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新米冒険者の半吸血鬼少女
冒険者ギルドの朝
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ドンドンと、ドアを叩く音。
その音に目を覚まし、ノロノロと体を起こすアッシュ。
……一度早い時間に目が覚めた気がするが、どうやら二度寝してしまったらしい。
ドアの外からは、二人の少女の小声で話しているのが聴こえてくる。
……そういえば、昨夜はリスティも、ギルドに泊まったんだったな。
朝食を一緒にする約束もしていた気がする。
仕方がない、起きよう。そう思って動き出そうとした時。
「アッシュさん、起きて来ないね。どうしようお姉ちゃん、踏み込んじゃう?」
「駄目に決まってるでしょ。それに、鍵だって……」
「それもそう……あれ、開いてる」
ガチャリ、と下りるドアノブ。
開かれるドア。
そこから顔を出したのは、昨夜はもう遅いからと、ギルド職員のユスティの部屋に泊まっていたリスティ。
そんな彼女と、上半身を起こしたアッシュの目が合った。
そして……何故か、硬直しているリスティと……その後ろから顔を覗かせて、やはりこちらも固まっているユスティ。
「……あ? どうした二人とも」
まだ寝ぼけた頭で、何かあっただろうかと首を捻る。
いつでも動けるように部屋着は着ているし、部屋に特に何も変なものも無かった筈なのだが……
「……アッシュさん。私、あなたは真面目な方だと思っていたのに……」
「……は?」
何故か冷たい目でこちらを見ているユスティが、アッシュの……すぐ横を指差した。
そこには……床に点々と、昨夜はフィアがきちんと着ていたはずの、部屋着と下着が脱ぎ捨てられて転がっていた。
そういえば、今朝方に一度目覚めた際に、隣に白い少女が居たような気がする。おそるおそる毛布をめくってみると……
「うわぁぁあお前ぇぇぇぇええっ!?」
「きゃぁぁあ不潔よぉぉぉおお!?」
アッシュとリスティ、二人分の絶叫が朝の宿に響き渡った。
「……おっさん、煩いぃ……」
そんな中……二人の叫び声に目覚めたフィアが、安眠を妨害された事で不機嫌な声を上げ、目をこすりながら身を起こす。パサリと、滑り落ちる毛布。
そこには……何も身につけぬ少女の、白い裸体があったのだった。
――結局、すぐにアッシュへの誤解は解けた。
彼自身の衣服に乱れは無かったのと、フィアの体をざっと確かめた限り、無体の痕は見受けられなかったためだ。
……となれば、今回の騒ぎで最も悪かったのは。
その元凶は、朝食でまばらに人の姿が見える食堂にて、腕を組んで座るユスティの前で借りてきた猫……あるいは蛇に睨まれた蛙……のように、ガチガチに硬直して腰掛けていた。
「……それで、フィアちゃん。申し開きは?」
冷たい声に、フィアの肩がビクッと震える。
その声は、絶対に嘘は言わせないという意思が感じられた。
「……あの下着ってのが窮屈で、寝にくかった。でも、脱いだら寒かったから、あったかそうだなって思っておっさんの布団に潜り込みました」
「はい、正直でよろしい」
にっこりと笑顔を向けるユスティ。
しかし、それを見るフィアは、顔を蒼白にし、ダラダラと冷や汗を流す。
……フィアは今、笑うという行為は、本来攻撃的なものだと、師匠に聞いたのを思い出していた。
「うわぁ……お姉ちゃんめっちゃ怒ってる……」
「はぁ……ほら、朝飯の時間だからそこまでにしとけー」
救いの手は、ご飯と共にやってきた。
ギルドの食堂は朝は人手の関係で、注文した品は各自が卓に運ぶ事が原則になっていた。
そのため、そちらに行っていたアッシュとリスティが戻って来たのだ。
「……はぁ。これに懲りたら、今後裸で男性のベッドに潜り込むなんて真似は絶対にしないように。貴方は今女の子なんだって自覚して、風紀を乱すような事は自粛してください」
「……はい、ごめんなさい」
すっかりしょげたフィアの頭を、ポンポンと優しく叩くユスティ。どうやら、話はこれでおしまいとしてくれるらしい。
「……まぁ、夜中にトイレに行って戻ってきた際に鍵を掛け忘れたフィアもフィアだが」
「……うん、ごめん」
配膳しながらそう言うアッシュに、素直に謝るフィア。
「……勝手に人の部屋のドアを開けたお前らも反省しろよ?」
「う、ごめんなさい……」
「それについては、申し訳ありませんでした……」
続けて小言を貰った双子の姉妹も、フィア同様頭を下げる。
その様子に満足したアッシュが、フッと表情を緩めた。
「よし、それじゃ湿っぽいのは終わりにして、飯だ飯」
そうアッシュが宣言し、皆ようやく普段通りの雰囲気に戻り、各々自分の食器を手にし始めるのだった。
朝食に出てきたのは、茹で汁の張られたボウルに入っている、白いソーセージ。それと、結び目のような形をしたパン、プレッツェルだった。
「あれ、なんだこれ……」
「あー、フィア、これは皮は食わないんだ、ほれ」
昨夜のソーセージのようにパリッとしていない皮にフィアが苦戦していると、アッシュが対面に座っているユスティの方を指す。
そちらを見ると、フィアが手本を求めていると察してくれた彼女が、見えやすいように実践してくれた。
まず、真ん中から縦にナイフで二つに割ると、そのまま器用にナイフとフォークで皮を剥がし取ってしまった。
「……と、こんな感じです。分かりましたか?」
「わ、分かったけど……なんでこんな面倒な……」
「あはは、確かに面倒ですねぇ。でも、慣れてくると楽しくなってくるのよ」
見よう見まねで、苦戦しながらも白ソーセージと格闘を始めるフィア。そんな様子を笑いながら、リスティも自分の分のソーセージにナイフを入れている。
「あー、これは日持ちを考えていないため、燻製されていないからな」
「そうなの?」
「ああ。塩もあまり使っていない分痛みやすいから、早朝に作って、昼までには全部食うのが基本だ」
「ふーん……」
面倒だなぁと思いながらも、どうにか皮を外した白ソーセージの身を、添えられていた黄色いペーストに少し付けて、口に運ぶ。
「……っ!?」
「どうだ、食った感想は?」
「美味い、うまいぞおっさん! ふわふわしてて、なんだか良い匂いもする!」
噛んだ瞬間、じゅわっと広がる優しい肉の旨味とハーブや香辛料の風味。そこに甘めのハニーマスタードの刺激も加わって、トロンと頰が落ちそうな美味が、フィアの口の中に広がっていた。
また、一口ぶん毟って食べたプレッツェルも、実によくこの優しい味のソーセージに合うのだ。
「気に入って貰えたようでなによりです。このギルドの朝食の白ソーセージは、厳選し契約している農場の方から毎朝仕入れている物なんですよ」
「ああ、美味いと評判なんだ。ただ、普段はすぐ売り切れて、中々食えないんだよな……もうちょい仕入れられないのか?」
「ダメらしいです。朝仕事であまり量を作れないのと、あまり多く仕入れて、廃棄では勿体ないですからね」
「むぅ……」
「でも、私は偶に泊まりに来た時にしか食べられないから羨ましいわぁ」
一応街にも美味しい店はあるけど、開店する頃には私も開店の準備だしね、と愚痴を言っているリスティに、はいはい、また好きな時に泊まりに来なさいと慰めているユスティなのだった。
「それで、アッシュさんは今日はどうする予定ですか?」
この中で一番食が細く、真っ先に食べ終わってナプキンで口を拭いていたユスティが、ふとそんなことをアッシュに尋ねる。
「ん……何か、急ぎの依頼はあるか?」
「いえ、今は特に。この数日は、昼間に暇を持て余している方もちらほら居るくらいですね」
「そうか……なら、まずはフィアの冒険者登録をして、そのあと武器を見たり、魔法適正を調べ……」
そう、今日の予定を話し合っていると。
「はっ、ギルドは、いつからおままごとの会場になったんだ?」
「それとも、可愛く着飾って春を売る仕事でも始めたのか?」
聞こえよがしに届く、嘲笑の声。
フィアがプレッツェルを千切ってもぐもぐと咀嚼しながらそちらを見ると、いかにも荒事慣れしていそうな男たちが、朝から麦酒を傾けながらニヤニヤとこちらを見ていた。
「……何あれ、感じわっるーい」
「いいから、無視しろ。見た感じ傭兵上がりらしいが、こんな場所で絡んで来るやつなんか所詮三流だ」
本当に出来る連中は、一般人からの信頼と信用の大切さをきちんと理解してるからな、とアッシュ。
不満を零すリスティにそう言って、気にした風もなくソーセージを口にしているアッシュ。見渡すと、周囲の冒険者たちも特に気にした風もなく、無視を決め込んでいる。
「ふーん……そんなもんか、分かった」
アッシュの言葉に、それっきり男たちへの興味を無くしたフィアが、食事を再開する。
反応が無いと知ると、チッと舌打ちして、席を立つ男たち。その様子に、酒場での荒事慣れはしていないリスティが、ホッと安堵の息を吐く。
「……最近、冒険者登録された方ですね。まだフィアさんと同じく仮登録の筈ですが」
「仮登録……?」
「冒険者ギルドの依頼ってのは基本、依頼者とのコミュニケーションが大事になるからな。特に掲示板ではなく依頼者から直接内容を聞く場合、依頼内容の把握やら、報酬の交渉やらでな」
「そのため、新人登録された冒険者は二ヶ月間、指導役のC級以上の冒険者と行動を共にし、教えを請う事になっているのです」
そうして依頼者への対応などを実地で学び、ギルドに本登録してもいいと認められて初めて、最下級のFランクとして登録されるのだそう。
「フィアの場合、その指導役は俺だな」
「へぇ……それじゃ、おっさんは二人目の師匠になってくれるのか」
「……師匠、ってのは仰々しくて照れ臭いな。あとおっさんはやめろ」
嬉しそうに師匠、師匠と呼ぶフィア。
アッシュはその頭をグリグリ撫でながらふざけ合っていると。
「ただ……傭兵などでバリバリ戦っていた方々の中には、あのように自分が教えを請う側だという事が不服で、周囲に当たり散らす方々が少数いるんです……くれぐれも、注意してください」
「あぁ……連中、戦闘力は冒険者の中でも高いからな」
「はい……私たちの仕事は戦う事そのものではなく、問題を解決する事だと理解して頂けるといいのですけどね……」
ふぅ、と溜息を吐くユスティ。
「フィア、確かにお前は強い。だけど、くれぐれもその辺りを履き違えないようにな」
「……うん、わかった」
アッシュの真剣な表情に、フィアも改めて気を引き締め、頷くのだった。
その音に目を覚まし、ノロノロと体を起こすアッシュ。
……一度早い時間に目が覚めた気がするが、どうやら二度寝してしまったらしい。
ドアの外からは、二人の少女の小声で話しているのが聴こえてくる。
……そういえば、昨夜はリスティも、ギルドに泊まったんだったな。
朝食を一緒にする約束もしていた気がする。
仕方がない、起きよう。そう思って動き出そうとした時。
「アッシュさん、起きて来ないね。どうしようお姉ちゃん、踏み込んじゃう?」
「駄目に決まってるでしょ。それに、鍵だって……」
「それもそう……あれ、開いてる」
ガチャリ、と下りるドアノブ。
開かれるドア。
そこから顔を出したのは、昨夜はもう遅いからと、ギルド職員のユスティの部屋に泊まっていたリスティ。
そんな彼女と、上半身を起こしたアッシュの目が合った。
そして……何故か、硬直しているリスティと……その後ろから顔を覗かせて、やはりこちらも固まっているユスティ。
「……あ? どうした二人とも」
まだ寝ぼけた頭で、何かあっただろうかと首を捻る。
いつでも動けるように部屋着は着ているし、部屋に特に何も変なものも無かった筈なのだが……
「……アッシュさん。私、あなたは真面目な方だと思っていたのに……」
「……は?」
何故か冷たい目でこちらを見ているユスティが、アッシュの……すぐ横を指差した。
そこには……床に点々と、昨夜はフィアがきちんと着ていたはずの、部屋着と下着が脱ぎ捨てられて転がっていた。
そういえば、今朝方に一度目覚めた際に、隣に白い少女が居たような気がする。おそるおそる毛布をめくってみると……
「うわぁぁあお前ぇぇぇぇええっ!?」
「きゃぁぁあ不潔よぉぉぉおお!?」
アッシュとリスティ、二人分の絶叫が朝の宿に響き渡った。
「……おっさん、煩いぃ……」
そんな中……二人の叫び声に目覚めたフィアが、安眠を妨害された事で不機嫌な声を上げ、目をこすりながら身を起こす。パサリと、滑り落ちる毛布。
そこには……何も身につけぬ少女の、白い裸体があったのだった。
――結局、すぐにアッシュへの誤解は解けた。
彼自身の衣服に乱れは無かったのと、フィアの体をざっと確かめた限り、無体の痕は見受けられなかったためだ。
……となれば、今回の騒ぎで最も悪かったのは。
その元凶は、朝食でまばらに人の姿が見える食堂にて、腕を組んで座るユスティの前で借りてきた猫……あるいは蛇に睨まれた蛙……のように、ガチガチに硬直して腰掛けていた。
「……それで、フィアちゃん。申し開きは?」
冷たい声に、フィアの肩がビクッと震える。
その声は、絶対に嘘は言わせないという意思が感じられた。
「……あの下着ってのが窮屈で、寝にくかった。でも、脱いだら寒かったから、あったかそうだなって思っておっさんの布団に潜り込みました」
「はい、正直でよろしい」
にっこりと笑顔を向けるユスティ。
しかし、それを見るフィアは、顔を蒼白にし、ダラダラと冷や汗を流す。
……フィアは今、笑うという行為は、本来攻撃的なものだと、師匠に聞いたのを思い出していた。
「うわぁ……お姉ちゃんめっちゃ怒ってる……」
「はぁ……ほら、朝飯の時間だからそこまでにしとけー」
救いの手は、ご飯と共にやってきた。
ギルドの食堂は朝は人手の関係で、注文した品は各自が卓に運ぶ事が原則になっていた。
そのため、そちらに行っていたアッシュとリスティが戻って来たのだ。
「……はぁ。これに懲りたら、今後裸で男性のベッドに潜り込むなんて真似は絶対にしないように。貴方は今女の子なんだって自覚して、風紀を乱すような事は自粛してください」
「……はい、ごめんなさい」
すっかりしょげたフィアの頭を、ポンポンと優しく叩くユスティ。どうやら、話はこれでおしまいとしてくれるらしい。
「……まぁ、夜中にトイレに行って戻ってきた際に鍵を掛け忘れたフィアもフィアだが」
「……うん、ごめん」
配膳しながらそう言うアッシュに、素直に謝るフィア。
「……勝手に人の部屋のドアを開けたお前らも反省しろよ?」
「う、ごめんなさい……」
「それについては、申し訳ありませんでした……」
続けて小言を貰った双子の姉妹も、フィア同様頭を下げる。
その様子に満足したアッシュが、フッと表情を緩めた。
「よし、それじゃ湿っぽいのは終わりにして、飯だ飯」
そうアッシュが宣言し、皆ようやく普段通りの雰囲気に戻り、各々自分の食器を手にし始めるのだった。
朝食に出てきたのは、茹で汁の張られたボウルに入っている、白いソーセージ。それと、結び目のような形をしたパン、プレッツェルだった。
「あれ、なんだこれ……」
「あー、フィア、これは皮は食わないんだ、ほれ」
昨夜のソーセージのようにパリッとしていない皮にフィアが苦戦していると、アッシュが対面に座っているユスティの方を指す。
そちらを見ると、フィアが手本を求めていると察してくれた彼女が、見えやすいように実践してくれた。
まず、真ん中から縦にナイフで二つに割ると、そのまま器用にナイフとフォークで皮を剥がし取ってしまった。
「……と、こんな感じです。分かりましたか?」
「わ、分かったけど……なんでこんな面倒な……」
「あはは、確かに面倒ですねぇ。でも、慣れてくると楽しくなってくるのよ」
見よう見まねで、苦戦しながらも白ソーセージと格闘を始めるフィア。そんな様子を笑いながら、リスティも自分の分のソーセージにナイフを入れている。
「あー、これは日持ちを考えていないため、燻製されていないからな」
「そうなの?」
「ああ。塩もあまり使っていない分痛みやすいから、早朝に作って、昼までには全部食うのが基本だ」
「ふーん……」
面倒だなぁと思いながらも、どうにか皮を外した白ソーセージの身を、添えられていた黄色いペーストに少し付けて、口に運ぶ。
「……っ!?」
「どうだ、食った感想は?」
「美味い、うまいぞおっさん! ふわふわしてて、なんだか良い匂いもする!」
噛んだ瞬間、じゅわっと広がる優しい肉の旨味とハーブや香辛料の風味。そこに甘めのハニーマスタードの刺激も加わって、トロンと頰が落ちそうな美味が、フィアの口の中に広がっていた。
また、一口ぶん毟って食べたプレッツェルも、実によくこの優しい味のソーセージに合うのだ。
「気に入って貰えたようでなによりです。このギルドの朝食の白ソーセージは、厳選し契約している農場の方から毎朝仕入れている物なんですよ」
「ああ、美味いと評判なんだ。ただ、普段はすぐ売り切れて、中々食えないんだよな……もうちょい仕入れられないのか?」
「ダメらしいです。朝仕事であまり量を作れないのと、あまり多く仕入れて、廃棄では勿体ないですからね」
「むぅ……」
「でも、私は偶に泊まりに来た時にしか食べられないから羨ましいわぁ」
一応街にも美味しい店はあるけど、開店する頃には私も開店の準備だしね、と愚痴を言っているリスティに、はいはい、また好きな時に泊まりに来なさいと慰めているユスティなのだった。
「それで、アッシュさんは今日はどうする予定ですか?」
この中で一番食が細く、真っ先に食べ終わってナプキンで口を拭いていたユスティが、ふとそんなことをアッシュに尋ねる。
「ん……何か、急ぎの依頼はあるか?」
「いえ、今は特に。この数日は、昼間に暇を持て余している方もちらほら居るくらいですね」
「そうか……なら、まずはフィアの冒険者登録をして、そのあと武器を見たり、魔法適正を調べ……」
そう、今日の予定を話し合っていると。
「はっ、ギルドは、いつからおままごとの会場になったんだ?」
「それとも、可愛く着飾って春を売る仕事でも始めたのか?」
聞こえよがしに届く、嘲笑の声。
フィアがプレッツェルを千切ってもぐもぐと咀嚼しながらそちらを見ると、いかにも荒事慣れしていそうな男たちが、朝から麦酒を傾けながらニヤニヤとこちらを見ていた。
「……何あれ、感じわっるーい」
「いいから、無視しろ。見た感じ傭兵上がりらしいが、こんな場所で絡んで来るやつなんか所詮三流だ」
本当に出来る連中は、一般人からの信頼と信用の大切さをきちんと理解してるからな、とアッシュ。
不満を零すリスティにそう言って、気にした風もなくソーセージを口にしているアッシュ。見渡すと、周囲の冒険者たちも特に気にした風もなく、無視を決め込んでいる。
「ふーん……そんなもんか、分かった」
アッシュの言葉に、それっきり男たちへの興味を無くしたフィアが、食事を再開する。
反応が無いと知ると、チッと舌打ちして、席を立つ男たち。その様子に、酒場での荒事慣れはしていないリスティが、ホッと安堵の息を吐く。
「……最近、冒険者登録された方ですね。まだフィアさんと同じく仮登録の筈ですが」
「仮登録……?」
「冒険者ギルドの依頼ってのは基本、依頼者とのコミュニケーションが大事になるからな。特に掲示板ではなく依頼者から直接内容を聞く場合、依頼内容の把握やら、報酬の交渉やらでな」
「そのため、新人登録された冒険者は二ヶ月間、指導役のC級以上の冒険者と行動を共にし、教えを請う事になっているのです」
そうして依頼者への対応などを実地で学び、ギルドに本登録してもいいと認められて初めて、最下級のFランクとして登録されるのだそう。
「フィアの場合、その指導役は俺だな」
「へぇ……それじゃ、おっさんは二人目の師匠になってくれるのか」
「……師匠、ってのは仰々しくて照れ臭いな。あとおっさんはやめろ」
嬉しそうに師匠、師匠と呼ぶフィア。
アッシュはその頭をグリグリ撫でながらふざけ合っていると。
「ただ……傭兵などでバリバリ戦っていた方々の中には、あのように自分が教えを請う側だという事が不服で、周囲に当たり散らす方々が少数いるんです……くれぐれも、注意してください」
「あぁ……連中、戦闘力は冒険者の中でも高いからな」
「はい……私たちの仕事は戦う事そのものではなく、問題を解決する事だと理解して頂けるといいのですけどね……」
ふぅ、と溜息を吐くユスティ。
「フィア、確かにお前は強い。だけど、くれぐれもその辺りを履き違えないようにな」
「……うん、わかった」
アッシュの真剣な表情に、フィアも改めて気を引き締め、頷くのだった。
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