元奴隷の半吸血鬼少女はのんびり旅をしたい

resn

文字の大きさ
1 / 22
prologue

同行者は奴隷少女

しおりを挟む
 ――どうして、こうなったのやら。



 背後から聞こえてくる、「おー、ニンゲンがいっぱいだ、スゲー」などはしゃいでいる可愛らしい女の子の声に、はぁぁ……と深い溜息を吐いているのは三十路間近らしき年齢に見える男。

 厚手の旅装の上に、煮固めた革鎧……いわゆるハードレザーを纏い、あちこちにベルトで小刀を始めとした武装を括り付けたその姿。
 それ自体は、特に珍しいという訳ではない。街を渡り歩き、大小様々な依頼を処理する冒険者……通称『渡り鳥』のごく一般的な格好だ。
 決して生存率が高いとは言えない職業にもかかわらず、装備のあちこちに奔る細かな傷跡、柄の黒ずみなど明らかに年期の入ったその装備は、男性がそれだけ生き延びてきたベテランの腕利きである事を物語っている。

 だが……その同行者は、ひどく似つかわしくない者だった。

「おい、あんまり離れるなよ、逸れるぞ」
「っと、悪いなおっさん、人の街なんて初めてだったもんで」
「おっさんじゃねぇ。俺はまだ二十九だ」
「やっぱおっさんじゃん」

 このガキ……とこめかみに血管を浮かべるも、何か手出しでもしようものならその瞬間社会的に終わるため、やり場の無い怒りを溜息として吐き出す。

「なぁ、おっさん」
「おっさんて言うな。どうした?」
「さっきから、すれ違う人が皆、変な顔で見てくるんだが……おれ、何か変か?」
「むしろ、変じゃないならビックリだわ……」

 隣を歩くの容姿を改めて確認し、再度溜息を吐く。
 この少女を拾って以来、特に街に入ってからはずっと溜息ばかりな気がしてならないと思い、さらにもう一度溜息を吐く男。



 この少女が周囲の目を引く理由……それはまず前提として、少女がとても愛らしい容姿をしているからだ。

 身長は、見た感じ140cmもあるかないかというくらいに低い。
 あどけなさが残る顔は良く整っており、コロコロと動く表情と、笑った際にちらりと覗くがまた可愛いらしい。

 そして、あまりにも目立つ真っ白な長髪。
 日に焼けて黄ばんですらいないその髪は透き通るような純白で、しかも絹糸のように細く艶やかだ。
 しかし一度も鋏を入れられた事がない様子のそれは伸び放題で、今は男性が貸したぶかぶかの外套に隠れているが、ふくらはぎあたりまでと非常に長い。

 そう、確かに愛らしい少女だ。だからこそ……


「……そりゃ、可愛い女の子が、首輪、腕輪、足輪のフル装備でおっさんと歩いていたら、目立つに決まってんだろ……」

 そう……少女は、身体に合わぬぶかぶかなサイズの、明らかにファッション用ではないガチなタイプの拘束具の輪を、その一見華奢に見える身体のあちこちに嵌めているのだ。
 それに合わせ、これまたサイズが合わぬボロボロの服。靴の代わりにとぼろ切れを足に巻いてやり、男性の外套を裾を引きずりながら纏って歩いている姿は、どう見ても……奴隷にしか見えない。

 にもかかわらず、少女はそんな格好には似つかわしくないほど無邪気で、悲壮感はまるで無い。
 見ようによっては痛々しくさえ見える自分の姿にすら無頓着で、呑気に首を傾げている。

「そうなのか?」
「そうなの。だから早くお前の服をどうにかしたくて急いでるんだろうが」

 周囲から突き刺さる視線が痛い。こちらを見てヒソヒソと何か話している奥様方が視界の端に見えて、胃のあたりがキリキリと泣き出している。

 ――あぁ、真面目に働いてコツコツ積み重ねてきた俺の評判よ、さらば。

 きっと、既にギルドには話が行っているにちがいない。そして、普段の素行やら実績やらで判断される査定もガタ落ちだろう。上がるには審査審査と鈍いくせに、下げるのだけは嬉々としており素早い組織なのだ。

 ……そんな悲観ばかりが、男性の頭の中を渦巻く。

「こっちには、おれみたいなのは居ないのか」
「ああ、居ない。ついでにこの国は、お前が居たところと違って奴隷を認可してないからな?」

 もっとも、自国内では綺麗事を言いながら、余所では私欲を満たしている連中もいるみたいだがな、と心の中でだけ吐き捨てる。

「そんなわけで、いまお前と一緒に居る俺の社会的信用は風前の灯なんだ。くれぐれも目立った行動は……」
「ん? それじゃ、さっきから気配を殺してついてきてる鎧の連中は……」
「ああ、そいつらは……」

 お? お? と驚いている……というよりは楽しそうにしている少女を肩に、いわゆるお姫様ならぬ「お米様抱っこ」の形に担ぐ。

「……この町の衛兵だな、畜生!!」

 脱兎の如く逃げ出した。天地神明に誓って悪い事などしていないはずなのに、捕まったらどう転んでもロクな事にはならないであろう世の理不尽さを嘆く。
 後ろをチラ見すると、隠れていた軽鎧の者たちが、慌てて追いかけて来ているのが見える。
 衛兵と事を構えたなど、せっかく上がったばかりのランクも格下げだなと心の中で涙を流しながら。

「あはは、ニンゲンの街って楽しいところだな!」
「どこがだよ馬鹿野郎! 本当に、どうしてこうなったんだろなぁぁあああ!?」

 男の悲痛な叫びと、無邪気にはしゃぐ少女の歓声が、通りに響き渡るのだった――……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

処理中です...