657 / 763
新たな町へ
592話 ニングスの旅 帰り道 1
しおりを挟む馬車は走る。
その走る馬車は草原中の一本道を走る。
道と言ってもそこは整備された道ではない。
その道は他の馬車が通り、自然に出来ただけの土の道だ。
それも凸凹の多い道。
そんな道を、暁彦が改造した馬車は殆んど揺れもせず進む。
馬車に乗るのは、ニングスとその息子のレクスの二人だ。
御者はニングスが主に為るが、これからは暁彦の屋敷で親子で世話になる。
なので息子のレクスにも御者の仕事を覚えさせることにした。
それは息子のレクスも了承済みである。
なので幌馬車の御者台には、親子二人並んで馬を操りながらエンバルまでの帰り道を進む。
息子が住んでいた町を出てから一月の間で、随分と息子のレクスもこの旅に慣れてくれてたのか?
時折笑顔を見せてくれる様には為ったと思うのだが…。
それは息子の心遣いかも知れないとそう思うニングスである。
息子と離れて居たのは約5年以上の月日が流れて居た。そのせいで、いまいち息子との距離感が掴めずに居るのだが。
「ねぇ父さん」
「…なんだ?レクス」
「やっぱりこの馬車凄いね」
何回この会話をするのか?
そろそろその会話は飽きたのだが、それは言わないでおいた方が良い様だ。
空気は読めるニングスである…筈だ。
なのでこの会話が息子から出る度に苦笑いをする。
「そうだな、父さんもそう思ってるよ。レクスはよっぽど馬車が気に入ったのかい?」
「それはそうだよ! 馬車の中にお風呂とトイレがあるなんて!ビックリだよ。父さんはそうじゃないの?ビックリしないの?」
ま、信じられないよな。普通に考えればな。
なにせ俺も信じれないんだからな。
「父さんも始めは、それもう驚いたさ! ところでレクス」
「なに? 父さん」
「お前、馬の操り方、随分慣れてきてるね。これならお屋敷に戻っても、父さん旦那様に自慢出来るぞ!」
「そう?なら嬉しいけど。それにしても…ただの幌馬車なのに、中は貴族も驚く豪華な部屋ってすごいね」
話をはぐらかしたのに、またこの話だ。
だが息子が楽しそうに話すのだから、とことん付き合うぞ!と決めるニングスだ。
「ハハハ、ほんとに贅沢だよ」
「笑い事じゃないよ!父さんこれ盗賊にでも襲われでもしたら…」
「それは…多分大丈夫だとは思うぞ?」
「まあ、ちゃんと父さんの説明は聞いてるけどね」
「そうだ。それに盗賊が出そうな山道は避けてるし、結界と認識阻害をちゃんと掛けてるからね」
「そうなんだよねぇ……本当に父さんを雇ってる旦那様に早く遇って話をしてみたいな。僕とのそう年が変わらないんだろ?」
「旦那様は16才だそうだ」
「へぇ~僕と2つしか変わらないんだね」
「そう、彼は15才で屋敷を手に入れられる程の冒険者だ」
「冒険者かぁ~」
「なんだ? 憧れるか?」
「そうだね、憧れはするけど。僕には無理だろうしね。父さんの仕事を手伝いながら考えるよ」
「そ、そうか?それならゆっくり考えてくれ」
「うん、そうするよ」
そんな話を親子でしながら旅は続く。
そんな旅の中、二人の目には小さな村が見えてきた。
「ねえ、父さん」
「なんだ?」
「あの村には寄るの?」
「いや、寄らないよ?」
「どうして?」
「…どうしてか。なら、あの村で宿を取ったとしよう。だがその宿屋が粗末な部屋で風呂もなく、食事も手を付けたくないほど粗末なものだったら?」
「……あ、母さんと旅したときを思い出した」
息子のレクスが心野底から嫌な顔をした。
余程良い旅では無かったのだろう。
まあ、それは当たり前の話だが。
レクスには、そんな苦労はもう二度とさせたくはないとニングスはそう心に決めた瞬間だ。
「そうなのかい?なら、分かるだろ?この馬車の中程豪華で綺麗では無いことが」
「……父さん…」
「なんだい?」
「僕、良く分かったよ。父さんと離れて、母さんがあの村に戻る時に一緒に旅をしてんだけど。馬車も揺れてお尻も痛いし、泊まる宿屋も酷かったんだ」
「そうか、なら尚更分かるだろ?」
この馬車のには、風呂もベッドもある。おまけにアイテム鞄の中には、調理済みの食料があるし水もある。なんならお茶まで入ってる。
これほど楽な旅はない。
気を付けないと為らないのは、国に入る時の馬車の検索!これだけだ。
「分かったよ、でも僕そろそろお腹すいたよ」
「フフフそうか……ならもう少し進んで飯にするかい?」
「やった!セーフティーエリアだっけ?直ぐにあるかな?」
「ああ、この先にあるはずだ。だが、気を付けろよ。あの場所にも人は居るからね、レクスは絶対に馬車から降りたら駄目だ。分かったかい?」
「うん、任せて、もうわがまま言わないよ」
にこりと笑ってレクスは素直に頷いた。
36
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
異世界帰りの最強勇者、久しぶりに会ったいじめっ子を泣かせる
枯井戸
ファンタジー
学校でイジメを受けて死んだ〝高橋誠〟は異世界〝カイゼルフィール〟にて転生を果たした。
艱難辛苦、七転八倒、鬼哭啾啾の日々を経てカイゼルフィールの危機を救った誠であったが、事件の元凶であった〝サターン〟が誠の元いた世界へと逃げ果せる。
誠はそれを追って元いた世界へと戻るのだが、そこで待っていたのは自身のトラウマと言うべき存在いじめっ子たちであった。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる