駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

57.遼寧の町にて②

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 透明な湖面上に作られた建物を繋ぐ回廊。建物は朱色の柱に漆黒の板壁。窓や手すりには複雑な意匠が彫られ、湖面にはその影を映しています。
 開け放たれた窓からは、湖面を渡る風が室内を通り抜け暑気を払います。湖に浮かぶ小島には穴だらけの奇岩が配置され、緑の木々と季節の花が咲き、窓枠の中の絵画のようです。

「異国情緒というのは、こういう事をいうのですわね……」

 エリーゼさんが漏らした言葉に、僕も半ばうなづいてしまいました。

 僕たちが案内されたのは、桟橋から小舟で渡る小島に築かれた東国風の建物です。十人は座れるような長テーブルには、黒髪とグレイの髪の二人の男性が椅子に座って歓談していましたが、僕たちをみると立ち上がり軽く挨拶をしました。

「唐突なご招待を受けていただいて感謝します。私達はアレキサンドリア共和国武装商船ターコイズの船長マイルズと、専務長のシュルツと申します」

 背の高い黒髪濃茶の瞳がマイルズさん。ブルーグレイの髪色に、緑がかったグレイの瞳が専務長のシュルツさんのようですね。

「お招き頂きありがとうございます。冒険者パーティーアレキサンドライト所属、クロエです。まずは、ご用件をお聞きしても?」

 僕の言葉に、マイルズさんは苦笑いをして答えます。

「お嬢さんはせっかちですな。美しいお嬢さん方と船を見かけたので、お誘いしただけのこと。特に他意はありませんが、まずは御掛けになりませんか?」

 そう言って、ちらりと案内の店員さんを見て視線を戻します。言葉通りのナンパということもないでしょうから、いう通りにしても問題はないでしょう。

 僕たちが椅子に座ると、すぐに料理が運ばれてきます。都度運ばれてくるのではなく、一気にすべての料理が運ばれるタイプのようですね。
 残念だったのは、僕が予想していた中華料理とはだいぶ異なっていたことです。考えてみれば、地球の十六世紀ころの文明レベルのアイオライトです。南洋でとれる香辛料は、遼寧に伝わってからさほど時間は経っていないようで、四川風のような辛めの料理はまだまだ少ないようです。小籠包も千八百年代の登場ですから、残念ながらまだ存在していないようです。でも、水餃子っぽいものはありましたよ。

 グラスに飲み物が入れられ、乾杯のあとはみんなとたあいのない話をしながら食事をします。一通りの配膳が終わり、女中さんなども部屋からでると、シュルツさんがテーブルの真ん中に小さなオルゴールを置いて、蓋をあけました。
 やがてメロディーが流れると、エリーゼさんをちらりと見た後、再びマイルズさんが口を開きます。

「失礼。こちらのオルゴールは半径数メートルの盗聴手段を無効化する魔道具となっております。まずは必要な防諜対策を施すまでは、下手なおしゃべりはすべきでないと判断し、お嬢様方に無礼な態度をとったことをお詫びします。
 正直、こんな東方でお嬢様方を見かけるとは予想もしておりませんでしたが……
 お嬢様方に必要な支援を行うように言い伝えられておりますが、こちらに来られた目的をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 アレキサンドリア共和国の船は、軍艦も商船も艦首旗に円に囲まれたヘキサグラム(六芒星)を掲げています。旗のデザインは一見同じに見えますが、特定の魔道具を使うことにより、アレキサンドリアでの所属などがわかるようになっていますので、艦首旗をみればPAプリンセス・アレキサンドリアが黒家ウィンター家所属の動力付き巡洋艇であることはわかります。PA自体は軍属の艦ではありませんし、僕たちが遼寧を訪れたのも軍の作戦ではありませんので、軍の諜報部は使えませんが、本来国外に出ない黒家に対して、青家ではサポートするよう指示が出ているようですね。

 僕たちはここに来た目的、遼寧の国内の様子や政情についての確認に来たことを伝えると、マイルズさんが必要と思われる情報を教えてくれます。

「現在の遼寧は、国内の政情は安定しており、周辺国との関係も悪くはありません。過去の政変の影響は早期に払われ、国家としては前王朝に比べて安定しているといえます。
 現皇帝は楊武帝ようぶといい、前王朝では北方を抑える北斗将軍を拝命していたとのことですが、帝位についてからは腐敗していた官を一層し、軍政と朝廷を改革したやり手ですね」

 もともと遼寧では、身分の別なく成人男子は三年間の兵役があったそうです。ですが実際には、北部や東部の任にあたると、規定の三年では兵役が終わることはなく、また有力な官僚や商人などの子弟は安全な南部の兵役につき、馬賊や異民族との戦闘が多い東部や北部には一般の市民・農民が振り分けられるなど、不公平な人事も多々あったようです。

「……国民は先帝よりも現皇帝を支持していて、国内はうまくまとまっているということですね。先帝や家族はどうなったかは、把握しておりますでしょうか?」

 ユイが発した言葉は一見平静に見えますが、膝の上に置かれた手は固く握りしめられています。マイルズさんは、僕とイリスさんの顔をちらりとみると、その質問に答えます。ユイは髪や瞳の色を変えていますし、商船の乗組員さんはアレキサンドリア本国の細かい情報には疎いのですが、イリスさんと僕はある意味有名なのですぐにわかるようですね。

「お二人は知っているかどうかはわかりませんが、うちの専務長はこの国に縁があるので、事情を知っていれば教えてあげてください」

 たとえつらい内容でも、ユイなら冷静に聞いてくれることを期待して、僕はマイルズさんを促します。
 マイルズさんもユイの顔は知らなくても、僕たちのメンバーの中に元皇女がいることを思い出したのでしょう。姿勢を正して、伝えてくれました。

「……申し訳ありませんが、先帝のご家族は仙術を学ばれていた幼い第七皇女以外は……
 官の不正を正す為には皇族といえど平等をきす必要があった為に、罪に応じて処断されたと聞いています」

 つまり、先帝の時代は官僚の腐敗がひどく、皇子や皇女もそれに巻き込まれた可能性が高いですね。腐敗した官が、あえて派閥を作らせて皇位継承などで争わせていたのかもしれません。
 ユイにとっては家族の消息を再確認させられることになったかもしれませんね。むぅ、連れてこない方がよかったのでしょうか?

「……ありがとうございました。事情が知れてよかったと思います」

 ユイはそう言ってにっこり笑います。多少の無理はしてるのでしょうが、先帝とお母さん以外の家族とはあまり交流がなかったユイにとっては、他の皇子・皇女の消息はそれほどショックではないでしょう。

 すこし沈痛な雰囲気の中、エリーゼさんがすくっと立ち上がり席を外します。僕が声をかけようとすると、イリスさんが僕の腕をつねりました。そしてぼそっとつぶやきます。

「お花摘みよ……」

 あぁ、そういう事ですか。男性がお二方いますので、ここは声を開けるのはまずいですね。そう思って黙っていると騒々しい足音が聞こえて、エリーゼさんが廊下を走って戻ってきました。そして、食事中の僕の腕をつかむと、部屋から引きずりだされます。

「ちょ、ちょっと。エリーゼさん、何をするんですか。それに淑女が廊下を走るなんてはしたないですよ」

「いいから、黙って着いてきなさい。それを見れば貴女もわたくしがなぜこんなことをしているのかわかりますわ」

 ……数分後、僕の前には湖上に浮かぶ氷の上に乗った家出娘の天国Heaven of my elopement daughterの姿と、すっきりした顔をしてでてくるエリーゼさん、そして呆然としているお店の女中さん達の姿が映るのでした。

「……うん、確かに僕にも無理ですね。陶器つぼが便器のトイレとか無理だわぁ……」

 地球でも中国のトイレは、仕切り無しですからね……
 この夜、せっかくの高級宿でもあったのですが、僕たちは宿泊を辞退してPAプリンセス・アレキサンドリアの船室でゆっくり休むことにしました。
 やはり、慣れ親しんだトイレとシャワーが無いと、安心して休むことができないですよね……
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