手です。ならば、最大火力の僕がでます。万が一の事があれば、ユイの指揮の元で航海を継続。任務を遂行してください」
僕の言葉に皆は黙り込みますが、唯一人ワイアットだけが僕に声をかけてきました。
「……艦長がそう決めたのであれば従いましょう。ですが、そう決めるきっかけとなったものを見せてはいただけませんか?」
ちっ、僕がタブレットを確認したのを見ていましたね? 仕方がありませんね、僕はタブレットに転送されていた画像を情報パネルに表示します。
「……この件については、かん口令を引きます。口外無用で、お願いしますね……」
情報パネルに映し出されたものは、金色の毛を三つ編みにして、剣を構えて立つ女性の後ろ姿と、その向こう側に映る青い鱗を持ったドラゴンでした……
*****
「……さて、直径二十メートル、深さは不明の垂直の穴ですか……やだなぁ」
偵察飛行で見つけた黒い穴の上空で、僕はつぶやきます。単騎とはいいましたが、実際にはエマとジェシーがついているので正確には三人ですね。DM2でやってきたのは、VF-1バルキリーでは、垂直上昇のコントロールが難しい点がありますし、コリーヌさんとクラリスさんを救出した後、搭乗させる余裕を持たせるためです。
垂直に落ち込む穴は、直径がさほど大きいものでは無い為に、そこまで光が届かずに暗闇の様ですね。とはいえ、いつまでもここに居てはらちがあきませんので、さっさと降下してしまいましょう。
機体のライトを点灯し、足元の透明床から底を観察しながら少しづつ降下していきますが、百メートル以上降下してもまだ底が見えません。周囲の切り立った崖は、ところどころライトの光りを反射して、青く輝く鉱石のようなものがみえます。
そのまま更に降下して、ほぼ海面より十メートルほど高い場所で、ライトに照らされた二人の人影が見えました。人影をローターに巻き込まないように慎重に離れてDM2を着陸させ、コクピットが開くのももどかしく、二人へと駆け寄りました。
「二人とも大丈夫ですか?」
僕の問いかけに、辛うじて答えてくれたのはクラリスさんです。多少憔悴しているようですが、怪我をしている様子はありませんね。コリーヌさんを見てみると、服が所々裂けて、血がついていたりしますが。その下の肌はきれいです。クラリスさんの回復魔法で、怪我は治癒されているようですね。
「私は大丈夫です。コリーヌさんは、今は疲れて眠られているだけです……」
僕はホッと息をつきます。女性の寝顔を勝手にみるのは失礼ですが、コリーヌさんは、心なしか満足しているような表情で眠っていますね。では、わざわざお二人を拉致った犯人と対決しましょうか……
僕は、クラリスさんを見てうなずくと、彼女は歌うように言葉を紡ぎます。
『Mar Azzurro, la principessa della nave bianca è venuto(マー・アズーロ、白き船の姫が参りました)』
クラリスさんの澄んだ声が、穴の底に響き渡り、しばらくすると水中から何かがやってきました。くぅ、圧倒的な存在感と威圧感……よく、みなさんこんなものに耐えられましたね。
タブレットに送られてきた写真と同じ、翼を持った四つ足のドラゴンがそこに現れましたが、正直存在感が違いますね。背中を冷たい汗が流れるのがわかります。DM2のライトに照らされて、輝く鱗は澄んだ蒼。この威圧感さえなければ、素直に綺麗だと賞賛するほどの力強さと美しさを兼ね備えています。
とはいえ、この蒼いドラゴンさんが僕の大切なお客様を拉致ったのは事実ですからね。
『Principessa della Nave Bianca, hai intenzione di dare la caccia anche a me?(白き船の姫よ、そなたも我を狩るというのか)』
「なぜ僕の友達をさらったのです?」
『「?!」』
……あれ? 蒼いドラゴンさんの声はやはり耳ではなく、直接心に響きますね。しかも、翻訳されています。えっ、白き船の姫?! 狩る?! なにそれ、知りませんよ?
ドラゴンさんも、友達をさらったとの言葉に絶句していますね。なにか、お互い勘違いをしている事があるのでしょうか?
士官が集まる会議室の中、ワイアット航空指令が頭を下げます。士官以外ではこの場に居るのはライラ砲術士だけで、彼女からも状況の説明を行ってもらいました。とはいえ……
「よりにもよって、他国からのお客人です。このまま放置するわけにもいきません」
航海長のハリーの言葉にうなづきますが、まず現地でそのまま捜索を行おうとしていたワイアット航空指令を含めた先遣隊に帰艦を命じたのは僕です。
人二人を一瞬で浚う事ができるのなら、そのまま現場に浚われる可能性のある先遣隊を残しておくわけにはいきませんからね。
「デーゲンハルト氏の言葉によれば、Aランク以上の威圧感と存在感をもち、飛空艇に搭載している警報装置を突破。油断していたとはいえ、ライラやワイアットに幻覚を見せるほどの力を持つモノが存在しているなんてね。
しかも僕たちの偵察飛行では察知されなかったんですから、魔物としてもかなりの上級種の可能性もあります」
僕の言葉に、士官はみな黙りこくりますが、さすがにここで積極論を出す人はいないでしょう……
「とにかく、すぐに捜索隊を出さなきゃまずいだろ」
……リアンは相変わらずの積極論ですね。
「夜間の捜索は危険が伴います。高台・暗闇・地形の把握も完全ではない状態では、二重遭難の危険が高くなります。その案には賛同できません」
「だからって、他国の貴族のお嬢様も含まれているんだ。探しに行かないわけにはいかないだろ」
どちらの意見にも理がありますので、一方的には結論は出せませんね。そう考えていると、タブレットに緑のランプがついています。僕はふと気づいてタブレットを操作してみました。すると……
「……捜索は明日早朝に、僕が単騎ででます。皆さんは、出港準備と二次調査の両方が可能なように準備をお願いします」
「艦長、いくら艦長でもお一人では危険です。護衛に誰かお付けください!」
「そうよクロエ、せめて私とユイは連れて行きなさい!!」
砲雷長とイリスさんから声が上がりますが、僕はやんわりとそれを拒否します。
「残念ですが、複数で行っても危険な相手です。ならば、最大火力の僕がでます。万が一の事があれば、ユイの指揮の元で航海を継続。任務を遂行してください」
僕の言葉に皆は黙り込みますが、唯一人ワイアットだけが僕に声をかけてきました。
「……艦長がそう決めたのであれば従いましょう。ですが、そう決めるきっかけとなったものを見せてはいただけませんか?」
ちっ、僕がタブレットを確認したのを見ていましたね? 仕方がありませんね、僕はタブレットに転送されていた画像を情報パネルに表示します。
「……この件については、かん口令を引きます。口外無用で、お願いしますね……」
情報パネルに映し出されたものは、金色の毛を三つ編みにして、剣を構えて立つ女性の後ろ姿と、その向こう側に映る青い鱗を持ったドラゴンでした……
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「……さて、直径二十メートル、深さは不明の垂直の穴ですか……やだなぁ」
偵察飛行で見つけた黒い穴の上空で、僕はつぶやきます。単騎とはいいましたが、実際にはエマとジェシーがついているので正確には三人ですね。DM2でやってきたのは、VF-1バルキリーでは、垂直上昇のコントロールが難しい点がありますし、コリーヌさんとクラリスさんを救出した後、搭乗させる余裕を持たせるためです。
垂直に落ち込む穴は、直径がさほど大きいものでは無い為に、そこまで光が届かずに暗闇の様ですね。とはいえ、いつまでもここに居てはらちがあきませんので、さっさと降下してしまいましょう。
機体のライトを点灯し、足元の透明床から底を観察しながら少しづつ降下していきますが、百メートル以上降下してもまだ底が見えません。周囲の切り立った崖は、ところどころライトの光りを反射して、青く輝く鉱石のようなものがみえます。
そのまま更に降下して、ほぼ海面より十メートルほど高い場所で、ライトに照らされた二人の人影が見えました。人影をローターに巻き込まないように慎重に離れてDM2を着陸させ、コクピットが開くのももどかしく、二人へと駆け寄りました。
「二人とも大丈夫ですか?」
僕の問いかけに、辛うじて答えてくれたのはクラリスさんです。多少憔悴しているようですが、怪我をしている様子はありませんね。コリーヌさんを見てみると、服が所々裂けて、血がついていたりしますが。その下の肌はきれいです。クラリスさんの回復魔法で、怪我は治癒されているようですね。
「私は大丈夫です。コリーヌさんは、今は疲れて眠られているだけです……」
僕はホッと息をつきます。女性の寝顔を勝手にみるのは失礼ですが、コリーヌさんは、心なしか満足しているような表情で眠っていますね。では、わざわざお二人を拉致った犯人と対決しましょうか……
僕は、クラリスさんを見てうなずくと、彼女は歌うように言葉を紡ぎます。
『Mar Azzurro, la principessa della nave bianca è venuto(マー・アズーロ、白き船の姫が参りました)』
クラリスさんの澄んだ声が、穴の底に響き渡り、しばらくすると水中から何かがやってきました。くぅ、圧倒的な存在感と威圧感……よく、みなさんこんなものに耐えられましたね。
タブレットに送られてきた写真と同じ、翼を持った四つ足のドラゴンがそこに現れましたが、正直存在感が違いますね。背中を冷たい汗が流れるのがわかります。DM2のライトに照らされて、輝く鱗は澄んだ蒼。この威圧感さえなければ、素直に綺麗だと賞賛するほどの力強さと美しさを兼ね備えています。
とはいえ、この蒼いドラゴンさんが僕の大切なお客様を拉致ったのは事実ですからね。
『Principessa della Nave Bianca, hai intenzione di dare la caccia anche a me?(白き船の姫よ、そなたも我を狩るというのか)』
「なぜ僕の友達をさらったのです?」
『「?!」』
……あれ? 蒼いドラゴンさんの声はやはり耳ではなく、直接心に響きますね。しかも、翻訳されています。えっ、白き船の姫?! 狩る?! なにそれ、知りませんよ?
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